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哀しい女

「あ、あなたは誰?」

「だれって? あんたが生み出した哀れな女よ。辛い時にだけ矢面やおもてに立たされる女。名前すら与えられていない女よ」

 拓海が、興奮している女と戸惑っている明日香の会話に割り込んだ。

「ちょっと待ってよ。君も明日香の一部なんだろう? だったら明日香の事を大事にするべきじゃないのか?」

「大事にするべきだって? 私はもう、こんな辛い人生は嫌なの! あんた達が幸せを感じられるのは、辛い事、嫌な事を全部私に押し付けているからじゃない! 私はもう生きていたくないの。リストカットをした時だって本気で死のうと思ったのに……。ちょっと油断したすきに友達にメールをされちゃって……。でも今は大丈夫よ。いま明日香の身体を支配しているのは私よ。三人揃った今、一緒に漆黒の闇の魔物に飲み込まれましょう」

「やめろ! 明日香を傷つけることは許さない!」

「やめて! 死にたくない! 拓海にだって会えたばっかりなのに!」

 明日香と拓海は抗った。しかし、明日香の身体は完全に哀しい女の支配下に入っていた。明日香と拓海には哀しい女の行動を止めるすべは無かった。

 明日香はベンチから立ち上がると、真っ暗な湖に向かって歩き始めた。異常を感じたふたりの医師は、大急ぎで明日香に駆け寄った。

 明日香の身体はゆっくりと湖面に向かって倒れて行った。


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