10話目 深夜の密会
「引き止めて悪かったな」
「いえ、お話出来て楽しかったです!」
「それは良かった。またな」
「はい、さようなら!」
中学生と別れて寝床の建物に向かう。出来ればもう少し情報を手に入れえおきたいので他の人にも聞いてみるか。
※
その後数人に聞いてみたが大した情報は手に入らなかった。大体似たような話しだったし発明品についてもバイクと車の話しばかりだった。
可能ならどんな発明品を作っているのか、どの程度特許を申請しているのか知りたいものだ。
他にも知りたいことが多過ぎる。一度調べた情報も他の形で真偽を確かめたい。図書館の書物もしくは信頼出来る人で確認した方が良さそうだ。
暫く考えていると鐘の音が聞こえてきた。どうやら夕食の時間になったようなので中庭に移動した。
中庭のテーブルには大量の料理が並べられており、朝と同じようにバイキング形式だ。
しかし相変わらずイケメンの周りには多くの人がいた。あれでは食べる暇もないだろう。
適当に料理を摘んでいたが骸骨とオークが近くに来たので退避した。せっかく美味しい料理を食べているのに気分が悪くては台無しになってしまう。
辺りを見回して見ると中学生が同い年位の集団と話しているのを見かけたが近くには行かなかった。
大人が中学生の集団の中に入るのは無理があるし嫌だ。気づかれないように移動するのが正解だろう。
恐らくここに居る人は大した情報は知らないだろう。今日聞いた話しからすると城から出ていない者が多いそうだ。
逆にここに居ない者は外で情報を集めたり遊んだりしているようなので、そちらの方が色々と知っていそうだ。
早めに料理を食って寝てしまった方が良いだろう。今日はあの部屋では寝たくないので私物の馬車の中で寝るか。
早めに場所を確保した方が良さそうだ。
料理を満足するまで食べ一早く中庭から立ち去る。寝床の建物の辺りまで来ると良さげな場所を探す。
出来れば余り馬車がなくて静かそうな所が良い。近くで何時までも騒がれたら寝不足になりそうだ。探していると良さそうな場所を見つけた。
木が密集して生えている近くには馬車が殆どなかったのでアイテムボックスから大型の馬車を取り出し置く。
この馬車もランクとしては神級クラスなので寝心地は良いはずだ。このランクの馬車で注意を引きたくないので神級の認識阻害の魔道具も設置する。
これを使うことでこの中には入って来れないしここに馬車があるとは認識出来ないはずだ。
明日も予定がビッシリと詰まっているので今日はもう寝るか。馬車の中に入り座席に横になった。
※
「上手――っている――ミハ――ルーキンス?」
いつの間にか寝ていたが近くで話している奴の所為で起きてしまった。人が近くで寝ているのに話しをするなんて非常識だ! と思ったが今の俺は認識されていないので分からなかったのだろう。仕方無いので我慢して寝るとするか。
「ええ、勿論です父上」
「ならば問題はない。此方も問題なく計画は進行しておる」
「それは何よりです。異世界人洗脳計画も後4~5日程あれば終了する予定です。
大規模ギルドの『タイタン』に絞って洗脳を行なっています。このギルドには完全洗脳が終了した後『生産ギルド』そして『廃人連合』を洗脳します。
その他の者は低ランクや有象無象ですので放置する予定です」
「そうか、しかし高レベルの異世界人を放置するのは危険ではないのか?」
「彼らは人付き合いが出来ない人間ですので今近寄るのは悪手です。徐々に信頼を勝ち取り洗脳します。
それに『タイタン』はギルドマスターが来ていますが、凡人ですので引き立て役として利用しています。
誰でも只の凡人リーダーより頼りになるリーダーの方が良いでしょう?」
「フフフ、そうだな。我が家をたった5歳で立て直し王族まで従えるようになった者が言うのだからな」
「いえ、私はそんなに大層な人間ではありません。赤子にして言葉を話しな滑稽な事を言っていた私を信じて下さった父上こそが、全ての者を従える王に相応しいでしょう」
「そうだろう、私こそが王に相応しい」
寝ようと思っていたが聞こえてくる会話が物騒過ぎたので聞き耳を立てていた。しかしプレイヤーを洗脳するとは……。確か『タイタン』大規模ギルドで今回転移に巻き込まれた人間も多かったはずだ。
その大人数を後4~5日で完全に洗脳するとは恐ろしいものがある。こんなに大胆な手を考えているのは誰なんだ?
