魔女は純愛中 一
「メルルが、戻ってきていない?」
朝、リゼリアの手で起こされたロキは、思わず聞き返した。
「はい。昨晩、いつものように情報収集に出掛けたのです。私が眠っている間に戻ってくることが常なので、気にもかけませんでした。ですが、今朝ベッドが空っぽだったので」
これまでになく、リゼリアは動揺している。紫の瞳はせわしなく動き、顔は青ざめ、唇は血の気を失っている。震える指先に、ロキはそっと手を伸ばした。指の震えは止まったが、かわりにぽろぽろと涙があふれてくる。
「にぃさまを起こす前に、街中を探し回ったんです。心当たりはぜんぶ。だけど見つからないまま、探すところがなくなって、どうしようもなくて……どうしましょう、もしメルルなにかあったら。私、もう」
続きを口にすることもできず、ロキに抱きついてきた。
友人を失うかもしれない。そう怯えるリゼリアを、ロキはそっと抱き返す。
「落ち着け。オレも、一緒に」
そこへ、扉を叩く音がした。姿を見せたのは宿の主人で、男から電話が入っていると告げたのだった。
イレイユの街外れにある教会では、朝日を受けた聖母像が輝いていた。その慈悲深い微笑みは、訪れる者に許しを与える。たとえそれが、どんな身勝手な行為であっても。
像の足下には、一基の棺が置かれていた。蓋は開いている。赤いドレスを着た少女が仰向けで寝かされていた。その胸の上には、青い瞳のビスクドールが横たわっている。
「ようやく、このときが来たね。マリー」
優しげな声が教会内に響く。その声を受けて、たったいま教会を訪れたリゼリアとロキは立ち止まった。
「遅かったね、リゼリア」
ふたたび、声が響く。リゼリアにとっては耳慣れた大好きな声だった。
「…………おにぃ、さま?」
扉の前に立ち尽くしたリゼリアは、震えながら名を呼んだ。
端整な顔立ちの兄アレクススが、聖母像の傍らに佇んでいる。銃口をこちらに向けて。
「ご苦労だったねリゼリア。奇石を守ってくれてありがとう。これでぼくは願いを叶えることができる」
リゼリアは混乱した。電話の相手は知らない声の男だった。『教会で取引しよう、友人を預かっている』とだけ云って切れた。例の取引相手かとあわてて駆けつけてみれば、ジルコニアにいるはずのアレクススがいる。どういうことなのか。
「話せば長くなる。とりあえず、メルルは別室で休んでいる。いまはまだ無事だよ」
どきっとする言葉だった。
「おにぃさま、一体、なにを」




