弐
乾いた風の吹く朝。桜の花が散り、若葉が咲き誇る桜並木。道路の縁には落ちた花びらが集まっている。
通学路を歩く一人の少女。学校指定の制服を身につけ、頭にはベレー帽。両手をショルダーバッグの肩に当てる。
「今日は体育か。なんか嫌だなー。家に帰ってきたら、お店だし。小学生という身であっても、忙しいものは忙しいなー」
実家の仕事と小学生生活を両立する白月 玉穂は、いつものように通学の朝を迎えている。
玉穂の通う小学校。稲荷餅小学校。稲荷餅小学校は、南の校庭、更に南。稲荷餅に暮らす中学生の通う稲荷餅中学校がある。
小学校の全校人数は、百人程。運動会や音楽会などの行事には、中学校と合同で行われている。
徒歩二十分で学校の正門に着いた。木製の下駄箱で履き替える。高学年の教室が入る棟の三階に六年生の教室がある。
「おはよう」玉穂は所属する六年生の教室に入る。
「おー。たまおー! おはよ」
玉穂に挨拶した黒髪のショートカットヘアの同級生。彼女は大衆食堂を営む飯森食堂の看板娘の飯森 伊久実。
「おはよ〜。たまちゃん」もう一人明るい髪色の同級生が挨拶する。彼女は稲荷餅では名の知れた会社のご令嬢。玉穂と同じように製麺所兼お店の店長(仮)の麦荳 こむぎ。
「おはよ〜。って、いーちゃん! 『たまお』って、言い方はやめてよ〜」
「いいでしょ。たまは、たまおだから」
「分かんないよ」
「たしかに、たまちゃんが『たまお』になるって、私だったら、玉助。球。多摩。卵。たま。たまー。た〜。ふん。ふ〜……」
「あー。こむぎ。また、寝ちゃったー」
「仕方がないよ。こむぎちゃんも、お店の経営を朝早くから夜遅くまで頑張っているから」
「まぁ。私もたまも、帰ったらお店だからね。生まれながらにして定められた運命か。なんか、カッコいい気がしない?」
「どうかな」
玉穂、伊久実、こむぎは朝の談笑を楽しんだ。




