世界の終わりに君と観覧車で
「いやぁ、この状況でよりによって観覧車に乗っちゃうなんて……アタシって馬鹿だねー」
「あー、まぁ……仕方なくね?」
言いながら俺は、外に広がるゾンビの群れを見つめる。腕を真っすぐ前へと突き出し、呻き声を上げているゾンビたち。腕に風船を腕に括り付けていたり、奇抜なカチューシャを着けていたりするところを見ると彼らはきっとこの遊園地の「元」観客だったのだろう。
そしてこの観覧車が回り終わった後――地上へ降り立った俺たちの、未来の姿でもある。
「まさか俺の誕生日デートで世界終わるとか、誰も予想してねぇだろ……っていうかこのゾンビ、何が原因なんだろうな」
「ベタに、どこかの会社が極秘研究してたウイルスとか? 国が黒幕じゃないなら、軍が助けに来てくれる可能性もワンチャンあるかも」
「そうなっても、観覧車が回り切るまでに間に合うかはわかんねぇだろ……なんかゴメンな、深瀬」
俺の言葉に深瀬は「え?」と不意を突かれたような反応をする。
「いや、今日ここに来るのって俺が希望したし……こういうエンタメ施設って、その、男だけとかじゃ入れないからさ。だから、まぁ、せっかく誕生日だし……お前に祝ってほしかったんだよ」
精一杯、本心を吐露しながらそれでも俺は深瀬を真っすぐに見つめる。
好きな人と楽しい場所に行って、最後は夕焼けの中で二人きり。
状況だけならかなりロマンティックだ、けれど今の俺たちは「ゾンビになって自分自身すらわからなくなる」という理不尽でわけのわからない終焉に向かっている。あまりの理不尽にぎゅっと拳を握りしめることしかできない俺に対し、深瀬は「何言ってんの」と微笑みかける。
「アタシも今日のデートは、すごく楽しみにしてたんだよ。気づいた? 今日のためにトリートメントして、新しいリップ買ったんだ。少しでも可愛いって、思ってほしかったから……」
その言葉と共に、深瀬は俺の隣に腰掛け肩にもたれかかってくる。危機的状況だというのに、突然の急接近に俺はドキリとしてしまった。
「今、この瞬間は間違いなく幸せなんだし……アタシはゾンビになっても二人、一緒にいられたらそれでいいな」
「……そう、だな」
照れ臭くなって、俺は観覧車の外を見つめる。
夕焼けの下、ゾンビたちが彷徨うその光景は地獄のようだ。だが隣にいる深瀬の温かさは紛れもなく本物で……例えその一員になってしまうとしても、今の俺は確かに幸福なのだった。
12/26 [日間] パニック〔SF〕ランキング1位ありがとうございます。