表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

1、目覚める

目が覚めた。

白いベッドの上。

見慣れたはずの天井。


何も思い出せない。

誰しも寝起きの時は何も考えられないものだが、しばらく経っても頭に黒い靄がかかったみたいに何も出こない。

かろうじて自分が誰だかわかるレベルだ。

自分が身に着けているしわくちゃのブラウスを見て、あかりはため息をついた。


そのまま放心しているのも悪くはなかったが、ベッドの近くにある本棚にあるものを見つけて重い腰を上げた。

おぼつかない歩き方で近づき、目的のものを手に取る。

薄さの割にはずっしりとした重みがある本の表紙には少しクセのある字体で"日記"とだけ書かれていた。

何も考えずに表紙をめくる。



5月13日(月)


今日から日記をつけてみようと思う。

高校生活もまだまだ始まったばかりだし、この日記帳も楽しい出来事で埋まるはず。


5月15日(水)


早速、日記をつけ忘れた。

ホント、自分のテキトーさには呆れる。


5月16日(木)


やっぱりやーめた。

日記なんて面倒くさい。私には向いてない。



わずか1分足らずで読み終えてしまった日記帳を閉じ、あかりはまたため息をついた。

道楽にもほどがある。

こんなに完璧な三日坊主の例が他にあっただろうか、いやない。


習ったばかりの修辞法を頭の中で反復していていたあかりは、しばらく今まで何も映し出していなかったはずのPCモニターが光を発していることに気が付かなかった。

パソコンって、自動で電源がつくような機能があったんだ……。

まだ知らないことが多すぎる女子高生は思わぬところから知識を得る。


モニターに映っていたのはごく普通のデスクトップだ。

背景も初期設定のまま。

縦一列に整列しているアイコンを目で追うと、1つのフォルダーがあった。名前は「新しいフォルダー」だ。

その中身は無数のテキストファイルで構成されている。

あかりは番号が振り分けられたそれを、順番にダブルクリックしていく。全部読むつもりらしい。

テキストファイル"1"の内容は次の通りだった。



5月17日(金)


やっぱり時代はデジタルよねー。

これからはこっちで日記を付けていくことにするわ。



どうやらさっきの日記の続きらしい。

あかりはにわかに上機嫌になり、手当たり次第に大量のテキストファイルを読み漁っていく。


しかし結論から言うと、このファイルから大した収穫を得ることはなかった。

すべての日記が2行で終わってしまっていて、内容もクソもあったものじゃない。

少しばかり拍子抜けしたあかりは、特に期待もせず最後のファイルを開いた。


そこ書かれていたのはたった一言。



"ゆ る さ な い"



「!!」

あかりは思わずへたり込んでしまった。顔が恐怖で歪んでいる。


「そんな……私、知らない……こんなの、知らない……」

震えた声が口から洩れる。次の瞬間、頭の中で電線がはじけたような感覚に陥り、彼女の意識はそこで途絶えた。


ちなみに、そのテキストファイルの名前は"akari"だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