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しらたま物語  作者: 忽那 和音
-麦荳こむぎの章- 春の章
41/51

 新年度が始まり数週間が過ぎた。辺りはすっかり緑が多い茂っていた。

「は~~。昨日は春野菜の納入が多かったから体中が筋肉痛だよ~~」

 登校中。こむぎ、玉穂、伊久実の三人は昨夜の仕事状況について嬉しかったことや大変だったことなどを話していた。


 現在は山菜が多く採れる季節の為、三人中伊久実の飯森食堂は特に食材の納入が多く、午前中には多くのトラックが食堂前の道を埋め尽くしている。

 そのため、根菜類が重なると長年勤務しているベテラン社員やパートの人たちだけでなく、まだまだ若い小学生の伊久実まで体への負担が大きい。


「伊久ちゃん、いつもお疲れだね~~」

 こむぎは伊久実を労う。

「今度、温泉行こう」

 伊久実は時々の褒美を提案した。

「いいね~~。幼稚園児の時しか行かなかったよね」

 こむぎはその話に乗った。


「小学生に進学してからは皆、自分たちの家を任されているからね」

 玉穂、伊久実。そして、こむぎは小さい時から自分たちのお店を任されていた。そして、玉穂は一緒に家のことも五歳ながら任されていた。

 三人を仕事の愚痴と今後の予定を話ながら、小学校へ到着した。


 お昼休み。

 稲荷餅小学校には学校の敷地内に給食室がある。市の方針で地産地消を推奨しているため、市内中から新鮮な食材が各給食センターや各学校の給食室に届けられる。出来立ての給食を食べることができる。

 今日の給食は新入生をお祝いするものだった。

 お盆の上には、お吸い物、真鯛の塩焼き、浅漬け、ちらしずし、牛乳。そして、デザートとして苺ゼリーが出された。

「毎年思うけど、ちらしずしの他にお祝いできそうなご飯ものってないかな?」

 伊久実が不満ではないが、飲食店経営者的な視点でアイディアはないかと求めた。

「それはなかなか難しいわ。炊き込みご飯になってしまうと、全体が茶色くなって地味な見た目になってしまうもの」

 華やかさが欠かせないお祝いメニューに新たさを求めた食材選びと見た目は新メニューを考える者からも頭を抱えるものだ。

 それは、コストとのすり合わせ。あまり、お金をかけても各家庭の負担となってしまう。

「お赤飯も良かったかもね」

 こむぎが別の意見も出した。

「お赤飯は確かにお祝い事には持ってこいだけど、ごま塩は必須だね」

「お赤飯は玉月でも売ってるわよ」

 玉穂は同業者の二人に宣伝した。

「学校で宣伝しなくていいよ」

 伊久実は突っ込んだ。


 放課後のホームルームが終わり、生徒たちは帰る用意をした。

「むぎ、今日は何か用事あるの?」

 伊久実が聞いた。

「ああ、うん。今日はすぐに帰ってきて働かなきゃいけないから……」

 こむぎは今日も急いで用意をしていた。

「そうっか。まあ、私も玉穂だけどね」

「まあ、そんな急いでっていう訳でもないからまだ時間があるけど、急いでと言われるとしょうがないね」

「ごめんね。二人とも、それじゃあ、また明日~~」

 こむぎは帰りの挨拶をして二人に手を振った。

「じゃあね~~」

「気を付けて……」

 二人もこむぎに手を振った。


「ははは」

 こむぎは徒歩十五分先にある自宅兼むぎまめ製麺家に向けて走っていた。

(今日も忙しいよーー!!)

