16話目 ウリエルの帰還
気づいたら辺りが暗くなっていた。どうやら考え事をしていたので時間があっとゆうまに過ぎたようだ。
ここに居ても仕方ないので図書館から出る為にカートを押しながら受付に向かった。
「済みません集中しすぎて時間が経つのを忘れていました」
「いえ、構いませんよ。閉館まで後少しありますので……余りにも真剣に考えて居ましたので歴史の本の順番が回って来た事を言いましたが覚えていますか?」
お姉さんは微笑みながら聞いてきたが全く身に覚えがない。そんなに真剣に考えていたのか……。
「歴史の本? ああ、済みません。そう言えばお願いしていましたね」
「ええ、こちらにありますがどうされますか?」
「ご迷惑でなければ少し見ても良いですか?」
「ええ、良いですよ。それでは私はこのカートの本を並べて来ますね」
お姉さんは本を戻す為にカートを押しながら去っていった。俺は手に本を持って近くの席に移動した。
本を開いて見ると大体調べた事と同じ内容だった。あの纏めとも違っている点はない。この国にある本だから都合の良い事を書いてある可能性はあるがここでは調べようがない。
取り敢えず図書館での調べものは一旦終了して良いだろう。今後はミハエル対策に何か良い手がないか考える方が良さそうだ。
もしここに特許製品の制作図があるならそれを盗んで他の国に持って行くのも手だが上手く行く気がしない。寧ろそれを理由に他国に戦争を仕掛けそうだ。
取り敢えず本は読み終わったので受付に持って行く。
「有難う御座いました。おかげて助かりました」
「良いですよ、これが私の仕事ですから」
「また来た時は宜しくお願いします」
「ええ、お待ちしております」
お姉さんに見送られ図書館を後にした。寝床の建物の近くに行くと人が全然居なかった。恐らく食事の時間なのだろう。森の近くに馬車と認識阻害の魔道具を出し中で食事をした。今日はサンドイッチを食べたがとても美味しかった。
ふわふわの卵サンドやサクサクのカツサンドを食べ寝る事にした。一晩経てば良い考えが浮かぶかもしれない。
※
朝になり食事を食べたが良い考えは浮かばなかった。そろそろ待ち合わせの場所に行かないと集合時間に遅れてしまう。
何時ものように城を出て奴隷販売代理店に移動する。歩きながら露天の商品を見ていたが特に欲しい物は見当たらなかった。
店に着きカウンターを覗いてみるとアリスちゃんが寝ていた。起すのも可哀そうなのでカウンターにお土産のフルーツケーキを置き奥の部屋に移動する。
部屋には俺とバードのウリエル以外が既に集まっていた。まだ集合時間の10時まで15分も前なのだが何故早く来ているのだろうか。
「今日は随分と早いな?」
「儂は昨日の酒が飲めると思ってな」
「僕はそんな理由じゃないぞ!」
「嘘付け。昨日は美味しいって食べてただろ」
クラウドの言葉に反応したロッドマンをジョンソンがからかっている。同じ魔法使い同士だから中が良いのか?
「君が夜中に女を連れ込んでたから寝不足だったんだよ!」
「おいおい。俺のせいってか? 大体俺が何をしてたって言うんだよ?」
「そ、それは……アレだよ……」
「アレって何だ? アレだけじゃ分からねえよ」
「そ、そんな事僕の口から言えるか!!」
ロッドマンが真っ赤になって言っているのに対しジョンソンはニヤニヤと笑っている。この関係は嫌いだから虐めているのではなく。反応が面白いからやっているのだろうか?
しかしこれが原因で連携出来ないようになると問題なので一応注意しておくか。
「その辺にしておけ。ジョンソンはお前の反応が面白くてやってるんだと思うぞ。平常心を身に付けろ。
ジョンソンお前は子供が出来て困るような事だけはないようにしろよ」
「僕は反応何かしてないよ!」
「してるだろ? 今も大声を出してるからな」
「う……分かったよ」
「その点俺は問題ないぞ。俺は基本的に後ろしか使わないから」
何故俺はこいつの性癖を聞いているのだろうか? 別に聞きたかった訳ではないし聞くつもりもなかった。
「後ろ?」
「それはなケツの――」
「止めろ! 説明しなくて良い!」
ロッドマンの問いにジョンソンが答えそうになったがギリギリのところで止める事が出た。ジョンソンは下ネタ好きなのか? まあ、ジョンソンの事なんてどうでも良いか。
「まだ少し時間もある事だし何か摘める物を出そう。昨日と同じような物で良いか?」
「儂は構わん」
特に反対意見もなかったので昨日と同じような料理と酒を並べると皆自分の好きな物を食べ始めた。
俺もジャーキーを食べながら見ているとロッドマンとジョンソンが隣同士に座って話していた。やはり仲が悪い訳ではないようだ。
ここから話しは聞こえないがジョンソンがロッドマンに何か話し掛けている。すると突然ロッドマンの顔が赤くなり酸欠の金魚のように口を開け閉めしていた。
きっとさっきの話しの説明をしたのだろう。ジョンソンは赤くなり恥ずかしそうにしているロッドマンを楽しそうに見ていた。
しかし何処か違和感がある。ジョンソンはロッドマンの距離が近いし、右手はロッドマンの後ろのソファーの背もたれに置かれている。
相手が女なら可笑しくはないが男のロッドマンにするのは可笑しい。からかっているのだろうか?
