11話目 3日目の朝
あの後、なかなか寝付けず朝を迎えた。寝ようとしても気になって眠れず対策方法を考えていたからだ。
だが良い方法は思い浮かばなかった。仮にミハエルの目的が世界征服の場合、この国から逃げたとしても、いつかは捕まるか殺されるだろう。
だからといって今ミハエルを殺すことは難しい。彼奴の周りにはいつもプレイヤーがいるので成功率は低い。
それにゲームの中では商人と牧場主は最弱のジョブだ。戦闘力が殆どないしレベルを上げてもステータスは1しか上昇しない。他のジョブは最大で10上がるのでレベルが同じでもステータスは絶望的に違う。
最初から自らの手で殺すことは出来ないのだ。それならばアイテムを使った方法はどうかと思ったが攻撃系のアイテムでは一撃で殺すことは難しい。
威力の高い物であればHPの80%のダメージを与えると表記されているので一撃で殺すことは出来ない。固定ダメージの物もあるが、それだけで殺せるかわからないので使えない。
暗殺に失敗すれば証拠を残すことになるし、それから実行犯と黒幕を調べるのは簡単にやりそうだ。そうなれば俺は殺されるか洗脳されるだろう。
ここは情報を意図的に伏せ協力者や誘導してミハエルに敵対する者を集めるのが一番良さそうだ。
ゲーム時代の知り合いも来ているので、そいつらを引き入れよう。多分協力してくれるはずだ。
朝日が上り始める前に身支度を済ませ馬車と認識阻害の魔道具をアイテムボックス収納する。
誰かにここに馬車があったことを知られると不味い。それがミハエルの耳に入る可能性もある、用心に越した事はない。
辺りを歩いているとあることに気づいた。昨日よりも馬車やテントの数が多くなっていた。
昨日の虫騒動で外で寝ている人が増えたのだろう。にも関わらず建物で寝ているならその人には理由があるのだろう……馬車やテントを持ってないなどの理由が……。
これはチャンスだ。今の内に取り込まれていない者をこちらの陣営に引き込もとするか。ただ、どの程度の人数がいるのかは不明で誰もいない可能性もあるが……。
建物の中を歩いているが人の気配がない。やはり皆違う場所に泊まったか?
一階から順に調べたが人っ子一人いなかった。残念だが仕方ない、そこまで都合良くはなかったらしい。
朝の鐘が鳴る頃には多くの人が起きていた。ラジオ体操をしている者や日光浴をしている者など様々だ。
だがここにいる人は些か少ないように感じる。昨日はもっと人で溢れ返っていたような気がしたが……。気にはなったがお腹が鳴ったので中庭に移動した。
少し早く来すぎたのか料理を並べている最中だった。メイドさん達が忙しそうに働いていた。突っ立っているのも邪魔になるので壁際に寄り掛かる。
しかしここのメイドさんは美女や可愛い子が多い。更に胸を強調する服装でスカートの丈が短いので目の保養になる。
女の子を目で追っていると同じことをしている男がいた。初日にアマゾネスをガン見していた男だ。
男は食い入るように女の子を見ており気味悪がられていた。しかし朝っぱらからエロいことを考えているとは恐れ入る。きっと奴の頭の中には性欲しかないのではなかろうか?
ここは男に話し掛け情報を集めたり仲間に引き入れる方が良いのかもしれないが同類とは思われたくないので止めておこう。
そう思いっていたが思いは届かず男の方から近づいてきた。
「よう! アンタもメイドさんを見に来たのか?」
「いや、たまたま早く起きて暇だったから来ただけだ」
止めてくれ! 近くにいたメイドさんがこちらを汚物を見るような目で見ているじゃないか! しかし何でここ迄嫌われているんだ。この男は?
「照れるなよ。俺には分かるぜ! お前は俺と同じ匂いがする!」
そうか。こちらに来てから風呂に入れず濡れた布で体を拭いていただけだったからな。今日はしっかりと風呂に浸かり体の隅々まで綺麗に洗うとしよう! そうすれば此奴も勘違いだと気づくはずだ!
