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異世界旅行記 ~異文化交流って大変だね~  作者: えろいむえっさいむ
1章【異世界における異文化交流についての課題と考察、及びその実践】
13/181

13・長いトンネルを抜けると、そこは普通の街だった

前話のあらすじ「脱・引きこもり」

 自分は手ぶらでいいのか、と悟が尋ねると、アイツァに「怪我人が荷物なんて持てるのか」と真顔で返された。正論である。


 とはいえ、自分より小柄な女の子が大荷物を抱えているのに男が手ぶらでは面子にかかわると、悟は食い下がると、水の入った革袋を右肩に背負うように持たされ、空の革袋を腰に巻きつけるように背負わされた。

 あとアイツァと同じような黒いローブを渡されて羽織るように指示された。悟は痛む左肩を気にしつつ、左手一本で苦戦しながらもローブを羽織ろうとした。


 ローブをうまく付けることができずにあたふたしていると、ローブの内側になんらかの刺繍がびっしりされているのが見えた。

 表側は黒一色の素っ気ないデザインなのに、内側は派手とは変な感じである。もしかして裏表逆なのかな、と思ってアイツァに聞くと、違うと答えが返ってきた。


『裏側の刺繍は魔術回路なり。魔術士のローブは、一種の魔術具であるがゆえ。そして自らが行使する魔術回路は秘匿すべきもの、内側を表に晒すなど阿呆のすることなり』


 呆れた顔をしたアイツァがそういった。

 なるほど、あの陰気なコートは変わったファッションじゃなくて魔術師にとって自衛のためのものだったらしい。

 魔術師なりたてほやほやが知らないのは仕方ないだろ、と念話で小さく文句を言うと「それもそうか」とクスリと笑われた。誠に遺憾である。


 悟がコートを被ったのを見ると、アイツァは「行く」と異世界語で告げて先導して歩き出す。

 悟も慌ててついていく。相変わらず鬱蒼とした森の中であるが、アイツァは大荷物を抱えているにもかかわらず慣れたようにさっさと歩いていく。

 ほぼ手ぶらの悟の方がよっぽど遅い。さっそく息が切れ始めた悟は、街に着くまであと何時間歩くんだろうと悲観していると、先に歩いていたアイツァがある樹の前で立ち止まっていた。すぐに追いつく。


 目の前にある樹は周囲にある樹より一回りほど幹が太かった。

 そしてその根元にはぽっかりと空洞が開いており、その先は深そうな穴があった。

 もしかして、と悟は考えていると、アイツァは予想通りの答えをくれた。


『この洞穴(ほらあな)に入るべし。しばしの間、洞窟行脚となる』


 というとアイツァはコートの内側を触って樹の洞に向かって右手を向ける。

 おそらく風の魔術を使ったのだろう。台風の直撃を受けたような強風がアイツァの右手から洞窟の奥深くに向かってビュービューと吹き込んでいく。

 しばらく送風したあと、悟に向って「火の魔術具を返して」と言ってきたので、指輪を小指から外して素直に返した。

 アイツァは指輪を嵌めると火を付けて、狭い樹の根の間を器用に潜り抜けて洞窟の中へと降りていく。


 悟はおっかなびっくり追いかけて洞窟の中へと降りていくと、洞窟の中は意外と広かった。

 大人が両腕を広げても届かないくらいの幅と、ジャンプしない限り届かなそうな高い天井が延々奥まで続いていた。

 悟が物珍しそうに洞窟を眺めていると、アイツァはさっさと先導して歩き出してしまった。慌てて悟はついていく。


 森の中と違って洞窟の中は歩きやすかった。ほぼ等間隔の穴の幅で真っ直ぐ続いているからだ。自然の洞窟とは思えなかった。


 歩きやすいので自然とアイツァに色々念話で聞いてみた。アイツァも暇潰しにちょうど良かったのだろう、悟の途切れない質問に丁寧に答えてくれた。


『火の魔術使って大丈夫なの? 酸欠とかならない?』


『心配は無用なり。火を発現する魔術なれど、魔力を用いて火を灯しておるゆえ、空気を汚すことなし』


 ……魔術めっちゃ便利。


『この洞窟広いけど、魔物とか住んでたりしない? というかこの洞窟は人工のものだよね?』


『然り、我が師が作りし洞窟で、全体に巨大な魔術回路が仕込まれておる。この洞窟は一種の魔術具なりて、人以外が此方に入れば、魔力を吸われて枯れ果てる』


 ……魔術めっちゃ怖ぇ。


『この洞窟途中で崩落とかしてないよね?』


『それもまた心配無用なり。魔力の通っておる魔術回路は、その魔力の量に応じて堅固となる。我が定期に魔力を込めておるうえ、獣から吸い上げたものもある。そうそう崩れはせん』


 ……魔術も凄いけど、このシステムを作った師匠とやらが凄いんじゃなかろうか。アイツァの師匠恐るべし。


 他にも色々聞いた。最寄りの街ベーラには山登りで向かうと2日かかるがこのトンネル経由だとわずか3時間で済むとか、街に着いたら色々やることがあるけどお金が足りないかもしれないとか、自分が使っている家は師匠が昔隠れ家として使っていたものを使わせてもらっているとか、師匠は本物の魔法使いで今は帝都の宮廷魔術師をしているとか。


 特に師匠自慢は一度話しだすと止まらなかった。

 よほど凄い師匠なんだろう。師匠のなした偉業の数々をいくつも語ってくれた。

 ただ残念なことに、念話の会話は古語体でされるため、語り草が堅苦しくて半分も理解できなかった。

 せっかくの熱弁に対して、悟はなんとなく凄いんだろうなぁ、という感想しか浮かばないのが、ちょっと申し訳なかった。


 トンネル内で小休止を3回ほど入れた。途中で悟の腕くらいの太さの蛇の死骸があったので、アイツァは手早く血抜きをして悟の腰に付けた革袋に放り込んだ。

 恐らく魔力を吸いつくされた犠牲者なんだろう。哀れなり。


 進度は順調だったようで、悟の感覚でだいたい4時間くらいかな、というときに遠くの方で薄ぼんやりとした光が見えた。恐らくは出口である。


 ただ出口が見えた途端、アイツァの口数がパタリと減った。こちらが話しかければ返事もするし質問にも答えてくれるのだが、どうにもテンションが低いし返事も簡潔だった。

 師匠の話をしているときのテンションと明らかに違う。悟はちょっと不安になった。


 出口につくと、何とか頑張って段差を登り、樹の洞から這い出た。先に出たアイツァに手を引っ張ってもらう。何とも情けない。

 トンネルの出口は入り口とほぼ同じだったが、周囲に岩や倒木があって露骨に洞を隠されていた。やっぱり秘密のトンネルだったのだろう、つまりあれは隠れ家というより秘密基地みたいなものかと悟は変な納得をする。


 倒木を潜った先もまた森であったが、隠れ家の周辺の森ほどの密度はなかった。

 だいぶ人の手が入っていると思われる。木々の間から青空が見え、森林浴によさそうな雰囲気である。悟は深呼吸をした。


 アイツァが指を差していたのでその方向を見ると、木々の向うに大きな壁のようなものが見えた。

 遠くて詳しくは見えないが、家の屋根や立ち上る煙が微かに見える。アイツァは、何か不機嫌そうなイメージとともに、念話を送る。


『あれなるが北端都市ベーラなり』

次話「観光と言ったらやっぱり街だよね」


※私事ですが、活動報告に「ユニークアクセス累計人数100人記念」を投稿しました。あまりに嬉しくてつい……。

 もしよろしければ見てやってください。ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございますm(_ _)m

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