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コイン・ケースの中から
緑のリボンがついた鍵を出す。
この鍵も、17歳の薗子と交信していた時には
どこかに失せていたものだった。でも
今はこうして、元あったところに戻っている。
玄関のドアーを開けると
すこし蒸し暑い空気が澱んでいた。
僕はそのまますこしドアを開け放ち
傘立てを見る。
そこに有った筈の、薗子のお気に入りの
ベージュの傘も
やはり、無くなっていた。
.....全て、夢の中。
そういってしまえば、簡単だ。
僕も、夢を見ていたのだ、と言ってしまえば。
でも、あれは現実のような感覚だった。
為す術もない無力感に襲われながら、僕は
部屋に入る。
雑然とした部屋は、
薗子に出会った前に戻っていた。
これで、僕の記憶さえ無くなってしまえば
今まであったことは、なかった事になる。
それと、17歳の薗子の記憶も.....。