 心の底から焦っていた。


「キャーー!!強盗よーー!!」

 いつも平穏な稲荷餅の町が騒然とした空気に漂っていた。

 遠くの方から女性の声。

「向こうに逃げたぞ」

 こむぎが掴んだ声がだんだんと近くなってきた。

 忙しいのに、巻き込まれたくないと拒否の気持ちを持っていたが、碁盤の目をしている稲荷餅のデメリットである所々で行き止まりがあるという特徴を物心ついた時から知っているこむぎにとってはいつも通る道から変える訳にはいかない。

 こむぎは怯まずに足を踏み出す。

「危ない。小学生の子が!!」

「そこの金髪の女の子逃げて!!」

「(ここを避けるにはいかないんです!!)通らせてください!!」

 こむぎの目の前には黒ずくめの男が黒革のバッグを持ってこむぎの走る方向と逆行している。

 地域住民はこむぎに逃げるように叫ぶが全く動じない。


「くそ!!あの子供も人質に取るか」

(まずい!!もう逃げられない。こうなったら……)

 こむぎは自身を掴もうとする犯人の右腕を狙いショルダーバッグを前に出した。

犯人を力で押し倒そうという自分でも無茶苦茶だと感じる作戦だが、勢いに任せてこむぎは突き進む。

「やあーー!!」

 こむぎのショルダーバッグは犯人の右腕から胸部に激突。その反動で犯人は後ろへ吹っ飛んだ。身長差のある犯人とこむぎだったが、犯人の右肩に教材の重さが圧し掛かり外れたような状態となった。

 犯人がやって来た方向とこむぎが走って来た方向から警察官達がやって来た。

「逮捕する!!」

 すぐさま、犯人に手錠がかけられた。

「大丈夫?」

「あ……、刑事……さん」

 そこには三人と仲良しのイケメンの刑事さんがやって来た。

「どこも怪我してない?」

「け……けい……けいじ……しゃぁ~~ん!!」

「は~~怖かったよね~~」

「うぇええ~~ん!!」

 こむぎは刑事さんに抱きつき号泣した。


 こむぎは目を覚ました。目の前には馴染みのある部屋の天井だ。

「あ、起きた」

 伊久実がこむぎの顔を除いた。

「大丈夫? むぎちゃん」

 玉穂もこむぎの表情を伺った。

「伊久実ちゃん……、玉穂ちゃん……、なんで……」

 こむぎは今の状況が分からなかった。

「それは、こむぎの学校を出た数分後に私達も出た後にあの騒ぎだよ。そりゃあ、親友を心配するのは当然の話だよ」

 玉穂、伊久実はこむぎが学校を後にしたあと、いつも歩くペースで歩いていたが、稲荷餅に近づくにつれ、町が少々混乱した様子だったため、近くの人たちに事情を聴いたところ金髪の稲荷餅小学校の生徒が走っていったと聞きつけ、現場近くまで来たところこむぎを抱えた刑事さんが出てきたところで声をかけた。

 外傷はなかったが、念のため病院で検査を受けた。その後も現在に至るまで目を覚まさなかったこむぎは午後八時過ぎに玉穂と伊久実、家族。また、今回の関係者数人が家にいた。

「でも、仕事は……」

「何言ってんだよ。仕事なんてこれ以上私たちがやったら警察につきっきりの今日なんかにしたら、親達が事情聴取されちゃんでしょ」

「急なことだったから、仕事は一時間くらいしかできなかったけど、むぎちゃんがご飯食べないでお腹空かないようにと思って来たのよ」

「あ~~。そう言って、お店でうどん何杯も食べてたじゃん」

「あっあれは、仕事終わりでお腹が空いていたからよ!!」

「フフフ」

 二人が繰り広げるいつも通りの会話に、こむぎは笑った。

「良かったわ。問題なさそうね。お腹空いたでしょ。ご飯でも食べる?」

「うん。食べる」

 三人は一階に降り、むぎまめ製麺家のうどん、伊久実が作った肉団子とおひたし。そして、玉穂が持って来た果物の詰め合わせというこむぎへの見舞も兼ねた内容となった。

「ふぅん!!ふぅん!!美味しいよ」

「こむぎちゃん、元気そうでよかったよ」

 後ろから今回の件でお世話になったイケメンの刑事さんが声をかけてきた。

「こちらこそ、すみません」

 こむぎは刑事さんに謝罪をした。

「いいえ。でも、これからはあんな無茶しないでね」

 刑事さんが優しくも的確な注意をした。

「そうだよ。こむぎがいなくなったら、このお店がしまっちゃうんだから」

「これからは忙しくても三人で帰りましょう」

「はーーい!!」

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