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異世界旅行記 ~異文化交流って大変だね~  作者: えろいむえっさいむ
2章【現代日本における異世界人及び文化の受け入れに関する問題点】
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57・地獄の一丁目

前話のあらすじ「キスで浮かれてたらイカツイおっさんに拉致られた」



※この先の監獄の場面は「EGコンバット」という1992年のライトノベルを参考にして書かれています。

 内容はパクらないようにかなり気を付けたつもりですが、展開の色々なところが似通っています。予めご了承をください。

 また、もし私の書いた表現が少しでも気に入ってくれたのなら、かの作品の3巻のご購入をお勧めします。私の小説の当社比3600倍は面白いです。どうぞよろしくお願いします m(_ _)m



 EGFマダー?

 帝国に限った話でもないが、牢獄という物は概ね三つある。


 ちょっと激しい乱闘騒ぎや官憲に対する暴力事件なんかを起こした輩はだいたい「共同房」送りになる。石壁に囲まれたそこそこの大きさの部屋で、鉄格子でぴっしり閉じられている。小さな窓が一つだけ開いており、唯一外の景色を確認することができる。珍獣を閉じ込めておく檻に布団と糞壺を置けばそのまま共同房と同じ見た目になる。共同、との名に相応しく、中には数枚の薄っぺらい座布団みたいな布団があり、最大で10人ほど、小さい物でも3人くらいは雑魚寝できるようになっている。排泄は端っこに置いてある糞壺で行うしかない。見るも悍ましいほど汚れているのは仕方ない、そういうものだからだ。これが共同房の臭いの源泉になっている。非常に臭い。こんなところに誰だって長時間いたくはない。


 ここで一番気をつけるべきなのは同居人との協調である。誰もいない房に一番乗りで入ったなら問題ないが、大抵の場合おっかないおっちゃんの一人や二人が先に住み着いている。全員一枚ずつ使うべき布団をそのおっちゃんが複数ガメていたり、看守の方がなにか気を使うような素振りを見せていたら間違いない、その人こそその共同房の主だ。そういう牢名主のような人物がいる共同房は要注意である。一番正しい対応策としては、酒の一本なり巻きタバコを1ダースなり渡すのがベストなのだが、共同房に入れられるようなワルっぷりを見せる輩は、大抵そこで(かぶ)いてしまう。自分ほどのワルこそが共同房で一番偉い、と。しかも今まで警邏隊の面々に散々犯罪者扱いされて鬱憤が溜まっている犯罪者は、共同房に入れられた瞬間から大抵気が大きくなるものだ。それでも多少の戯言や珍行動は見逃されるだろう。しかし、やり過ぎて牢名主の眉根がピクリとでも動いたら最後だ。その日の夜は大量の青痣でまともに寝れなくなるに違いない。痣だらけになった体で縮こまりながら、夜の寒さに身を震わせる。その惨めな姿を見た時の牢名主の決め台詞はこうだ。「体中痣だらけで温かいだろう? よかったな」そう言われて布団なしで石畳に直接寝る羽目になるのだ。普通にキツイ。時期によっては凍死もありうる。みんな気をつけよう。


 さて、ここまでは普通の犯罪者の話だ。もっとハイブローなワルを自認するあなたに朗報です。ここでご紹介するのはさらに厳しい「監獄」だ。集団の計画強盗や軍事的に使う魔術具の横流し、危険な魔獣の育成なんかをした人たちが対象のすこぶる厳しい牢屋だ。ここは共同房なんかよりだいぶ厳しい。パッと見は共同房にも似ているところがある。鉄格子ではなく分厚い木の扉であるとか、広さは一人住まいの狭いアパートくらいの大きさだとか、共同ではなく個人用の牢屋であるとか細かい違いはあるけれど、石畳で寒くて薄暗くて過ごしづらい、と言う意味では共同房と同じだ。むしろ一人一人につき個室が与えられる分、プライバシーと言う観点から見たら監獄の方が上等かもしれない。布団も薄っぺらい毛布をきちんと一枚与えられるし、怖いおっちゃんにリンチや性的暴行を受けることもない。なるほど、天国のような場所だ。などと思っている者は監獄というものをわかっていない。監獄での生活で最も辛いのは孤独だ。狭い場所に閉じ込められて薄暗い部屋の中、外からの情報を遮断された場所に閉じ込められると、人間の精神というのは思っている以上に悪い影響を受ける。情報不足というものに人間の精神は意外なほど脆い。そしてそのことを分かっている看守側は意地が悪いことに、受刑者をより苦しめるべくわざと窓を設置していない。今が昼か夜かもわからず、自分が何日閉じ込められているかも把握できない。そしていつこんな地獄から出られるかも予想付かない、怖いおっちゃんでもいいから誰か話し相手がほしい。そんな状況に1週間もいれば、大抵の受刑者は一種の心神喪失状態になってしまう。いわゆる「牢屋ボケ」と言う奴だ。外からの情報を心の底から欲しているのに、外の情報を異常なほど恐怖してしまう現象だ。長期にわたって監獄暮らしをした者は、そのまま病院に入れられることも多い。良いことなのか悪いことなのかわからないが、長い監獄暮らしで一度精神をやらかした人間は二度と悪事を働かなくなる。病院の人の善意に触れて心を改めるか、そのまま首をくくって自分の人生を終わらせるかするからだ。悪人を減らすという意味ではとても順当な施設なのかもしれない。


