コンクールオーディション
コンクールに向けて一人一人オーディションが行われる。対象はA組を目指してる人達だ。
「私、A組入りたい。」
東京で行われるコンクールには55人までのA編成、35人までが定員のB編成、20人まで定員のC編成がある。A編成は全国大会を目指す組だ。全国大会に行くためには2回の東京支部大会で金賞を取らないといけない。毎年課題曲があり4つある課題曲から一曲選ばないといけない。そして自由曲も含めて12分の時間制限がある。B編成とC編成は1回限りのコンクールで、明星高等学校吹奏楽部ではその日一番の最優秀賞を目指す組だ。そしてD組もある。D組はコンクールに出ないメンバーだ。しかし彼らも曲の練習をする。
「コンクールとかどうでも良いけどな。」
ちなみに加藤瑞希と高木賢人はコンクールを別にのりたいと思っていない。
「えー、コンクールのりたくないの?コンクールと言えば吹奏楽部の誰もがのりたいと思う舞台なのに。」
A組を目指してる林崎真希は二人に対して疑問をいだいていた。
「私ものりならA組のほうが良い。ここに入部した意味ないから。」
クラリネットからストリングベースになった篠原美代子もA組を目指していた。
「君のパートのセクショントップは横田香里奈先輩で決定ね。あの人がパートで一番上手いよ。」
美代子と真希は誰がセクショントップになるか予想していた。
「皆、A組とか目指してるのね。私はまずはB組で経験をつみたいわ。」
「そうなんだ。」
「でもテナーサックス3人しかいないことはコンクール出るのは必然ね。」
「えー、まじかよ…」
瑞希は嫌そうな感じだった。
「テナーサックスになるんじゃなかったよ。」
「絶対私A組になる。」
各パートの2年生、3年生もピリピリしている様子だった。理由は吹奏楽推薦で入って来た1年生にA組の座を奪われないかかなり気にしてるからだ。吹奏楽推薦じゃなくても上手い新入生が毎年入って来ることもあるので気を抜けない状態だ。A組でレギュラーとして吹くことの名誉のために熾烈な争いが繰り広げられる。
「A組を目指してる人は全学年オーディションがあります。」
オーディションでは指定されたスケールと指定された曲の箇所を吹かされる。1年生はスケールのみだ。
「サックスパートのA組希望者、全員音楽室に集まってください。」
2年生と3年生と一部の1年生が音楽室に行く。その間瑞希はひたすらスケールの練習とロングトーンの練習をしていた。スケールとは音階のことだ。
「何か先輩達怖くない?」
バリトンサックスの1年生、斎藤静香は瑞希に言った。
「教室、私達しかいないね。練習サボろうぜ。」
「駄目だよ。先輩に怒られるよ。瑞希ちゃん、ちゃんと練習しないと駄目だよ。」
「だってこんなことやってもつまらないから、親に強制されてやったことだし。」
「そうだったんだ。それは大変だね。」
「私が強制したことだけどね。」
モニカが笑いながら瑞希に言った。瑞希はモニカのことをにらんだ。
「静香、お前はコンクールにのりたいのか?私は別にのりたいと思わないけど。この部活のルールマジで気持ち悪いし。先生来たら女子はピンで髪止めてデコ出さなきゃいけないルールがあるし。」
「確かに私もこんな髪型嫌だよ。」
あまり話さない静香と瑞希はこれをきっかけに打ち解けた。
「次、長尾麻也、オーディションお願いします。」
「それじゃあ、Eメジャー、エードゥアを吹いて。」
「はい。」
長尾麻也はスケールを吹いた。
「次はウィンドオーケストラのためのマインドスケープを吹いて。」
麻也は指定されたフレーズを吹いた。
「次、高杉孝建、お願いします。」
「それじゃあC#メジャー、チスドゥア吹いて。」
高杉孝建はスケールを吹いた。
「次はテナーサックスのオーディションです。原田華世のオーディションお願いします。」
「それじゃあ、G#メジャー、ギスドゥアを吹いて。」
華世はスケールを吹く。
