13話目 仲間の成果
「全員集まったな」
10時になる頃には全員集まった。飯を食べている者、酒を飲んでいる者様々な者がいるが皆楽しんでいるようだ。
「集まりましたね」
「それでは報告をしてもらう。先ずは連携についてだ。クライム、ジェイソン、アルセロの順番で聞く」
「儂等の連携はまずまずじゃ。後3日もあればある程度の連携は出来るじゃろう」
「ある程度とはどの位の連携になりそうだ?」
「急造の部隊よりマシと言ったところじゃろうな」
「そうか。ジェイソンはどうだ?」
「同じようなものだ。一流のチームを望むなら最低でも3ヶ月は必要だ」
「成る程、アルセロはどうだ?」
「……俺のとこも変わらん」
「そうか……」
思ったより連携は難しいようだ。最初からすんなり行くとは思っていなかったが、3ヶ月もゆっくりと訓練している時間はない。
むしろ明日どころか今日にも戦闘する可能性はある。偶然に知ってしまった情報が不味過ぎる。
「ならば引き続き連携の訓練をしてくれ」
「了解じゃ」
「分かった」
「……了解」
「それでは情報を聞こう。リード話してくれ」
「俺は伝手でギルドに聞きに行った。大した情報はなかったが誘拐事件が多発しているのを聞いたぞ」
「それは俺も確認している」
「そうか。誘拐されているのは主にスラムの連中だ。ここ最近でかなりの人数がいなくなったらしい。
元々スラムは人がいなくなりやすい場所だが、一区画丸ごといなくなるのは可笑しい」
「誘拐事件が発生していると聞いていたが、そこまで大規模だったのか?」
「ああ、スラムに友人や知人がいる人間は知っているが普通の人間は知らないだろう。 他にも数人の一般人も誘拐されている。目的等は不明だ。
それと店主達の行方だが一切情報がなかった」
「何もなかったのか?」
「ああ、何もなかった。護衛に付いていた筈の冒険者やこの近く出たと言われている盗賊、更に王都から出たかどうかすら不明ときたもんだ。
明らかに可笑しい。王都から外に出れば多くの人間が見ているはずだし盗賊に襲われたって何かしらの情報は手に入るはずだ。
誰かが意図的に情報を隠しているんじゃないのか?」
「そうだな。これで只の偶然と言うのは可笑しいだろう。この店や店主等に恨みを持っている者の犯行か?」
「商売がら敵はいるだろうがそこまでする奴はいないだろう。それにここ迄情報を一切残さないように出来る人物はそう多くはないと思うが」
「そうだな。国王や貴族、金を持った商人ってところか?」
「だろうな……」
なかなか面倒なことになってきた。犯人はかなりの権力や金を持っているらしい。そしてその人物に心当たりがある。ルーキンス家の連中だ。
あいつ等は裏で色々とやっているので今回の件に絡んでいても不思議ではない。寧ろあいつ等が指示を出している可能性がある。
「他にないか?」
「今の所はないな」
「そうか、ではトーマス聞かせてくれ」
「僕の方も同じような内容だよ。誘拐事件や目撃証言も……でも一つ面白い情報があったよ。
月がない深夜スラムに黒ずくめの連中がいたって。そして次の日にはその場所のスラムには誰もいなくなってたって言ってたよ」
「誰からの情報だ?」
「酔っぱらいのお兄さん。お酒飲んでたから気のせいかもしれないけどって言ってたよ」
「不確定な情報か……」
見間違いや嘘の可能性もあるのか。確定情報なら良かったが、それでも予想は出来る。ミハエルが言っていた『部品』に関係がありそうだ。
質の良い物や派手にやると足がつく、兵士が感づいているなどと言っていたので関係がありそうだ。
しかし今知っている情報を仲間に話すことは出来ない。情報を知っていること事体が危険だし、国どころか世界の危機と知れば考えなしに行動しそうな者もいる。
ここは俺だけが知っていればいい。その都度的確な指示を出していく方がいいだろう。
「よし、話は聞かせてもらった。後はバードのウリエルの報告だが明日以降になる。故に明日の10時にまたここに集合してくれ。
クラウド、ジェイソン、アルセロは今日も連携の訓練をしてくれ。リードとトーマスは入手して欲しい物があるのでこの後俺のところに来てくれ。
よしそれでは12時迄このまま食事を続けていいぞ」
感謝の言葉を口にして皆食べ始めた。既に結構な量を食べているのに良く入るものだ。部屋の隅に移動するとリードとトーマスが俺のところに来た。
「何だ? 入手したい物」
「何かヤバイ物なの?」
「長距離通信用魔道具って知っているか?」
「この頃軍に配備された物だろ?」
「ああ、それを入手して欲しい。もちろん足のつかない方法でな」
「簡単に手に入る物じゃないぞ」
「厳しいと思うよ。軍に普及はしているけど物は厳重に管理されてるからね」
「それは分かるんだが、どうしても手に入れときたいんだ。今後それがあるかないかでかなり状況が変わってくる」
「無理だ」
「僕は質が悪くてもいいなら当てがあるけど……」
トーマスは苦笑いしていたが心当たりがあるらしい。
「なるべく質がいい方がいいんだが、どの位悪いんだ?」
「えっとね。確か雑音が混じってかなり聞きにくいのと魔道具同士の距離が5m以上離れると使えなくなるよ」
「もっと質がいい物はないのか? 流石にそれは使えそうにない」
思った以上に質が悪かった。玩具のトランシーバーより性能が低いんじゃ使い道がない。
「作った本人はもっといい材料があればいい物が作れるって言ってたよ。……嘘か本当か分からないけど」
「そうか、なら製作者に会ってみる方がいいかもしれないな。
よし、ではリードは引き続き情報収集を頼む。ついでに便利な魔道具の話しも聞いておいてくれ。
トーマスはその製作者の所に案内してもらうからな。ああ、12時からで良いぞ。それまでは休憩していいぞ」
「了解だ」
「分かったよ」
リードとトーマスは話しが終わると料理の方に行ってしまった。しかし意外に魔道具を手に入れるのが大変そうだ。
そこらの兵士が横流ししても足がつくだろうし。最新の道具だからこそ管理もしっかりしているだろうし対策に発信機でも仕込まれていそうだ。
それに通話チャンネルが一つという事はないと思うが数が少なかった場合こちらの会話が筒抜けになってしまう。
出来ればノイズはなし、通信範囲は10km以上でチャンネルが多くある物が良いが……手に入るだろうか? 今日行く作り手が腕の良い人物なら制作可能かもしれないが、最悪質が悪い物で我慢するしかない。ないよりはマシだろう。
しかしアリスちゃんの両親はもうこの世にはいないのかもしれない。目撃者もいないのであれば誘拐に巻き込まれた可能性がある。死んでいたとしても死体さえあればエリクサーで蘇生出来るが死体がない場合は蘇生する事は出来ない。
例え秘薬があろうと使う体がないと宝の持ち腐れになってしまう。その場合はアリスちゃんに何と伝えようか。
俺達が両親を探しているのを薄々感づいていると思うが、それだけに期待しているのだろう。
だからこそ、言いたくはない。『両親は死んでいる』と。幼いアリスちゃんは悲しむだろうし、本当は貴族に誘拐され『何か』に使われていると言うとアルスちゃんは壊れてしまうかもしれない。
だからこそ生きていて欲しい。もし生きていなくても死体さえあれば良い。それならば助けることが出来る。
生きてアリスちゃんを救って欲しい。俺はそんなことを考えていた。