ふとジョンソンの口を見ると『次はこいつにするか』と動いていたような気がした。いやしかし気のせいだろう。俺は読心術なんて使えないしたまたまそう見えただけだ。こんな事は早く忘れてしまうに限る!
※
「良しそれでは報告をして貰おう。昨日と同じく連携から聞く。クライム、ジェイソン、アルセロの順番で頼む」
10時になったので報告を聞く事にした。今日はバードのウリエルが帰って来る予定の日だがいつ帰って来るか分からないので帰り次第報告を聞こう。
「儂等の連携は昨日よりは良くなったのう」
「そうか、ジェイソンの班はどうだ?」
「こちらも昨日よりは良くなった」
「……俺のとこも同じだ」
「そうか、分かった」
連携は徐々に上手くなっているようだ。いつまで時間があるか分からないが何もしないよりは良いだろう。
「リードとトーマスは何か情報は掴んだか?」
「昨日言われた通り魔道具を調べたが殆どは特許申請中や一斑的にある物だった」
「そうか、こちらでも特許関連は調べたから同じ内容のようだな」
「僕も方は特に何もないよ」
「そうか……」
今回は特に収穫がないようだ。ここ迄かなりの情報を手に入れる事が出来たので今日も手に入れる事が出来ると思っていたがそんなに都合良くはないようだ。
「クライム、ジェイソン、アルセロは今日も連携の練習をしてくれ。リードとトーマスは情報を集めてくれ。今度はルーキンス家の事を重点的に調べてくれ。
それでは今日も昨日と同じように12時まではゆっくりして良いぞ」
「了解じゃ」
「分かった」
「……了解」
「了解だ」
「分かったよ」
俺が言うと皆はさっそく料理を食べ始めた。俺も暫くゆっくりとしよう。
そろそろお開きにしようかと思った頃誰かが部屋に入ってきた。
「只今戻りました」
入ってきたのはバードのウリエルだった。予想ではもう少し後に帰ってくると思っていた。
「お帰り、早速で悪いが報告を聞いても良いか?」
「はい、分かりました。結論から言うとな事店主とその奥さんを保護する事が出来ました」
「生きていたのか!?」
驚きだ! きっとルーキンス家に捕まって利用されていると思っていたので死体さえ見つける事は出来ないと思っていた。
「はい、私が街に来た時は危険な状態でしたがポーションのお蔭で何とかなりました」
「怪我をしていたのか?」
「ええ、本人に聞いたところ盗賊に襲われ奴隷を連れ去られたそうです。その際抵抗して両名とも切られたと言っていました」
「盗賊に?」
「はい、そして瀕死の状態でしたが下級ポーションを飲みながら近くの街に逃げ込んだそうです」
「因みに襲われたのは移動中か?」
「はい、王都から出ようとした所で襲われたそうです」
「という事は城下町で襲われたのか!?」
「ええ、そうらしいです」
これはスラムで起こっている誘拐事件と関わりがありそうだ。もし黒幕がミハエルなら店主が生きて帰ってくるのは危険かもしれない。
「そうか、今店主達はどうしている?」
「まだ病み上がりなので街にてゆっくりしています」
「なら問題ないな。取り合えず店主達が生きている事は秘密にする。犯人がしれば殺しに来るかもしれん」
「分かりました」
「良しそれではお疲れさま。今日一日はゆっくりとして良いぞ」
「有難う御座います」
バードのウリエルと暗視終わった後料理を食べるように勧め移動する。そしてリードとトーマスを見つけ隅に移動した。
「二人には伝えておこう。ここの店主達がな事に見つかった」
「本当か?」
「良かったね」
「ああ、だが王都で盗賊に襲われ奴隷を連れ去られたらしい、更に抵抗した為深手を負い命からがら近くに街に逃げたようだ。
このまま店主達が生きて王都に帰って来るとまた狙われる可能性がある。それを防ぐ為に情報を集めて欲しい」
「お世話になってた事だしな。了解だ」
「僕も良いよ」
「それでは宜しく頼む」
二人に情を集めるように頼み俺は椅子に座った。