 と、ここまで説明されると「極悪犯罪者は全員監獄送りでいいじゃないか」と考えるだろう。もしくは「これ以上悪いことをする輩は全員死刑が妥当」という意見も出るに違いない。その考えは全くもって正しい。計画殺人や重要施設の破壊活動、邪教の広宣流布に貴族の誘拐や暴力事件なんかは、確かに全員死刑でいいという考えになる。裁判なんて必要ない。当然だ。ここまで事が重大になってしまうと、そんな重犯罪者は処刑するしか道は残されていない。監獄に長期拘留して改善を促すにしても、釈放されたときの受け皿がない。殺してしまった方がいっそ優しい対応なのかもしれない。


 ただ、何事にも例外はある。


 共同房や監獄送りを軽々すっ飛ばしてどう考えても処刑台へ着地する流れなのに、様々な政治的横やりや被疑者の身分や能力によって逆風が吹き、気付くと処刑の一歩手前に着地する、ということが極稀に存在する。そして普段は埃を被っているくせに、こういう問題児を入れるための牢獄と言うのも存在する。


 場所は帝都の城の地下、極悪な罪人などを入れておくための監獄を横目に通り抜けると、さらに地下へと繋がる階段がある。見張りはいない。この先に入れられた者はまず間違いなく脱獄ができないため必要ないのだ。そのため掃除も行き通っていない。文字通り埃を被っている通路を抜けると行き止まりにたどり着く。その行き止まりの壁にはそれぞれ不思議な球体がはめ込まれており、その3つ球体の上には分厚い辞書が一冊通り抜けられる程度の穴が一つ一つに開いている。パッと見でここが牢屋の一種だ、と言われても誰もわからないだろう。


 ここは「魔術牢」。


 この魔術牢に入れられる人間はみな最初は戸惑う。素っ裸にされて魔力を奪う首輪をつけられたとても惨めな姿で監獄の前を歩かされ、階段を降りると埃まみれの通路を歩かされ、行きついた先がなぜか行き止まり。かと思って困惑していると、先導している看守がその行き止まりにある球体に魔力を込めたら、行き止まりかと思っていた壁が音もなく開いて牢屋の入り口が開かれる。予想外に真っ白で清潔な部屋に驚いている間もなく、ここまで先導してくれた看守によるここでの生活の簡素な説明がなされる。魔術牢での滞在期間の確認、排泄は部屋の隅の小さな穴の中へ、食事は一日一回、一部図書の貸付のこと、自殺と自慰行為の禁止、この禁止行為を守れなさそうな者は事前に行ってもらえば手を縛ってくれるサービス付きであるらしい。看守の気分が良い日だったら「定期的に体を動かすこと」とアドバイスしてくれる。またあまりに目に余る行動が見られた場合、看守権限で罰則が与えられる旨が伝えられる。


 短い説明が終わると、受刑者の質問は一切無視して看守は帰っていく。その際、壁にある球体を操作して壁を閉じてしまう。そうすると受刑者としては、真っ白い壁に囲まれるだけの部屋の中に置き去りにされることになる。こんな場所に長い間入れられた者は、まともな人間であればまともであるほど正気を失いかねない。大抵は頭を壊すか体を壊すかして、刑期を全うする前にドクターストップがかかり、受刑者用の病棟送りになる。そしてよほど運が良くない限りは元に戻らなくなる。刑期を全うし、かつまともな精神状態で出ることができた者もいるにはいるが、その最長期間は「6日」とされている。どれほど過酷な場所なのかは想像に難くない。なので死刑の一歩手前の量刑としては、概ねその当たりが妥当な限界だと考えられている。




…………




 何が何だか分からないうちに魔力封じの首輪と手枷で両手を縛られ、イカツイおっさん達に拉致された悟は、不自由な思いをしながら馬車で荷物のように運ばされ、気がついたら裁判所の真ん中に立っていた。待合室にいる間に教えてもらったが、略式裁判にかけられるらしい。


 略式、という言葉に嘘はなかった。


 裁判はわずか20分で終わった。いろいろ準備に手間取っていた割には物凄い速さで終わってしまい、「あれ、裁判ってこんなもんだっけ?」と呆気にとられてしまった。裁判所にはディート師がいて、どうやら弁護人として発言してくれていた。裁判の時間のうち10分はディート師の弁護人側の供述であった。「サティ氏は特殊な事情があったため、仕方ない処置だった」とか「彼の有用性は帝国に繁栄をもたらす」などと言ってくれてたのが嬉しかったし、なんとか助かるのではないかと期待もした。しかし実際は弁護人の発言はそれだけしか許されず、あとは裁判官と検察官の独壇場だった。異世界語での裁判はさすがに内容がわからなかったが、以前アイツァから聞いていた「生誕地詐称」がこの裁判の理由らしいことがなんとかわかった。なんとか情報を得たと思ったときには、すでに裁判もあれよあれよといううちに終わってしまい、気付いたら素っ裸にひん剥かれて引っ張られていた。恥ずかしがる暇などない。城の地下へと歩かされ、監獄の中の囚人たちに見られて恥ずかしい思いをし、埃だらけの空気にせき込みつつ白い部屋へ入れられた。どうやらここが牢屋らしい。最初見た時の感想は、家具さえあれば生活できそうな部屋だな、と思った。それくらい清潔で綺麗な白い部屋だったのだ。牢獄の中に放り込まれ、看守にいろいろ説明され、「暇なら体が鈍らないように運動するように」と命令口調で言われた。最後に、いつまでこの牢屋に居ればいいのかを教えられた。


 受刑期間は「"100"日」らしい。10進法で言えば64日である。


 その時の悟は「結構長いなぁ、アイツァやディート師が本当に助けてくれないとまずいなぁ」と気楽な事を考えていた。「また日本に帰るの遅くなっちゃうなぁ」と今の状況をまるで理解していない。そんな悟の収監生活はこのようにして始まった。

次話「監獄暮らし初日」

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