壱
澄んだ空気が広がる朝。肌寒く、上着を着なければ風邪をこじらせてしまいそうな気温だ。
「チリチリチリ……。チリチリチリ……」
「う~~ん、にぇむい……」
金髪の少女は外からの光と目覚まし時計の音で目が覚めた。
ゆっくりと体を起こした少女は目覚まし時計のベル音を止めた。
「ふぅにゃぁ~~」
目を覚まし、向かいにある洗面台へ行き朝の身支度を行う。
歯ブラシに歯磨き粉を付け口に含んだ。歯磨きをしながら、自分の部屋から持ってきたタブレットを立て世界情勢、天気予報、英字ニュース、株、経済、政治などありとあらゆるジャンルのニュースを身支度をしながら確認をする。
彼女は麦荳 こむぎ。製粉会社の最大手、麦豆製麺株式会社の社長令嬢。その子会社にあたるむぎまめ製麺家の一代目店主(仮)。しかし、彼女は会社内の重役やお嬢様という立場だけではなく、現役女子小学生でもある。現在、小学校六年生。
そのため、この多忙な小学生生活を送りながら、毎日お店で働き、両親から同意の上で行っている数々の習い事をこなしている。
「それでは行ってきます」
こむぎは家を後にし、稲荷餅小学校へ登校する。
家から小学校までは十五分程度。その間には多くのお店、宿坊や宿場などが碁盤の目のように立ち並んでいる。
死角になる場所もあるため、多くのミラーなどが設置されている。
「むぎ~~」
「むぎちゃん!!」
「二人ともおはよう」
右の彼女は飯森 伊久実。むぎまめ製麺家の近くにある飯森食堂の看板娘であり、こむぎの同級生。
左の少女も同じく、同級生の白月 玉穂。飯森食堂の向かいにある甘味処・玉月の店主(仮)。
三人は小さい時からお店の運営などを両親から任されており、物心つく前からの仲。同じお店の重役を任されている中ということもあり、互いに信頼しあっている。
待ち合わせをしている訳ではないが、毎日通学中に会っては一緒に登下校を行っている。
「むぎ。今日の放課後、空いている?」
伊久実が放課後の予定を聞いてきた。
「あ~~、ごめんなさい。今日はお父さんの会社で研修があって、その後は習い事で行けないんだ」
「今日は残念だね。空いている日があれば教えてね」
玉穂は優しく、時間を合わせて過ごそうと言った。
「うん」
三人は一緒に小学校へ向かった。
「それでは元気に学校へ来ましょう。さようなら」
「「「「「\\\\\さようなら!!/////」」」」」
「あ~~!! もうすぐ、研修が始まっちゃう!!」
「むぎ、忙しいね~~」
「うん。なんか、ギリギリに開始時間が設定されていて……あ――」
慌ててショルダーバックに入れていた教材や筆記具が落ちてしまった。
「あ~~、むぎ、落ち着いて~~」
玉穂と伊久実はこむぎの教材等を拾った。
「二人ともありがとう~~」
「気を付けてね」
玉穂は慌てているこむぎを気遣った。
「うん!! 二人ともさようなら~~」
こむぎは今日の別れの挨拶をし教室をあとにした。
「また、明日~~」
玉穂は手を振った。
「また!!」
伊久実も手を振った。
校舎を足早に出たこむぎだったが、度々時計を確認して走っても都市部にある麦荳製粉株式会社ビルまでは電車を乗り継がなけばれならない。
「あ~~、間に合わないよ~~。お父さん何を考えているのかしら……」
スケジュールの埋め方が小学生のこむぎには厳しいものであることを聞いた当初から感じていたが、楽観的過ぎる考えからなのか、娘の立場を考えてはくれなかったのかと思うところがある。
長い一般道路までの校内の道の先に見慣れた車が停車していた。それは真っ黒のボディーに車体の低い高級車だった。
そして、後ろの席のドア前で待っているのは本社付きの秘書兼執事の菊池さんだった。
「はっはっはっは……、きっ、菊池……さん」
「お待たせしまして申し訳ございません」
「いっいいえ……、こちらこそ……。学校が終わるのが遅れてしまいまして……」
「もうすぐ、研修会のお時間なので、お車の方に」
「そうですね。失礼します」
菊池さんは後部座席のドアを開け、すぐさまこむぎは乗車した。
「菊池さん、私お迎えがくるって、父から聞いていなかったの」
「そうでしたか。ご心配をおかけして申し訳ございません。次回からはお母さまにもお伝えするようにいたします」
「あ~~。でも、半分はこのままだったら欠席かな~~なんて思っていたのですが……」
「ほほほ。交通関係以外の欠席以外だったら、社長は起こっているでしょうね。あなた様のお父様が一回でも堪忍袋の緒が切れるようなことがあれば、秘書達総出で抑えなければなりませんからね」
「ははは……。いつもすみません……」
「いいえ、これも仕事ですから」
十五分後。
こむぎは菊池さんの運転によって目的地の会社ビルへ到着した。
「ありがとうございます。菊池さん」
「いいえ、頑張ってきてください。お嬢様」
「はい!!」
こむぎは念のため顔パス出来ないことも考えて社員証を出した。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「あ~~、ありがとうございます」
来て早々、出入口を管理する警備員から名指しで挨拶をされ、証明書使うまでもなく入社することができた。
その後もことあるごとに、社員達から立ち止まり、挨拶、一礼と全てが見本のような会社の重役への挨拶をするかのようなお手本とすべき行動が広がっていた。
こむぎ本人は幼い時からそのような対応をされてきたが、幼稚園や小学校の進学をするごとに友達や先生たちが平等に相手をしてくれる方が肩の荷が下りて気が楽だと感じている。
なので、正直な気持ちとしては本社へ向かうことが苦手だ。
秘書兼執事の菊池さんが車で送ってもらったお陰で、こむぎは研修開始二分前というギリギリの時間で会場に到着することができた。
「え~~。では、新入社員対象の研修会第一回を始めます」
研修会は一時間ほどで終わり、こむぎは次の予定へ向かうために再び、菊池さんが運転する車へ乗る。
既に六時過ぎだが、この時間から水泳教室へ向かう。
「は~~」
こむぎは大きくあくびをした。
「お疲れ様です。お嬢様」
「あ~~、すみません。菊池さん」
「いいえ、私はまだまだ起きていられますから」
「流石です」
菊池さんは秘書と執事として麦荳の会社と家に従事している為、他の社員より会社からの収入が多い分、労働時間というものははっきりと決まっていない。
しかし、公的に定められている労働規定に準じて、給料が支払われている。
水泳教室が終わり、帰って来たときにはすでに七時を過ぎていた。
「はぁ~~、働いた~~」
「おかえりなさい、むぎちゃん。あ~~、待ってる人がいるわよ」
むぎまめ製麺家で長年勤務するパートさんがこむぎ宛てに待っている人がいると教えられた。
こむぎはあたりを見回した。
「あ、こむぎちゃん」




