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家政を支えた私が去った後、誰もお茶を淹れることはできませんでした。…でも、本質はそこにない。

作者: 裏葉柳
掲載日:2026/04/15

貴族として、正しく動き続けていた。





…彼女はそう思っていただろう。

確かに、彼女が嫁いでから、家政は彼女好みの無駄のない動線に整えられ、来客ごとに合わせた茶葉の用意もなされた。

細やかな心遣いによって成立した商談もあっただろう。

ちょっとした帳簿の作成も、早く、正確であった。


だが、それはこの家にはそぐわない努力でしかなかった。


この家はありがたくも、国とほぼ同じ長さの歴史を刻んでくることができた家である。

家政も、長年積み上げられてきた我が家に合わせた動線がある。

そこに無駄があるように見えても、無駄な動きを続けてきただけの相応の理由があるのだ。


先にあげた例としての茶葉もそうだ。

そもそも、うちに来るのは基本的に我が家より下位のものがほとんどである。

その客に合わせて茶葉を変えるより、格式の高い、我が家伝来の茶を出し、権勢に衰えなどない事を示さねばならないのだ。


もちろん、上位の方がいらっしゃった際には、希少な茶葉を取り寄せ、お出しする事も良いだろう。

だが、それもやり過ぎてはいけない。

バランスを取る事が最も重要な事なのだ。


また、高位貴族としての最重要事項への取り組みについては、どこか軽んじられていたようにも思う。


最重要事項の次代の出産や更なる上位貴族との社交、諸外国の情勢についての女性目線からの情報収集、流行の発信、喜捨などである。


どれもほどほどには取り組んでいたようだが、高位貴族として、ほどほど程度では及第点に程遠いと、母も伝えていたと思うのだが足りなかったようだ。

義実家で教育されたはずの常識であるため、母も強くは言わなかったのであろう。


…もしくは、私が気づく事を待たれていた、のかもしれない。

それならば、今更気づいたことに、厳しい眼差しを向けられたことも納得がいく。


彼女も上位貴族出身。

何故、ああまでも下位に媚を売り、些事を整えようと、したのだろうか。

やはり新興であるため、教育内容に異なる部分があったのだろうか。

家内の実情など外から見てわかるものではない故、憶測にしかならないが。


災害で荒れた領地の立て直しに手間取った上、ある程度は取り繕われていたが故気づくのが遅れた私が言えた事ではない、か。





これから、我が家は厳しい局面に立たされるであろう。

下位からは今までよくしてくれた奥様を追い出した、見る目のないプライドだけの高位貴族として。

上位からは、下位に擦り寄り、誇りを捨てた貴族として。


だが、これでいいのだ。

元妻が繋ぎを取り続けなければならなかった縁を取り持ってくれた彼女には申し訳ない。

だが、彼女もまた我が家の血族。

下位貴族出身ではあるが、これからの道も、我が家が成さなければならない役割も、十分に理解している。


母も一度こちらに戻り、暫くは不足を補ってもらえると言質をとった。

父にも一時、領地経営を補助してもらえる。

これで稼いだ時間で、可能な限りの信頼回復を図らねばならない。




彼女の執務室に残されていたという、膨大な量の資料については、取り急ぎ資料室へ移動するよう指示を出した。

大半はもう必要のない情報ではあるが、高級紙を使用して残された情報ではある。

もしかすると使える情報が残されている可能性もあるため、早めにまとめるよう、家令に指示を出さねば。


…それにしても、彼女は倹約家を自称していたが、高級紙の使用は何故か躊躇うことはなかった。

どれほど購入したとしても我が家にとっては大した金額では無いが、辺境では未だ羊皮紙を使う場所もあると聞いている。

無いとは思うが、彼女が予算分配を誤らないことを祈ろう。





今日からは、彼女がいれた、上手くはないが疲労回復に効く茶はない。

再び飲むためにはあの書類の中を探す必要があるからだ。


だが、悔いはない。

幼き頃、父母が常飲していたものを飲もう。

特別な効能があるとは聞いていないが、私が選んだ未来の象徴として。




…いつか彼女の元にも届くかもしれない。

彼女を切り捨てた家の無様な顛末が。


だが良い。


我が家は"伝統"。


"革新"、"改新"などでは、ないのだから。

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