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純黒のリゼリア~魔女ハ兄ヲ溺愛ス~  作者: 黒坂つばき
プロローグ
1/16

出立前

 オーガスタ領ジルコニアの駅舎プラットホームは、人混みであふれかえっていた。

 汽車の到着をいまや遅しと待つ旅人たちにまぎれ、レールに背を向けている喪服の少女がいる。駅に備えつけの電話の受話器を両手で支え、熱心に話しこんでいる様子だ。まとう衣服が黒い分、ちらりと覗く手や足首の肌は別もののように白く光る。


「――おにぃさまですか? はい、わたくしです」


 少女がかけた電話は、交換手や執事などいくつもの人間を経由し、ようやく目的の相手につながった。


「お忙しいところ申し訳ありません。出立の前に、どうしてもおにぃさまの声を聞きたくて。ええ、はい、わかっています。これからカレドナ鉄道でイレイユへ向かいます。ええ、はい……え、いま、なんて」


 声を押し殺し、じっと耳を澄ます。緊張で引きつっていた顔立ちが、みるみるうちに赤く染まった。


「はい、もちろん。わたくし頑張ります。必ず、『奇石』を手に入れてみせます。はい、お任せください」


 短い会話が終わり、相手が電話を切るのを確認した少女は、ゆっくりと受話器を下ろした。


「もー、おにぃさまったら」


 力いっぱい息を吐く。少女にとっては、夢のような時間だった。


(ぼくの仕事で苦労かけてすまない。どうか無事に戻ってきておくれ。愛しているよ、だなんて)


 天にも昇る心地、とはきっとこういうことだろう。浮き足立つ気持ちを隠せぬまま、くるり、と一回転してしまう。仕事着である黒い喪服のスカートがふわりと舞い上がって、豪奢な縁が華麗に揺れた。


「おにぃさま、見ていてください。リゼリアはきっと期待に応えてみせます」

 

 煙を吐き出しながら汽車がやってくる。

 さぁ、『仕事』の始まりだ。

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