17話目 14日 店主達の帰還
店主達の無事が分かった日から重点的に誘拐関連の情報を集めた。リードとトーマスに調べて貰い分かった事は他にも数名の誘拐被害者が居る事だった。
その人等は警察に被害届を出していたようだ。しかし犯人は逮捕されて居らず手がかりすら掴めていない状態だった。
被害届を出した人も再度誘拐しに来たり、暗殺しに来る事はないようで今のところは平穏に暮らしていた。
これは犯人が情報が漏れないから気にしていないのか、それともただ単に別の事件なのか分からないので被害者に話しを聞いてみる事にした。
大半の被害者は王都の中で歩いていた際に誘拐された。隙を見つけて逃げ出したと言っていた。稀に違う事を言っている人も居たので恐らく別件の事件だろう。
ただ全員に共通じている事は犯人の目星も情報も無いと言う事だった。恐らく犯人は情報が漏れていないので気にしていないだけだろう。
これならば店主達が帰ってきても狙われる危険性は少なくなる。だが絶対ではない。一応保険を掛けておいた方がいいだろう。
この事をホーキンスさんに相談すると私が店主に購入される事で守りますと言ってくれた。
何でも昔この店の店主に助けられた事があり、その恩を返す為にここで奴隷として居たようだ。
本来であれば恩返しに奴隷として購入して貰う予定だったようだが店主は首を縦に振らなかった。だから奴隷としてここで陰ながら手伝う事にしたようだ。
ホーキンスさんはこれでやっと恩返しが出来ると言って微笑んでいた。個人的にはホーキンスさんを仲間にしたかったがこう云う事情があるなら仕方無い。
これで店主達の護衛は問題なくなったがホーキンスさんは未登録奴隷なので店主達を迎えに行く事が出来ない。
だから俺はリードとトーマス以外の仲間に迎えに行くように頼んだ。幸い反対する者はいなかったので迎えに行ったが帰ってくるのは1週間後だろう。無理をせずゆっくりと帰って来てくれと言ったのでもう少し遅くなるかもしれない。
この問題は取り敢えず解決した事にしてトーマスに通信用魔道具を取りに行って貰った。
魔道具は5つ完成していたので俺とリード、トーマスに渡しておく。何でも爺さん曰く『言っておった性能で作っておる、それに通信限界距離じゃが例え通信範囲以上の距離があっても間に同じ魔道具を持った者が居れば距離は伸びる』と言っていたらしい。
要するにAとBの距離が80kmであってもCがAとBの間に居ればAとBは通信出来るという事だろう。なかなか良い物を作ってくれたようだ。
リードとトーマスにはルーキンス家とミハエルの事を調べて貰う事にした。ここで何らかの情報が手に入ると嬉しい。
※
あれから数日たったが目立った事は何もなかった。前と同じように林の近くで寝泊りしているがミハエルは来なかったし、情報収集も上手くいっていない。
ルーキンス家の情報は集まって来るが当り障りのないものばかりだ。それにミハエルの情報は思った以上に集まらない。
『召喚された英雄』『英雄のリーダー』『勇者』などと呼ばれているらしい。だが独自に調べた事だと廃人連合の洗脳は上手くいっていないようだ。
あの連中は人と係わる事が嫌いだし特に目立っているイケメンのミハエルと話したくはないだろう。
今の所はタイタンの連中が完全に洗脳されているだけだ。この前連中にミハエルの話しを聞いたらミハエルの事を絶賛していた。
かっこいいだの頼りのなるだの言っていたが明らかに可笑しい状態だった。あんな状態の人間の話を聞いて信じる奴は少ないだろう。
実際タイタンの連中とその他だと何らかの溝があるように感じた。それは待遇の差などだろが日に日に関係は悪くなっている。
召喚されて1週間も経つ頃には何時までこの城にいなければいけないのかと言う人物が複数現れた。
召喚されてずっとこの場所に閉じ込められているようなものだし、城の中(召喚された者同士)の空気も悪くなっていた。
これにより希望する者は城から出ても良い事になった。数は少ないものの数名はその日に城から出て何処かに行った。
これには理由がある。現実のお金がこちらの通貨(G)と交換出来る事が早くから知られていたが、この頃城での滞在費を徴収するといった噂が流れ始めた。
調べてみると噂はミハエルが流していた事が分かった。正確には城で生活させて貰っているのだからお金を入れるのは当然ではないかと言う話しが広まったようだ。
日に日に出て行く者は多くなるがタイタンと生産ギルドそして廃人連合の面々は残ったままだ。
てっきり廃人連合は直ぐにでも出て行くと思っていたがここに残るようだ。
※
「護衛団が帰還したよ。店主達も無事みたいだね」
「そうか。直ぐに店に向かう」
城の中をぶらつているとトーマスから通信が入った。店主達は無事に戻って来る事が出来たらしい。
これでアリスちゃんも心から笑う事ができるだろう。俺は急いで奴隷販売代理店に向かった。
※
奴隷販売代理店の中では人族の父親らしき人と猫の獣人の母親らしき人がアリスちゃんと抱き合っていた。
ここで話し掛ける程空気が読めない男ではない。暫くは待っていた方が良いだろう。
「お父さん! お母さん!」
「アリス無事だったか!」
「アリス! アリス!」
感動の再会の場面なのだろう、俺も少しウルっとしてしまった。仕事を辞め家でゲームばかりしているとちょっとした事で泣いてしまう。
だがこれは別に泣いても良いだろう。親子が奇跡的に出会う事が出来たのだから!
