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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

企画物

乾燥肌

作者: PP

「なぁ、今日は何かやけに乾燥してないか」


妻に話しかけると簡素な返答が帰ってくる。


「そう?クリームでも塗っとけば」


トーストを食べ終え、牛乳を飲み干し私は妻の鏡台にあるクリームを拝借する。


「じゃあこれを借りるよ」


妻がよく使っているハンドクリームである、指で手の甲に塗りすっと広げていく。


「アナタ、使いすぎないでね」


冷めた声で追い打ちをかけるが仕事の時間だ、少しは心配してくれてもいいじゃないかと思いながら私は仕事に出た。


「はぁ」


台所からわざとらしく聞こえるため息が耳に触る。


『あいつ……』


ギリッと歯をかみしめるが、急がなくては仕事に間に合わない。


「行ってくる」


私は職場へと向かった。



『やっと行ったわ……』


私は旦那が仕事に行くのを確認すると、窓をあけた。

蛇口から勢いよく流れ続けている水をコップで受け止め、水を止めることのないまま私は水を飲み干す。


カレンダーに目をやると、赤いバッテンが今日で3日目である。

私は歪んだ笑顔をしながら、何度も何度も水を飲み続けた。



「ただいま」

「おかえり」


そんなやり取りをした数日後、珍しく私の帰りを迎えに来てくれた妻の姿がそこにあった。


「お、おう」


カバンを受け取ってくれる妻に、昔のよかった時期を思い出した。


「アナタ、最近乾燥肌に困ってたわよね。これをあげるわ」


妻からの突然のプレゼント。私は正直驚いた。


「ありがとう、いつ以来かな……」


「さぁ、いつ以来かしら。ちゃんとツカッテネ?」


「ああ、助かるよ」


私は妻からのサプライズに驚きつつも、明日からも仕事を頑張っていこうという気になっていた。




『旦那って、単純ね』


私が渡したクリーム。私が毎日使っているクリーム。

鏡台には空になったクリームの箱がいくつもあり、それを毎日使う旦那。


『旦那って、本当に単純ね』




「ただいま」

「……」


今日も妻からはおかえりの一言もない。先週はなんだか良い感じに戻ってきていたと思っていたのに、勘違いだったのだろうか。


ギュッとポケットに突っこんでいるクリームを握りしめる。


『いいや、こうやって私にクリームを買ってきてくれたじゃないか。疑っちゃいけないな』


私は気持ちを落ち着かせると、クリームの蓋をあけ肌に塗り込む。

何度も何度も塗り込む。




「おはよう、今日も乾燥しているな」


妻からの返答はない。今日もトーストを食べ牛乳を飲み干す。


鏡台にあるクリームの蓋をあけ、いつものように肌に塗り込む。


『また無くなってしまったか』


空になったクリームを鏡台に投げ捨て、ポケットの中にあるソレを使い始める。


「よし、これでいいな。いってくるよ」


妻からの反応はない。水が流れ続ける音が聞こえるが気にしないでいいだろう。




「ただいま」


やはり今日も何も言ってくれない。冷たい妻である。


ポケットの中にあるクリームを取り出し、私は肌に必要以上に塗り込む。


そして気が付く、部屋の中の空気が重い事に。


『ああ、ここ最近空気の入れ替えをしていなかったな』


私は居間にある戸をあけようとするが、踏みとどまる。


『いや、夜中にあけるのはやめておこう』


水が流れる音が耳に残るが、気にせずクリームを鏡台へ投げ捨てる。


「そうだ、お前もクリーム使ったらどうだ?」

「……」


返事はない。カレンダーに目をやると、赤い×が3つほど並んでいる。

アレは一体何の意味があったのだろうか。


「乾燥肌は痛いから、塗ってやるよ」


私はたまにはとスキンシップをはかるが返事はない。


「柄にもない事をしてるとはわかっている、がこのプレゼントが私には嬉しかったんだよ」


空になったクリームの蓋をあけ、私は妻に中身を塗りたくる。

ガサガサになっている肌と、自らの異常なまで変色した手が擦れ合い


『ポロリポロリ』


と、肌が削れ落ちていく。


既に命の無い妻の姿はボロボロになっている。

そんな妻と、私の醜くなった体が今夜もコスレアイ音をたてていた。

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