「しかし、お前には同族意識はないのか? 仮にも同じ異世界人だろう?」
「違います父上。元異世界人です。今はこちらの世界の住人ですよ」
「そうだったな。赤子が『違う世界から転生して来た』と言った時は何の冗談かと思ったが」
何!? 元異世界人だと? 『違う世界から転生して来た』この言葉通りなら転生したんだろうが何故他の人間を巻き込む?
わざわざ危険分子を呼び出す必要はなかったはずだ。
「父上こそ赤子の言葉を真に受けて発明をしていたじゃないですか」
「あぁ、お蔭で我が家は没落を免れた。それどころか影でこの国を操る事さえ可能になったな」
「フフフ、そうですね。今やこの国の王は傀儡、父上が意見には逆らえませんので」
「そうだな。そう言えば人工ゴーレムの部品が足りなくなってきたようだ。至急集めて欲しい」
「部品ですか? この頃派手に動いていますので兵士共が感づいて来ています。暫くは手持ちで足りませんか?」
「いや、足りぬな。今行なっておる作業が滞っても良いなら可能だが……」
「それは不味いですね。暫くは持つと思ったんですが……」
「部品の質が悪すぎる。もっと良い物なら寿命も伸びるだろうが今のままでは精々一ヶ月程だ」
「分かりました。何時ものを送りましょう」
「質が良いのは送れんのか?」
「質を高めると足が付いてしまいます。出来るだけ質の良さそうな物を送りますので……」
何だ? 人工ゴーレムの部品は見つかると不味い物なのか? それに話しているのはクライム・ルーキンスじゃないか?
今なら気付かれずに顔を確認出来る、物音を立てないように馬車のカーテンをそっと捲る。
「ん……?」
「どうかしたか?」
「いえ、誰かに見られている気がしましたので……」
「誰かに聞かれたのか!?」
「どうやら気のせいのようです」
「そうか……なら良いのだが」
焦った! カーテンを捲った瞬間にミハエルが此方の方を向いたので見つかったかと思った。そう、話していたのはクライム・ルーキンスではなくイケメンのミハエルだった。
胡散臭いと思っていたが奴は真っ黒だった。準備の良さから恐らく全て計画していたのだろう。
発明品の開発で金を手に入れ家と地位を守り、国をも動かす財力で国王を自由に操り異世界人を召喚させる。そして召喚された者に混じりリーダーシップを取ることで代表もしくは代弁者としてのポジションに収まる。
不安の中解決策を提示されたら飛びつく人間は多い。『人は聴きたい事だけを聞き見たい物だけを見る』こんな言葉があるように人は元来都合の良い言葉を信じやすい。誰だって『明日死ぬ』と言われるより『いつか死ぬ』と言われた方を信じるだろう。
今日死ぬ可能性はあるかもしれないが『実際には起こらない』と思う人間が多い。
だからこそ、人を不安にしたうえで解決策を提示する(解決する)で洗脳する。よく詐欺しやインチキ宗教がやっている手だ。
もはやジョークになっているが『貴方明日死にますよ。でもこのツボを買えば助かります』や『不幸なのは運が逃げているからです。でもこのツボを買えば運はこの中に貯まり良くなります』のような物だ。
実際にはもっと巧妙な手口で来るが話を聞かない方が良い。大金を手に入れた時は似たような輩が押し寄せてきたものだ。
話しがそれてしまったが『父上』という人物は『私こそが王に相応しい』と言っていた。目的は王ようになる事なのだろうか? しかし裏で国王を操っている時点でその可能性は低いだろう。
むしろ都合の良い者を必要としていて、軍用に転用出来そうな物を開発しているのを考えると世界征服でも考えているのだろうか?
今から真意を聞く訳にもいかない。『目的は何だ』と聞いて『世界征服だ!』と答えてくれて見逃すとも思えない。どうしたものか……。
「話を誰かに聞かれたら不味い。連絡は洗脳が完了した時にしろ」
「分かりました父上。そちらも事が発覚しないようにお気を付け下さい」
「分かっておる。それではな……」
「たく、あの爺も俺の言う通りに動いていれば良いものを……そろそろ切り時か?」
会話が終わったと思ったらミハエルは愚痴り出した。元同じ世界の人間らしいがかなり悪に染まっているような気がする。
世界は広いので綺麗事だけじゃ生きていけない地域も在るだろうが、それでも考え方は物騒だ。
『必要ではなくなったから切り捨てる』『邪魔になったから消す』まるで映画に出てくる悪役だ。
虫も殺さないような顔だが腹の中は真っ黒だな。利用され消される前に何か対策を立てておかないと手遅れになってしまう。
ミハエルが辺りを警戒しながら立ち去って行くのを見ながらそう思った。