18話目 国からの招集
アリスちゃんにとっては久しぶりに両親との再会になる。きっと話したい事や聞きたい事がありそうなので早めにお開きにした。
仲間と別れる前に通信機を皆に渡していつでも連絡は取れるようになったので朝一の集会は止めにし必要な時だけ招集する事になった。
そして特に用事もなかった俺は城に戻る事にした。
※
城に戻って来ると門番に大臣から招集されている事を告げられた。何の事か分からなかったので聞いてみたが行ってみれば分かりますとしか言わなかった。
呼び出された場所に行ってみると既に数名の人が待っていた。恰幅の良い中年と5名の黒髪の男女、そしてミハエルが居た。
「それで全員揃ったようだね」
どうやら俺が最後だったらしい。しかしミハエルが何故ここに居るのだろうか。個人的には裏の顔を知っているので悪巧みをしようとしているとしか思えない。
「予定より遅くなっちゃったけど話をしようか。朝話したようにこの世界にはプレイヤーの商会が3つ存在してるんだ。
1つはタイタンの『巨人の店』2つ目は生産ギルドの『技神』3つ目は個人所有の『ケイラム商会』だね。
この国では3つの商会の店舗が各地にあるから長距離輸送は発展していないらしいんだ。まあ、ここは別に重要な事ではないけど問題なのはこの商会の店舗が国に税を払っていない事なんだ。
約500年程の税を未納のままだったんだけど、商会の主が現れた事で税を払って貰う事になったんですよね。大臣?」
「ああ、そうだ。王国に店を出しているなら税を払う義務がある。これは法律で決められている事だ。もし従わない場合には強制的に財産の押収するか店舗の即時撤去になる」
周りを見てみたが反応している者は居なかった。恐らく俺だけが朝居なかったので知らなかっただけだろう。それにしても500年分の税を支払えとはかなり酷いものだ。商人ギルドで調べた時は場合によっては、かなりの損失が発生する場合があった筈だか他の人は知っているのだろうか?
「税はどの程度支払わなければいけないのですか?」
思っていた事を聞いてくれた人物が居た。鎧には剣と盾が交差しており中心に石のエンブレムが彫ってあった。
あれは生産ギルドのエンブレムだ。あれは『技神』がブランドにする為に防具や武器等に付けているマークでギルドメンバー全員あのマーク入りの装備を着用している。
「はっきりとは言えませんが『売上税』『武器税』『薬品税』を抜いた金額になるでしょうな。
皆様の店舗は長距離輸送や倉庫の代わりとして利用されていますので」
「成る程」
これは思ったより言い条件だ。売上の10%や武器薬品販売の3%の税を払わなくても済む事になる。これだと実質的には人頭税と土地税だけになりそうだ。
だが一つ気になる点がある。商人ギルドのギルドマスターが不正をしているかもしれない可能性があった。
クライムさんとはあの日以来会っていないので結果は分からないが、だが今は通信用の魔道具があるので誰かに聞いて貰おう。
(トーマス、トーマス聞こえるか?)
(ん? 何か用?)
(今から商人ギルドに行ってクライムという人物に話を聞いてきて欲しい)
(分かったよ。着いたら連絡するよ)
(頼むぞ)
魔道具を使ってみたが誰にも気づかれている様子はなかった。もしギルドマスターが不正していた場合は税を取り敢えず払わなくて良くなる。それどころか先程言っていた金額より多く支払っているので帰ってくるかもしれない。
「今は僕達もこの世界で生きている訳だからルールや法律に従うのには文句はないよね?」
「ええ、ありません」
「私もありません」
「…………」
最初に返事をしたのが生産ギルドで次が恐らくタイタンの人間だろう。あのギルドには決まったマークなどがないのではっきりとは言えないが、あのミハエルを見ている目で分かる。
そして無言だったのが恐らく廃人連合のリーダーだ。リーダーは極度のコミニケーション障害で誰かと話したりチャットしたりする事はない。
極端な無口ではあるが顔見知りの人間と接する事は出来る。故にリーダー廃人連合のリーダーだ。
他のメンバーも喋るたりチャットしたりする人間がいないのでコミニケーションを取るのには苦労した。
しかし苦労しながらも共に戦った仲なので一定の信頼は勝ち得ている筈だ。
だがどうして戦闘集団のリーダーがここに居るのだろうか。彼のギルドには商会どころか戦闘系メンバー以外は居なかった筈だが……。
