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土魔法しか使えない僕が、●●の●●になるまで(タイトル未定)  作者: ハッカ飴


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13/13

12_最初の一歩

村の中を歩けるようになって、さらに一週間が経った。

今日も朝から村のお手伝いをこなしている。


宿屋の裏手にある石垣の補修。

崩れかけていた部分を土魔法で固め直す作業は、もう慣れたものだ。


「ありがとう、ハツカくん。助かったよ」


宿屋の主人が笑顔でお礼を言ってくれる。


「いえ、また何かあれば言ってください」


自然と言葉が出る。

一ヶ月前の自分には想像もできなかったことだ。


あれから土魔法についてもいろいろ試してみた。

自分が見たことがある土、触ったことがある土は基本的に作ることができるようになった。


時々不調なのか特定の土を作り出せない時もあった。

理由はわからないけど。


家に帰ると、リーナが庭で待っていた。

いつもの笑顔。でも、今日はどこか緊張しているようにも見える。


「ハツカ、今日はお願いがあるの」


「お願い?」


「うん。秘密基地の場所、見に行かない?」


その言葉に、心臓が跳ねた。

秘密基地。

リーナがずっと探してくれていた場所。

でも、それは村の外。森の近く。


「......」


黙り込んでしまう。

リーナは慌てて付け加えた。


「あのね、本当に村のすぐ近くなの。森っていっても、木が何本かあるくらいで、魔物なんて絶対いない場所。パパにも確認してもらったから」


ガルドさんにも確認してもらった。

それなら、安全なのだろう。

頭ではわかっている。

でも、足が震える。


「ごめん、やっぱり今日じゃなくても......」


リーナが言いかけた時、僕は自分の手を見た。


この手で、パン屋の窯を直した。

雑貨屋の床を直した。

宿屋の壁を補強した。

村中の石畳を修理した。

土魔法で、たくさんのものを修理したし作ってきた。

......壁も、もちろん作れる。


前と比べると確かにできることは増えた。


「リーナ」


「うん?」


「もし怖くなったら、僕、土魔法で壁を作る。自分の周りに。そしたら、安全だよね」


リーナが目を丸くした。

そして、ゆっくりと笑顔になる。


「うん。ハツカの壁、すっごく頑丈だもんね。絶対安全だよ」


「......行ってみる」


言葉にしたら、少しだけ気持ちが軽くなった。


村の外れ。

畑が終わり、森が始まる境界線。

僕は足を止めた。

目の前に広がる緑の木々。

木漏れ日が地面に模様を作っている。

鳥の声が聞こえる。風が葉を揺らす音がする。

きれいな場所だ。

頭ではわかっている。


でも、あの日の記憶が蘇る。

灰色の毛皮。

父さんの血。

悲鳴。


「ハツカ、大丈夫?」


リーナの声で我に返る。

手が震えている。呼吸が浅くなっている。


「ちょっと、待って」


僕は足元に手を向けた。

深呼吸をする。久しぶりに大きなものをつくる。


魔力を流し込む。


地面から石の壁が生えてくる。

僕を囲むように、半円形の壁。高さは僕の胸くらい。

壁に背中を預ける。

冷たい石の感触。自分が作った壁。


「......大丈夫」


呟く。

ここは安全だ。この壁の中は、僕が作った安全な場所だ。

呼吸が落ち着いてくる。

震えが収まっていく。


「ハツカ、すごい」


リーナが感心したように壁を触る。


「怖くなったら壁を作ればいいんだね。ハツカらしい」


「......うん。これなら、たぶん大丈夫」


壁を地面に戻す。

土魔法で作ったものは、土魔法で崩せるようになっていた。

練習の成果だ。


「行こう」


今度は自分から言った。

森の中を歩く。

といっても、本当に村のすぐ近くだ。

振り返れば、村の屋根が見える。


それでも、木々に囲まれると不安になる。

そのたびに、足元に小さな石を作った。

握りこぶしくらいの、丸い石。

手の中で転がす。

自分が作ったもの。自分の力の証。


「ここだよ」


リーナが足を止めた。

小さな丘の上。

三本の大きな木に囲まれた、開けた場所。

地面には柔らかそうな草が生えている。

木々の隙間から空が見える。青い空。白い雲。


「どう? いい場所でしょ?」


リーナが誇らしげに言う。


「......うん」


確かに、いい場所だ。

村からも近いし、見晴らしもいい。

何より、ここなら周囲がよく見える。何かが近づいてきてもすぐにわかる。


「ここに秘密基地を作るの?」


「うん! ハツカの土魔法で、壁を作って、屋根を作って......」


リーナが楽しそうに話す。

僕は周囲を見回した。

三本の木を支柱にすれば、構造は安定する。

壁は土魔法で。屋根は......木の枝と葉を使えばいいかもしれない。


「ここなら、作れそうだ」


「本当!?」


「うん。でも、今日は下見だけ。設計を考えてから作りたい」


「さすがハツカ! 計画的!」


リーナが飛び跳ねる。


帰り道。

森を抜け、村が見えてきた時、僕は足を止めた。


「どうしたの?」


振り返って、森を見る。

さっきまでいた場所。木々。緑。

怖かった。

でも、行けた。


「......僕、森に来れた」


「うん。来れたね」


リーナが優しく笑う。


「怖かったけど、壁を作って守れると思えばなんとかなった。」


「ハツカの土魔法、本当にすごいよ」


「土魔法しか使えないって、ずっと思ってた」


言葉が自然と出てくる。


「でも、土魔法があれば、安全な場所を作れる。怖い場所を、怖くない場所に変えられる」


リーナが頷く。


「うん。ハツカにしかできないことだよ」


「......ありがとう、リーナ」


「えっ、何が?」


「ずっと待っててくれて。一緒に来てくれて」


リーナの顔が少し赤くなった。


「べ、別に当然でしょ! 友達なんだから!」


照れているリーナを見て、少し笑ってしまった。


「何笑ってるの!」


「ごめん、ごめん」


家に帰ると、父さんと母さんが待っていた。


「おかえり。どうだった?」


母さんが優しく聞く。


「......森に、行ってきた」


父さんと母さんが目を見合わせた。


「そうか」


父さんが短く言った。

でも、その目は優しかった。


「怖かったけど、土魔法に自信がついたからかな。

 壁も作れるし。」


「そうか。お前らしいな」


父さんが僕の頭を撫でる。


「お前は、自分で安全を作れる。それは、すごいことだ」


「......うん」


母さんが微笑んでいる。


「今日のご飯は、ハツカの好きなスープよ」


「ありがとう」


その夜、部屋の窓から森を見た。

暗い森。何が潜んでいるかわからない森。

でも、もう前ほど怖くない。


僕には土魔法がある。


安全な場所を、自分で作れる。


机の引き出しを開ける。

たくさんの石が入っている。

暇つぶしに作った石。でも、これが僕の力の証だ。

引き出しから一つ取り出す。


滑らかな表面。完璧な球体。


「......明日から、秘密基地の設計を考えよう」



小さく呟いて、石を引き出しに戻した。

まだ、一人で森に行くのは怖い。

でも、リーナと一緒なら行ける。

土魔法があれば、安全を作れる。


少しずつ。一歩ずつ。

それでいい。


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