14話目 魔道具の製作者
12時になりトーマス以外は情報収集と訓練に向かった。お酒を飲んでいた者のいたが大丈夫なのだろうか。
「それではトーマス魔道具製作者の所に案内してくれ」
「分かったよ。付いて来て」
「分かった」
トーマスの後を付いて行くとスラムの端にたどり着いた。やはりスラムと言うだけあって清潔的とは言い難い場所だ。
「ここに居るのか?」
「うん。多分居ると思うよ」
目の前の建物はボロボロで雨風を防ぐ事は出来そうにない。他のスラムの建物も同じような物だから浮いてはいないが、仮にも魔道具を作れる人間が住んでいるとは思えなかった。
「スミマセーン! 誰か居ますか?」
トーマスは扉をノックというには些か強く叩いていた。そんなに強く叩くと扉が壊れてしまうかもしれない。
暫くすると一人の老人が出てきた。
「誰じゃ? おお、トーマスが元気にしておったか?」
「うん! 元気だったよ!」
「そうか、それは何よりじゃ。それで其方さんは誰じゃ?」
「僕のご主人様。今日はお願いがあって来たんだよ」
「そうか、立ち話も何じゃから中に入りなされ」
「そうですか、それでは失礼します」
「お邪魔しまーす」
部屋の中は狭くテーブルとベットしかなかった。大人が4人も入ればこの部屋は一杯一杯だろう。幸いここには大人3人だが1人は子供サイズなので圧迫感は然程ない。
「何もない部屋じゃが話しを聞く事はできるぞ」
部屋の中を見ていたのが分かったのだろうか。出来るだけ相手の心象は良い方が良いのでお世辞でも言うべきか?
「気にしないで良いよ。爺さんの作業部屋は地下にあるからね」
トーマスがフォローなのか答えてくれた。地下に部屋がある事を知っているので信頼されているのだろうか?
「失礼しました。魔道具職人の自宅と聞きましたので些か興奮してしまいました」
「儂は気にしとらん。それよりも今日は何の用じゃ?」
「前に爺さんが作った長距離通信用魔道具の事でがあるんだ。前に良い材料があればもっと良い物が作れるって言ってたよね?」
「確かに言ったがのう。軍と同じような物を作ろうとしたら、かなりの質の物を用意せんと出来んぞ」
老人は顎髭を撫でながら答えた。
「それならば問題はありません。恐らく指定される物はご用意出来ます。問題はどの程度の物を作れるかお聞きしたいのですが」
「ほう、儂の希望する物を全て用意出来ると?」
「ええ、今ある物でしたら出す事は出来ますが、もしないようでしたら後日持ってきます」
「ならば、天竜の髭は持っているか?」
アイテムボックスの中を調べて見るがなかった。しかし倉庫にはあるだろう。買い占めの際材料系も全て買ったので持っていない物はないだろう。
「今手元にはありませんが後で良ければお持ちします」
「そうか、顔色一つ変えんとなると本当の事か……。貴ようは通信用魔道具にどの程度の性能が欲しいのだ?」
意外にも話しが分かるらしい。てっきり現物を持ってこないと信じて貰えないと思っていたが。しかしこの老人やたらと顎髭を撫でている癖なのだろか。
「そうですね。良ければ軍に採用されている物の性能をお聞きしても良いですか?」
「確か、通信距離は10km、チャンネルは30、耳に装着するヘッドホンタイプと首に着けるネックレスタイプがあり声もしくは考えを送る事が出来る筈じゃ」
「声か考えをですか?」
「ああそうじゃ。声は喋っている事を伝えるが考えは心の中で思った事全てを伝える。むろん相手に伝える時はボタンを押さんと伝わらんが、押している最中なら思った事が筒抜けになってしまうんじゃ。
だから音声を使う人間は何かやましい事や聞かれたくない事があるんじゃろう。音声にしておけば心の中の声は聞こえんからの」
