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図書館に着き、僕はどきどきしながら薗子の姿を求めた。
ある予感を以て。
構内に立っている、大きなけやきの木の下、
昭和の香りを残すような、コンクリートの建物....。
-----見当たらない。
すこしためらったが、薗子に電話を掛けた。
回線は直ぐにつながり、薗子の楽しげな声が
「あ、今どこ?私、木の下にいるの。けやきの。」
僕は息を呑む。けやきの下、と言うのは....今、僕が立っている場所。
なんと返事していいか、分からない。だが.....真実を伝えるべきだ。
「薗子.....いや、薗子さん。僕は、木の下にいるよ。」
薗子の楽しげな声が、疑念の彩を含む。
「冗談止してよ。真面目になってるんだから!。」
僕は、静かに、痛念に....「いや、本当さ。君から、僕は見えない。
僕からも、君は見えない.....。」
「そんな....いや!そんなの.....。」薗子は、悲痛な叫びに近い声を上げた。
僕は、努めて優しい声で「大丈夫。安心して。この携帯じゃなくて、
"彼"の家にコールして。たぶん、"彼"は、出る筈だ。」
薗子は、落ち着きを失っていた。
「わからないよ、そんなの...どうなってるの?」
僕は、静かに、諭すように「だいじょうぶ。心配ない。試してごらん。」
「.....うん、わかった....。」泣いているのだろうか、薗子の声は霞んでいた。
僕は、欅の木の下にある、丸太を割って作られたベンチに腰掛け
コールを待った。
5分....10分......
トロイメライの着信メロディが鳴った。
「もしもし」僕は、不安と緊張の中で、薗子に話しかけた。
「....あたし。本当だった。あなたの言う事。でも、どういう事?これ。
"彼"は、私が、"あなた"にしてあげた事は覚えてないみたい。」
「やっぱりそうか......。」僕は、ある確信を持って薗子に伝える。
「どういうこと?説明してよ。わからない。」薗子は、動揺の色を隠せずに.....。