それから暫く俺達は親子の再会を見守っていた。
「皆さん本当に有難う御座いました。お蔭でまた娘とも会う事が出来ました」
店主達は深々と頭を下げている。確かにあのまま死んでいた可能性もあったが感謝されると照れくさい。
「いえ、私達は当然の事をしただけです」
「貴方がこの人達の雇い主ですか? 本当に有難う御座いました」
「これも何かの縁でしょう。きっと神様のお導きです」
「はい確かに神様に感謝しています。しかし助けて下さったのは貴方方です。どうかお礼をさせて下さい」
「そうですか。それでは皆さんが無事戻ってこれた事を祝って食事をしたいのですが良いですか?」
「もちろんです!」
感謝している店主達はいつも集合場所に使っていた部屋に俺達を案内した。
「それでは私は食材を買ってきますので少しお待ちになって下さい」
「待って下さい。それはこちらで用意しますので大丈夫ですよ」
「命の恩人に料理までして戴くなんて恐れ多いですわ。気を使って戴かなくても宜しいですのよ」
「いえ、既に購入していますし、まだ帰って来たばかりですのでゆっくりして下さい」
「そうなんすか? 済みませんお世話になりっぱなしで」
「気にしないで下さい。では料理を並べる前に一つだけ話しておかなければいけない事があります。ホーキンスさんどうぞ」
買い物に行こうとした奥さんを呼び止めホーキンスさんに話しをして貰う。先にホーキンスさんを雇って貰わないとまた危険な状態になるかもしれない。
「シャール様リリー様無事に帰還されましたてとても嬉しく思います。しかしながらまだこの事件は終わっていないかもしれません。
それ故に私を護衛として雇って頂きたいのです」
「いきなり言われても良く分かりませんがまだ危険があるんですか?」
店主は不安そうに俺の方を向いて聞いてきた。
「詳しくは言えませんが可能性はあります。他にも誘拐された方が王都に逃げ帰り警察に被害届を出していますが犯人は捕まっていません。
私達も個人的に調べていますがバックにいるのは余程の大物のようです。万が一の為にも護衛を雇っておいた方が良いと思います」
「そうなんですか……」
「ええ、幸い護衛としては破格の能力を持った人物が志願していますので雇い入れた方が良いかと思います。
次は貴方方だけではなくお子さんのアリスちゃんまで狙われる可能性もありますので」
「まさか、娘まで巻き込まれるんですの!?」
「可能性としてはゼロではありません」
「そうですか、分かりました。ホーキンスさん私は貴方と契約したいですが良いですか?」
「私は助けられた時から貴方に仕えるつもりでした。契約します」
店主とホーキンスさんは笑いながら握手していた。きっとホーキンスさんは恩返しをする事が出来そうで嬉しいのだろう。
「良し。これで問題はなさそうですね。それでは料理を並べましょうか」
俺はアイテムボックスから料理や酒飲み物などを取り出し並べていく。仲間は俺の指示に従い頑張ってくれた。だから今日ぐらいはお腹いっぱい食べてゆっくりしてもバチは当たらないだろう。