「気のせいだろ? それよりお前は何でこんなに早く来てるんだ?」
此奴に対して敬語や気配りは必要ない。寧ろ此奴が怒ってどこかに行けばな関係とメイドさん達に思って貰えるだろう。
「おう! 聞いてくれたか! 実はなメイドさん達の働く姿を見てたんだ。スカートの丈が短いからちょっと屈んだだけで見えるんだよ!」
よし! 此奴は只のエロだ! 欲望のままに生きている。何も情報は持っていないだろうしミハエルに洗脳もされていなさそうだ。
「おい。呆れた顔すんなよ。冗談、冗談だよ!」
ポーカーフェイスのつもりだったが呆れた顔になっていたのだろうか。しかし冗談だったとは……てっきり本当のことだと思っていた。
「そうか。本当は何してたんだ?」
「本当はな、情報を調べてたんだよ」
間抜けな行動も表情もフェイクなのか! 俺が騙されるとは恐れ入る。かなり演技力に長けた奴だったんだな。
「そうか。情報を集めていたのか。実は俺も情報を集めているんだが情報交換といかないか?」
「ああ、良いぜ!」
「有難う。先ずそちらの情報を聞いても良いか?」
「俺が知っている情報はメイドの情報だけどな」
そうか! だからメイドを監視していたのか、相手に気付かれても只のスケベのように振舞って! 見上げた根性だ。
「この国にメイドは昔からいたが服装が変わったのは10年前からで、それまでは野暮ったいメイド服だったが行き成り現代に近いメイド服になったんだよ。それに下着等も10年前から格段に進歩し現代に近い物になってる」
かなり調べている、恐らくこの情報を集めている内に何かに気づいたのだろう。でなければメイドの事や服に絞ってここ迄調べないだろう。
「このメイド服を推薦したのはルーキンス伯爵で城下町にある下着店もルーキンス伯爵の物ばかりだ。
そればかりかデザインの良い服屋も全てそうだったよ。これだけ言えば分かるだろう?」
あぁ、分かるともルーキンス伯爵の子供には天才のクライム・ルーキンスがいる。此奴はまさか服のこととメイドを調べただけでルーキンス家が強い権力を持っているのが分かったのだろうか? ルーキンス家に天才がいるのは少し調べれば分かることだが、王城の中まで自由に出来る権力を持っているのは調べることは難しいだろう。それにメイドの中には身分の高い者もいる。箔付の為に王城でメイドとして働かせ礼儀作法を覚えていることをアピールしあわよくば王子や王のお手つきならないかと虎視眈々と狙っている。
そんなメイドの服を嫌らしい物に変更出来る物はそうはいない。例え王が言ったとしても他の者が反対するだろうしかなりの協力者がいないと難しいはずだ。
それを実行出来るルーキンス伯爵はかなりの権力と協力者が大勢いることになる。まさかここ迄調べるとは評価を改めなくてはいけない。出来る奴だと。
「短期間の内にここ迄調べるとは驚いた。かなり優秀なんだな」
「よせよ! 照れるぜ。分かったと思うがルーキンス伯爵は俺らと同じエロスの魂が宿っている。
でなければ、ここ迄短期間でエロ服を着ていても可笑しくないと思わせることは出来ないからな。ルーキンス伯爵は天才なんだ! きっと次は水に溶ける服を作るだろうぜ!」
恥ずかしい! とてつもなく恥ずかしい!! 評価を改めた矢先にまたドン底に落ちるなんて! ドヤ顔で『出来る奴だと』とか思っていたのが恥ずかしい! いかん、これ以上此処にいては恥ずかしさの余り壁に頭を叩きつけそうになってしまう。早く立ち去らなければ!
「有難う。情報を聞けて良かった。急用を思いだしたので失礼する」
「おう、気にすんな! 同士だからな!」
男と別れ中庭から離れる。途中メイド達から睨まれているような気がした。出来るだけ人に会いたくない。どこかに良い場所はないだろうか?
当てもなく城内をさまよっていたが図書館の裏には人が誰もいなかったので寝転がった。
ここで落ち着くまでゆっくりとしよう。朝食は手持ちの食料アイテムを食べれば良い。回復アイテムだが食べれば腹は膨れるだろう。
アイテムボックスからハンバーガーとポテトを取り出し食べる。ハンバーガーもポテトも熱々で出来立てのようだ。ハンバーガーは食べると肉汁が溢れ出て刻んてあるオニオンとケチャップそしてチーズとの相性が良い。
そしてそれ等を全て包み込むかのように挟んでいるバンズは柔らかく表面はパリッとしている。これこそ究極のハンバーガーと言えるだろう! 今までの人生の中でここ迄美味しい物を食べたことはない!
付け合せのフライドポテトは皮付きのまま揚げられており形は串型だった。だか食べてみるとこれも美味しい。
ただ切って上げただけとは思えない程表面はパリッとしていて中はホクホクだった。
素晴らしい! 先程のことが気にならない程に感動してしまった。これならば3食同じ物でも良い。寧ろこれ以外の物を食べるのは勿体ない気がする。
最早この城に用意して貰っている料理を食べる気にはならない。次回からは行かないようにしよう。
暫くの間、素晴らしい料理の味を思い出しながら座り込んでいた。