01_灰色の記憶
魔法が使えるようになって、まだ数ヶ月しか経っていない頃。
父さんと一緒に森へ薬草を採りに行った。
父さんは優秀な魔法使いだ。もちろん四属性の魔法が使える。農夫だけど、火で害虫を払い、風で種を撒き、水で作物に水をやり、土で畑を耕す。
不得意なく魔法が使えるため、村でも一目置かれている。その中でも火属性を得とする。
そんな父さんと一緒なら安全だと、母さんも笑って送り出してくれた。
いつもの道。いつもの森。何度も歩いた安全な場所のはずだった。
「ハツカ、そっちの青い花を取ってくれるか?」
「分かった。やってみる。」
父さんの声に、僕は木の根元に咲く青い花に手を伸ばした。
とてもきれいに咲いている。
薬草はとても貴重で高く売れる。
最近は需要もあるせいか見つけるのも大変になってきているように感じる。
「ありがとう。この調子でどんどん集めよう」
「うん。まかせてよ!」
そういったやり取りをし口笛を吹きながら
父さんと薬草探しを続けていく。
ガサッ。ガサッ。
父さんが茂みをかき分け、薬草を探していく。
ガサッ。ガサッ。
僕も真似をして少し離れたところを探してみる。
「おい!!ハツカ、走れ!」
父さんの叫び声。声にびっくりして振り向くと、灰色の毛皮をした巨大な魔物が飛び出してきた。
ブラッドウルフ。この辺りには滅多に現れない魔物だ。
父さんが僕を突き飛ばし、魔物に立ち向かう。
父さん腕から血が流れている。
「走れ、ハツカ! 村に戻って助けを呼ぶんだ!」
詠唱し父さんの手から火の弾が放たれる。魔物に命中し、毛皮を焦がす。
でも、魔物は怯むことなく。さらに襲いかかる。
風魔法で魔物を吹き飛ばし距離を取ろうとする。それでも、少し後ずさるだけで終わってしまう。
魔物は強い。魔物の攻撃は止まりこちらの様子をうかがっている。
いきなりの出来ごとに僕の足がすくむ。動けない。
魔物自体を初めてみた。
こんな生き物がいるなんて。。
魔物の唸り声。父さんの苦しそうな声。血の匂い。
僕に攻撃が向かないように攻防している。
「今すぐ走れ!!!」
父さんの怒鳴り声で、ようやく足が動いた。僕は走った。後ろを見ないで、ただひたすらに走った。
枝が顔を引っ掻く。根につまずいて転ぶ。それでも走り続けた。
後ろから父さんの魔法の音が聞こえる。炎の音。風の音。
でも、魔物の唸り声も聞こえる。
そして―
父さんの悲鳴。
「父さん!」
振り返りそうになる。でも、足は止まらない。恐怖が、僕を前に進ませる。
後ろから追ってくる足音。魔物の息遣い。もう追いつかれる―
その時、村の警備隊が駆けつけてくれた。
「そこの子供、伏せろ!」
僕は地面に倒れ込む。
頭上を魔法の光が通り過ぎる。火の弾。風の刃。水の槍。土の矢。
隊を組むメンバが得意とする魔法を詠唱し発動する。
魔物の悲鳴が響きわたる。
伏せているため、様子がわからないが魔法止まっていることが分かる
「坊主、無事か!」
警備隊の人が駆け寄ってくる。
「大丈夫。」
恐怖から混乱しているが徐々に落ち着いてきた。
そして恐ろしいことを思い出した。
「父さんは...父さんは!」
「おい、こっちに人がいるぞ!」
別の警備隊員の声。
父さんが、倒れていた。
血まみれで、動かない。
「父さん! 父さん!」
僕は泣き叫んだ。
それから約一週間
父さんは一命を取り留めた。
村の治療師が治癒魔法で傷を癒し、薬草で手当てをしてくれた。
ただこの一週間ずっと意識が戻らなかった。
僕はずっと父さんのベッドの横に座っている。
あの時、僕が魔法を使えたら。
火でも、風でも、水でも、土でも。
何か一つでも使えていたら、父さんを助けられたかもしれない。
でも、僕はまだ魔法が使えるようになったばかりで、何もできなかった。
ただ走ることしかできなかった。
その無力感が、胸に突き刺さった。
横になる父さんをみてさらに考え込む。
それから三日後
父さんが目を覚ました時、最初に言った言葉は「ハツカは無事か」だった。
「うん...僕は、無事だよ」
「そうか...良かった」
父さんは弱々しく笑った。
「すまなかったな、ハツカ。怖い思いをさせて」
「父さんこそ...僕のせいで」
「お前のせいじゃない」
父さんが僕の頭を撫でる。
「あれは誰にも予想できなかった。お前は何も悪くない。気にすることはない」
そんな言葉は僕には受け止められなかった。
もし僕が魔法を使えていたら。
もし僕が強かったら。
そもそも僕がいなければ。
父さんは怪我をせず逃げ切れたかもしれない。
それから、僕は外に出られなくなった。
外は怖い。森は怖い。魔物が怖い。
家の中だけが安全だ。
父さんと母さんは優しく見守ってくれている。「焦らなくていいよ」と。
父さんの傷も、数ヶ月で癒えた。今ではまた畑仕事をしている。
でも、僕は変われなかった。
窓から見える空は青く、木々は風に揺れている。でも、その影に何が潜んでいるか分からない。
それから三年。
僕は十歳になったけれど、今でも外に出ることができない。
父さんは四属性を使いこなして、畑で元気に働いている。
母さんも三属性(火・風・水)が使って、家事を魔法で効率的にこなしている。
土魔法は家事には向いてないらしい。そりゃそうか。
村の子供たちを窓から見ていてもみんな四属性を使えることが分かる。
なぜか僕だけ土魔法しか使えない。
時間が解決すると思っていた。
毎日練習だけは家で沢山した。
本も読んだ。
土魔法だけは使える。父さんもできないことができるくらいに。
それでも周りができることができていないことに、さらに自信がなくなる。
「僕は...このままなのかな」
部屋の隅で、膝を抱えて座る。
また襲われたとき土魔法で何ができるのだろう。
そう思いながら
暇つぶしに作った石を机に片づける。
机にはたくさんの石が入っている。
これが僕の日常になっていた。
家族構成
父:デイル・クレイ
母:リナ・クレイ
僕:ハツカ・クレイ




