19話目 国からの招集2
「貴様それでも王国の民か!」
大臣はかなり頭にきているようだ。真っ赤になった顔に青筋を何本も浮かべこのままでは血管が切れて死んでしまいそうだ。
個人的には今までの人生でここ迄怒っている人間を見たのは初めてだ。このまま怒らせたらどうなるか若干興味があるのだが……。
「いえ、日本国の人間です。そもそもこの世界には強制的に連れて来られただけなので……。
それに王国ではこの世界で暮らす為にある程度の地位を貰える話しでしたがまだ頂いていませんのでこの国の民ではないですよ?」
「この国で商売をしているなら関係ある筈だ! どうしても払わんと言うならこちらにも考えがあるぞ!」
少し馬鹿にした言い方をしたが大臣は挑発には乗ってこず少し冷静になってきた。ならば痛いところを突こうか。
「私は払わないとは言っていません。払うべきではないと言ったのです。そもそもこの国の大臣と商人ギルドのマスターが不正をしている時点で信用できません。
後から何かしらの理由を付けて徴収する可能性がありますので」
「それは只の一般人の目撃証言だろうが! 私はそんな事しとらん! 私を妬んだ人間の狂言だ!」
「それを――」
「ストップ! ……少し話しが熱くなり過ぎているよ。ケイラムさんはこの問題が解決するまで信用できないから支払いはしたくないって事だよね?」
大臣で遊んでいたらミハエルが邪魔してきた。しかもこの場を収めようとしている。この流れは良くない。俺も遊び半分で大臣を責めていたが残りの半分はこの場に居る人間に王国に対する不信感や火種を与えようとしていたのだが。
このままだとミハエルがこの問題を素早く解決もしくは対処しそうだ。そうなるとミハエルの株が上がってしまう。何かしらの邪魔か妨害をしておきたいところだ。
「はい、そうです。この世界に来た我々は信頼出来る人は最早居ません。家族や友人とも離れ離れになってしまいました。
そんな中手を差し伸べてくれたのは王国の方々でした、最もその原因を作ったのも王国の方ですが……。
私も助けて貰った恩がありますので協力はしたいのですが我々商人にとっては財力や商品とは力です。故に簡単に手放す事は出来ないのです。
これが戦士の方であれば財産を失ってもレベルは残りますが、商人が財産を失ってしまったら何も残りません。
戦士の方はまた戦ってお金を手に入れられるかもしれませんが、商人は戦闘をする事事体が死にに行くような事です。
プレイヤーであったミハエルさんならしっていると思いますが商人と牧場主はレベルアップ時のステータスの上昇が1しか上がりません。
だからこそ慎重にならなければいけないのです。信頼出来る人間と出来ない人間を見分けないとこの世界では生きていけないと私は思っています」
「そうだね。僕達はこの世界で生きていかなくてはいけないから自分で考える事は大切だよね。でも皆ケイラムさんみたいに自分じゃ決めれない人もいるんだよね。
僕はそんな人達に手を差し伸べたい。皆の道しるべとなって助けたいんだ。だから僕を信じてくれないかな?
大丈夫! もし不正があった時は必ずお金は返すよ!」
困ったような顔でミハエルは言っているがきっと心の中では激怒しているんじゃないだろうか。
こちらの言い分を通す為と周りの人間に今の状況を分かりやすく伝える為にわざと綺麗事を行ったが伝わっただろうか?
日本人とは弱い者ほど応援したがる。これは一種の国民的特性ではなかろうか。商人は弱く戦う事すら出来ない。それに元の世界に大切な人と別れ離れになってしまった。これは大半の人に言えるだろう。もっとも俺にそんな人が居た覚えはないが…………。
「残念ながら私は貴方の事を良く知りません。知っているのはここに来てから皆のリーダーとして頑張っている事ぐらいです。
しかしそれは私が信頼する理由にはなりません。私は貴方と直接話した事はないし貴方はいつも人に囲まれている。だからこそ思うのです貴方は無理をしているのではないかと。
皆を守れるのは自分だけと無理をして己を偽っていませんか? 王国の方とプレイヤーの諍いを止める為に無理をしているんではないですか?
私はそんな貴方にこれ以上無理をさせたくない! だからこそこの問題は私の手で処理します」
実際はミハエルの心の中なんて知っている。世界征服だろう。皆との為に無理をしているのではなく、皆から富を奪う為に頑張っているのだ。
それにここ迄ミハエルを心配していますよと言えば自分が問題を解決するとは言いにくい筈だ。
マイナス要素はミハエルが皆の為に頑張っていると周りの人間が思ってしまう事だが。
「だけどね、ケイラムさんの話を王国の人が聞くかどうかは別だと思うよ。実際行き成り来た人が犯罪の証拠を掴んだって言っても信用出来ないでしょ?
