00_異端の少年
僕の名前はハツカ・クレイ。十歳になったばかりの少年だ。
今日も僕は、自分の部屋で小さな石を作っていた。土魔法で。
手のひらから生まれる灰色の石。形を整え、角を滑らかにする。
石をきれいにするため、水を出そうとする。
ただ、水はでない。
なんで僕だけ、土魔法しかできないのだろう。
そんなことを思い、石を床に置く。
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誰もが四つの属性魔法を使える。
火、風、水、土。
この四属性は、人間であれば必ず全て使える基本魔法だ。
簡単なものであれば、呼吸をするように自然に。歩くように当たり前に。
十歳前後になれば、四属性すべてが発現する。これは絶対の法則だった。
もちろん、得意不得意はある。
不得意だったとしても、最低限目に見える程度の変化は起こる。
村の人たちを見れば分かる。
パン屋のおじさんは火が得意だけど、水で生地をこね、風で窯の温度を調節し、土で窯を修理している。
リーナのお母さんは風が得意だけど、火で料理を作り、水で食器を洗い、土で宿屋の壁を補強している。
隣のトムさんは土が得意だけど、火で暖を取り、風で畑を冷やし、水で作物に水をやっている。
同い年のリーナだって、大人ほど強くはないが使えている。
みんな、四属性を当たり前に使っている。
得意な属性で主な仕事をして、他の属性で日常生活を補う。
それが、この世界の常識だった。
でも、僕は違う。
土魔法だけは、異常なほど得意だ。
大きな石も、複雑な形も、まるで粘土をこねるように簡単に作れる。
村の大人たちが「こんな精密な石、見たことない」と驚くほど。
同じ土魔法使いのおじさんが「わしの十倍は上手い」と呟いたこともある。
土魔法に関しては、僕は村にいる大人よりもできるらしい。
でも・・・土や石はそこら中にある。
こんなのできなくても、誰でもなんとかなる魔法だ。
せめて土魔法でなければ。
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「火」
手のひらに意識を集中する。魔力を流す。
何も起きない。
指先すら温かくならない。
「風」
風を起こそうとする。
でも、髪の毛一本揺れない。
空気が微かに動いた気がする...いや、それは窓から入ってきた自然の風だ。
「水」
水を作ろうとする。
手のひらが少し湿った気がする。
でも、見てみると何もない。汗か、気のせいだ。
「...やっぱり、ダメだ」
何度やっても、同じ結果。
土以外の魔法が、まったく使えない。
毎日繰り返し試している。
母さんに相談したら、「まだ十歳になったばかりだから、これから使えるようになるわよ」と優しく言ってくれた。
でも、魔法が使えるようになったのは七歳の時。それから三年も経っている。
村の他の子供たちは、七歳で最低でも二属性、ほとんどが四属性すべてが使えるようになった。
得意不得意はあっても、全部使える。
八歳のときには、みんな四属性を日常的に使いこなしていた。
九歳の今では、得意な属性はかなり強力になっている。
なのに、僕だけ...
「僕、おかしいのかな...」
部屋の隅で膝を抱える。
土魔法だけが異常に得意で、他の三つがまったく使えない。
こんな人間、聞いたことがない。
村の長老に聞いても、「そんな例は知らん」と首を傾げられた。
旅の商人に聞いても、「珍しいね。初めて聞いたよ」と驚かれた。
村の人たちは優しいから、面と向かって何も言わない。
でも、時々聞こえてくる。
「クレイ家の坊や、土しか使えないらしいぞ」
「本当か? 四属性使えないなんて...」
「まるで魔法使いじゃないみたいだな」
「でも、土魔法だけは化け物級らしい」
「バランスが悪いのう」
そんな噂話。
「異端」「欠陥品」「半端者」
そういう視線を、時々感じる。
いろいろ考えていると
「ハツカ、ご飯よ」
母さんの声が階段の下から聞こえる。
「...うん、今行く」
作った石を机の引き出しにしまって、部屋を出る。
引き出しの中には、僕が作った石がたくさん入っている。
暇つぶしに作った、様々な形の石。
それだけが、今の僕にできること。