そう言えば顔なじみの門番は音声通信ではなく、心の声だった。逆にミハエルは音声通信をしていた。最後に愚痴っていたし心の中は聞かせれない事ばかりなのだろう。
「そんな機能もあるんですね。……因みにチャンネルを合わせれば他の者でも聴く事が出来るんですよね?」
「そうじゃろうな」
それは不味い。チャンネル数が30しかないという事は俺達の会話が聞かれる可能性があるという事だ。
これが普及している物なら問題ないがまだ数は余りない物ならな用な使用を制限しているか可能性がある。
そんな中会話をしていたらかなり目立つだろう。最低でもチャンネル数は数百もしくは専用通信チャンネルがあれば良いのだが……。
「私が欲しい物は専用のチャンネルもしくは通信チャンネルが多いものであり、通信範囲は出来る限り広い物です。もちろん音声と心の声の通信が出来タイプは両方です。
簡単に言うと最高の物が欲しいのです」
「そりゃ、かなりの難題じゃな。作れん事はないがかなりの物が必要になるじゃろう。それにじゃ、先程の内容じゃと秘密裏に事を進めたいようじゃが材料を店で買うとすれば足がつくぞ」
「その点は問題ありません。むしろ指定した材料をお持ちすれば作って頂けるのかが問題です」
「どんな手を使うつもりかは分からんじゃが、ここに書いてある材料を持ってくれば最高の物を作ってやろう」
老人は苦笑しながらも一枚の紙を取り出した。そこにはかなり高ランクのアイテム名が書いてあったが恐らく大丈夫だろう。
「この材料なら用意出来ます。結構な量が早急に欲しいのですが、どの程度作れますか?」
「儂が一日に作れるのは2~3個じゃ。もっと早く作る事も出来るんじゃがその分出来が悪くなってしまうがのう」
「可能な限り良い製品の方が望ましいですので急がずに作って頂きたい。材料を届けさせますので取り敢えずは30個程作って頂けますか?」
「30もじゃと?」
老人は目を見開き驚いていた。予想以上に多かったのだろうか? しかし場合によっては品質を落とした物を大量に頼む可能性がある。この事は伝えないでおこう。
「ええ、な理を承知でお願いしますが……」
「構わん。少し驚いだだけじゃ」
俺が言い終わる前に老人は声を被せてきた。しかしこれで作って貰える事になった、後の心配は品質だが、老人が事前に紙に書いた材料リストを持っていた事を考えると恐らく大丈夫だろう。
老人も作りたかったのだろう。でなければ作れない設計図や材料リストなどは用意しないだろう。
「それではトーマスに材料を届けさせます。出来上がった物もトーマスが取りに来ますが私もいずれお伺いします」
「分かった。早く材料を持って来るんじゃぞ」
「分かりました」
「直ぐに持ってくるよ。爺さん」
老人に見送られスラムを後にする。……肝腎な事を伝え損ねた! この話を漏らさないように口止めをしていない! 老人も内密にして欲しいそうだとは感づいていたが言っておいた方が良いだろう。トーマスに材料を持って行かせる時に伝えよう。
「何処に材料を取りに行くの?」
「自分の店だ」
「自分の店? 商売してたの?」
「そんなとこだ」
そう言えば仲間には俺が店を経営している事を伝えていない。もっとも今まで主が居なかった店の店主だと言って信じる奴が居るとは思えないが。
「そうなんだ。護衛が主な任務だって言ってたからどっかのお偉いさんか坊ちゃんと思ってたんだけどね。外れちゃった」
「残念だったな。俺は1人で店を構えたし誰かに助けて貰った事はないぞ」
「羽振りの良さから考えると結構もう買ってるんだね?」
「そうだな。…………着いたぞ。ここが俺の店だ」
「ここって……本当に?」
「入って見れば分かるさ」
そう言うと俺はトーマスと店の中に入っていった。