だから僕が知り合いの人に聞いて調査して貰えるように言うからそれじゃ駄目かな?」
チッ! ミハエルの奴まだ抵抗するか。確かに一般のプレイヤーが言っただけでは聞いてくれないかもしれない。
しかし王国に信用がある(王国を操っている)ミハエルなら調査をする事も簡単に出来るだろう。だがそれは不正事体がなかった事にされてしまうかもしれない。
このまま頑なに言っても俺は蚊帳の外だろう、ならばいっその事裁判か捜査に参加した方が良いか。
「分かりました。ただし条件が3つあります。
1つこの問題が解決するまで税を支払わなくて良い事。2つ裁判に加えてくれる事。3つ事件の目撃者を必ず守る事。
これらの条件を飲んで頂けるなら私は無理に自分が動こうとはしません」
「3つの条件だね……分かったよ。それなら納得してくれるんだね?」
「はい」
「分かった。必ず守るよだからこの話はこれまでで良いかな?」
「ええ、良いですよ」
「私は納得していない!」
「大臣!」
ミハエルとの話が纏まったところで大臣がまた怒鳴り散らした。しかしミハエルの鶴の一声で大臣は真っ青になって俯いてしまった。
先程ミハエルが眉間に皺を寄せていた事もあるから、不正の事はミハエルは知らなかったのだろうか。だからこそ大臣は焦って頭に血が昇ったのかもしれない。大臣は知っているのだろう、ルーキンス家がこの国を操っている事をそしてミハエルがルーキンス家の一員である事を。
なら面白い事になる。一般の兵士達はミハエルがルーキンス家の人間だとは知らないようだが大臣クラスになると知っているのだろうか?
この事を大臣から直接プレイヤーに伝えると面白い事になりそうだ。信じて着いてきたリーダーが地球人ではなくこの地の貴族だったと。そしてこの王国を操っているのはそいつの家だと。
そうなれば信頼がなくなるどころかプレイヤーから吊るし上げられるかもしれない。
……実際は不要になった時点で処理してしまうのだろうが、前の通信でそんな事を言っていたし。
「それじゃあ、一旦お開きにしよう。今度は事件が解決した時にまた集まって貰うからその時は宜しく!」
ミハエルは顔を真っ青にした大臣を連れて出て行った。尋問でもするのだろうか? 他の人も次々と出て行く。唯一座ったままなのは廃人連合のリーダーだけだ。
リーダーが理由もなしにこんな行動をする筈がない。きっと俺に話しがあるのだろう。
「リーダー何か用があるのか?」
リーダーに近づき話し掛けるとリーダーは頭を縦に振った。これは話さないチャットしないリーダー唯一意思疎通出来る方法だ。
「何か言いたい事があるのか? 聞きたい事があるのか?」
最初の問いには頭を横に振ったが、次の問いには頭を縦に振った。
「今日の事か?」
リーダーが頭を縦に振る。
「詳しくが良いか? それとも簡潔な方が良いか?」
リーダーが簡潔な方の時に頭を縦に振ったので簡潔に話そう。
「話す前にこれを着けてくれ。無線みたいな物だ」
リーダーに長距離用通信用の魔道具を渡し装着して貰う。この話は誰かに聞かれるとかなり危険だ。その為の保険として声に出さず心の声で通信する。
(聞こえているか?)
リーダーに問い掛けると頭を縦に振ったので本題を話しはじめる。
(実はなミハエルは王国を影で操って世界征服を企んでいる)
リーダーには長い説明などは必要ない。と言うか長いと聞いてくれない。何事も簡潔なのがお好みらしい。
(その尖兵としてプレイヤーを利用しようとしている、既にタイタンは洗脳された)
リーダーは魔道具を外すと俺に渡してきたが俺は受け取らなかった。どうやら聞きたい事は聞けたようだがこれから先リーダーに伝えたい事があるかもしれない。そうなった時これがあれば通信出来る可能性がある。ただし伝えられたとしても一方的に伝える事しか出来ないが……。
「それはリーダーが持っていてくれ。通信する事があるかもしれないから。それとそれは今のところ軍にしか配備されていなから見つからないようにしてくれ」
リーダーは頭を縦に振って部屋を出て行った。理解してくれたから恐らく見つからないようにしてくれるだろう。