「斎藤さん……いや、ケイラムさんはどうかな」
考え事をしていたらミハエルがこちらの意見を聞いてきた。問題ないと答えたい所だが、税を払った後で商人ギルドのギルドマスターの不正が見つかったとしてもミハエルは返金するだろうか? いや、きっとしないだろう。
ミハエルは税という名目できっと金が欲しいのだろう。ただミハエル自身特許でかなりの金を手に入れている筈だ。国の経営をするなら幾ら金があっても足りないだろうが、ミハエルの特許次第では金は無尽蔵に手に入る筈だ。無理をして手に入れたい物ではないだろう。
では何故徴収しようとしているのか……。悩んでいるとある事を思いついた。大量の金が市場に流れると物の価値が極端に上がる。
特に商会には500年分の利益がありプレイヤーには円をGに変換する事が出来る。もしこれらが一遍に市場に流れでもしたらどの位の被害が出るか想像がつかない。
昔あった『喫茶店でコーヒーを飲んでいたら飲み終わる頃には値段が2倍になっていた』と言う話しが現実になってしまうかもしれない。
もしかしてミハエルはこれを警戒しているのだろうか。ただ腹黒いミハエルの事だ、きっとこの王国の人間の心配ではなく自分の資産の心配だろう。
恐らく税を払った所で別の名目で金を徴収するのだろう。転移した者同士が協力する為に金平等に振り分けようなどと言って。これならば転移したプレイヤーの大半はタイタンのギルドに所属している操り人形だから金を徴収する事は簡単だろう。
「私が調べたところではゲーム時代と同じ金額の税を商人ギルドに支払っている筈ですが?」
「商人ギルドに? 僕はそんな事聞いていませんよ?」
どうやらミハエルの表情を見る限りでは知らないようだ。ミハエルは困惑した顔で隣りに座っている大臣の方を向いた。
大臣は分かりやすい程動揺していた。あの表情を見れば誰だって隠し事をしているか疚しい事があると分かるだろう。
「わ、私も知らんぞ!」
「そうですか。実は私はこの世界に来て間もない頃に商人ギルドに行った事がありまして、その時にある職員の人から聞いたんです。
来たばっかりでしたので私が店を持ている事を伏せていたんですが、商人ギルドの職員の方々はかなり態度か悪かったです。
そして相談しにしに来た事を言うと先程言った人物を紹介して下さったんですが、その方はギルドとしての在り方に疑問を持っていました。
優遇されるのは金持ちか貴族だけで一般に人間が美味しい企画を持ってくれば奪うだけだと……。
その事を聞いた私は商人ギルドにあった店舗の税が自動で入金される魔道具の事を聞いたんです。
もしかしたら私達が払っている税を直服している可能性があるかもしれないと思いましたので。
その事を聞いた職員の方は魔道具を調べに行きましたが、その際ギルドマスターにしつこく質問されたそうです」
(総隊長(斎藤賢治)に言われたとおり情報の確認をしたよ。総隊長の名前を出したら調べていた事を色々教えてくれたよ。
例えば12日の夜にギルドマスターが魔道具から大金を取り出していた事やその後に大臣と会ってた事とかね)
(その大臣って恰幅の良い奴か?)
(そうだよ。この国には太った大臣は1人しかいないから直ぐに直ぐに分かるよ)
(そうか、有難う)
(また何かあったら連絡してね)
話しの途中でトーマスから魔道具で通信があった。しかしこれまた都合の良い人物がここに居るようだ。まさかギルドマスターと大臣がグルだったとは。
「それに私は確かな情報を持っています」
「その情報とは何だ!」
大臣が顔を赤くして怒鳴っている。これは茶番もいいところだろう、ここに居る大臣以外の人間は大臣が何らかの形で関わっている事に気づいている。
あれだけ分かりやすい態度でいるのだから当然だろう。
「12日の夜に商人ギルドのギルドマスターは魔道具からお金を抜き出した後ある人物と会っていました」
「そ、それが私だと言いたいのか!」
「ええ、そうです。目撃者もいますので確実です」
「そいつが嘘を言っている可能性だってあるだろう!」
「そうかもしれません。だがしかし私はこの問題が解決するまで税を払うべきではないと思っています」
大臣はあからさまにホッした顔だったがミハエルは若干眉間にシワが寄った。だがそれも注意していないと分からない程度ではあったが……。