互いの温もり
花火大会もいつの間にかフィナーレが訪れていた。拓海はまだ現れない。
明日香が「拓海は抜け出す事に失敗したのだろうか? それとも、まだ目覚めていないのだろうか?」と思っていたときだった。軽いめまいに襲われた。
このめまいは過去に何度も経験した事がある。明日香の記憶が途絶える前に訪れるめまいだ。
「いや! 今日はいや! まだ拓海が来ていないの。お願いだから私の意識を奪わないで!」
明日香は声に出して懇願した。しかし、めまいは更に酷くなって行く。
明日香の意識が途絶えそうになったその時、明日香の頭の中に声が響いた。
「明日香、大丈夫だよ。ぼくだ、拓海だよ。いま、やっと目覚める事が出来た。もうすぐ花火大会も終わってしまうけれど、明日香と一緒に見る事が出来た。僕は今、すごく幸せな気分だよ」
明日香は戸惑っていた。周囲を見まわしても拓海らしい人物はいない。
「拓海、どこに居るの?」
明日香の問いに拓海が答えた。
「どうやら明日香の中に居るみたいだ。僕には明日香が感じられるよ。ほら、明日香の温もりも、明日香の息遣いも、そして明日香の鼓動も……」
明日香は自分の中に居る拓海を捜した。身体の中に暖かいものを感じる。
「拓海? 拓海なのね? 暖かい……」
拓海と明日香はお互いの存在を感じ合っていた。




