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しらたま物語  作者: 忽那 和音
-白月玉穂の章- 春の章
7/51

 小豆をふやかす水蒸気が炊事場だけでなく一階の建物中に広がる。

 水道の蛇口は出しっぱなしで茹で上がったばかりの白玉を冷やす。

「三名様、フルーツあんみつ一、白玉小倉一、白玉あんみつ一」

「はぁーい!」

 複数の注文を受け取った炊事場のスタッフたちはマニュアル通りの動きをした。

 食器を出すな否や寒天、白玉、小倉、各種フルーツなどトッピングの用意をする。

 食材を揃えたお皿は素早くお盆に寄せられ、黒蜜とサービスの温かいほうじ茶とドライ杏を添えた。

 フロント担当のスタッフに引き継がれたあんみつ達はお客さん達の下へ運ばれた。

「お待ち同様です。フルーツあんみつ、白玉小倉に、白玉あんみつです」


「わぁーはむ、ふむぅん。むぅーん、おいしぃー!」

 絵にも描いたような食欲をそそられる表情をする。


「ガラガラガラ……チャリンチャリン……」

 甘味処の出入口が開いた。出入口には誰かが入って来たと分かるように大き目の鈴がつけられていて、炊事場に設置されているアラームと連動している。

「ただいま~~」

 入って来たのは、この甘味処・玉月の店長(仮)であり、小学校六年生の白月 玉穂。稲荷餅小学校の六年生。今は学校から帰って来たばかりの彼女はショルダータイプのバッグに紺色の片手掛けバッグを手にしている。

「おかえりなさい。店長(仮)」

「お疲れ様です」

「おやつ用意してあるので、休憩して下さい」

「ありがとうございます」

「定時には入るので、それまでよろしくお願いします」

 玉穂は学校の荷物と一緒に上の階にある自宅へ向かった。


 自分の部屋で制服から仕事服へ着替える。

 長髪の紺はお団子にまとめられ、正方形のハンカチで頭を纏めていた。

 赤紅の仕事服にハンカチーフとティッシュを入れ、再び一階の休憩室へ戻った。


 休憩室に用意されたお菓子は小豆の羊羹と桜昆布茶だった。

「いただきます」

 畳の休憩室で座布団の上で正座になった玉穂は三十分をきった勤務開始時間に間に合うように済ませた。

「ごちそうさまでした」

 午後のおやつを終えた玉穂はすぐさまお店の表へ行き、フロントのスタッフと交代した。

「お疲れ様です。もう時間なので大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。お疲れさまでした」

 昼間の営業を担当したスタッフは帰りの支度をするため、お店の裏へ行った。


 夕方からお店の営業を担当する玉穂は主に学校帰りの学生達や仕事帰りの人たちを接待している。

 そして、この日も複数組のお客がやって来た。

「はい、小倉最中とあんみつです」

「お待ち同様です。玉月特製特盛あんみつです」


 時刻は十九時が過ぎ、玉穂は店仕舞いの準備を始めた。

 既にお客達は時間前に帰っていった。

 机を拭き、椅子を上げ、床掃除をする。椅子を下げ、外の暖簾を仕舞い、営業中の札を本日の営業は終わりましたという看板に変えた。


「みなさん。今日もお疲れさまでした」

 玉穂は厨房にいるスタッフへ挨拶をし、帰っていった。


 スタッフ達が甘味処・玉月を後にした。

 玉穂は厨房に残り、一人仕込みをしていた。

 それは、この春に欠かすことのできない大イベントお花見だ。

 稲荷餅は四方八方、山に囲まれた盆地。なので、三月から五月にかけて、都市部の桜見から始まり最後に山桜でお花見を行おうという地元住民や観光客から多くの注文を受ける。

 そのため、玉穂はスタッフ達と手分けしながら通常以上の小豆の仕込みや加工、もち米の炊飯などを行う。

 昼間の担当するスタッフも仕込みを行うが、大半は夜に残って仕事をする玉穂の仕事だ。

 しかし、お花見のために持ち帰るものがほとんどなので、メニュー数としてはお赤飯・桜餅・牡丹餅の注文を受ける。

 メニュー数が少なく、稲荷餅の中でも有数の知名度を誇る甘味処・玉月は季節限定のお持ち帰り商品は完全予約制。

 それでも連日、大きい黒字の連続。ありがたいと思いながらも、季節的に忙しくなる玉穂にとっては学業との両立にヘトヘトとなって終わる。


 だが、玉穂にはこの多忙な季節の最後には必ずご褒美がもらえると信じてこの大変な時期を乗り越えるのだった。

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