「次、天田良枝のオーディションお願いします。」
「次、園田紗英のオーディションお願いします。」
「次、雪谷遥斗のオーディションお願いします。」
「Aメジャー、アードゥア吹こうか。」
「はい。」
「次はトゥーランドットお願い。」
サックスパートの全員のオーディションが終わった。
「ファゴットパートのA組希望者、音楽室に集まってください。」
今年のファゴットパートのA希望者は3人だった。基本的にファゴットは2人の場合が多い。多くて3人になることもある。一方ファゴットの1年生はA組にのりたいとは考えていなかった。古町貴子と賢人も瑞希と静香のように教室で基礎練習をしていた。
全体のオーディションが終わり、次の日にコンクールメンバーの発表が行われた。
「緊張するね。」
「私は出来ればD組が良いんだけど。」
皆、結果発表を楽しみにしている中瑞希と賢人だけはどうでも良い感じだった。
「これから各組のコンクールメンバーを発表したいと思います。呼ばれた返事をして立ってください。」
「フルートパートから、森本萌」
「はい。」
「毒島南。」
「はい。」
「坂本歩。」
「はい。」
「佐々木夏子。」
「はい。」
「野口佳奈。」
「はい。」
「以上5名次はクラリネット。前川実莉」
「はい。」
A組サックスの発表になった。
「A組サックス、アルトサックス横田香里奈」
「はい。」
「花岡明依。」
「はい。」
「中町麻央。」
「はい。」
「テナーサックス、天田良枝。」
「はい。」
「バリトンサックス、雪谷遥斗。」
「はい。」
「以上5名です。」
「花岡さん、A組とかすごくない?」
1年生でA組になれる子は話題の的である。
「A組、ファゴットパート。」
「新島麻理恵。」
「はい。」
「森太郎。」
「はい。」
「以上2名。」
A組のファゴットは全員3年生だ。
「A組トランペットパート、榎本成輝。」
「はい。」
「白山夏樹。」
「はい。」
「本柳穂乃香。」
「はい。」
「櫻井礼央。」
「はい。」
「片桐良太。」
「はい。」
「荒川香澄。」
「はい。」
「以上6名、次はA組ホルンパート、中里光輝。」
「はい。」
「林崎真希。」
「はい。」
「斉藤加奈。」
「はい。」
「橋本華音。」
「はい。」
「野島佐彩。」
「はい。以上5名。」
どんどん名前が呼ばれて行く。
「A組、ストリングベースパート、八田睦生。」
「はい。」
「篠原美代子。」
「はい。」
周りが騒然とした。篠原美代子はクラリネットでは全国大会に言ったことあるものの、ストリングベースは全くの初心者だからだ。
「A組パーカッション、春風美波。」
「はい。」
「浪江芳美。」
「はい。」
「毛利太郎。」
「はい。」
「粂川明日香。」
「はい。」
「高橋健太郎。」
「はい。」
「以上5名。」
55人のA編成のメンバーが発表された。
「B組サックス、アルトサックス、高杉孝建」
「はい。」
「倉町丈太。」
「はい。」
「テナーサックス、原田華世。」
「はい。」
「バリトンサックス、斎藤静香。」
「はい。」
「以上4名。」
B組のメンバーもパートごとに名前を呼ばれる。
「C組サックス、アルトサックス、長尾麻也。」
「はい。」
「山崎美恵。」
「はい。」
「テナーサックス、加藤瑞希。」
「はーい。」
「加藤ちゃんと返事して!」
「津田桜子。」
「はい。」
瑞希は長尾麻也の同じ組になってしまった。
「D組サックス、アルトサックス三好春奈。」
「はい。」
「バリトンサックス、吉原克彦。」
「はい。」
「以上2名。」
「D組ファゴット、古町貴子。」
「はい。」
「高木賢人。」
「はーい。」
賢人もだるそうな感じだった。
「次各組のコンクール曲を発表します。A組は課題曲1番とレスピーギ作曲のローマの松。」
「はい。」
突然自由曲候補が変わって仮Aだったメンバーは騒然とした。
「B組の自由曲は復興。」
「はい。」
「C組の自由曲はアフリカの儀式と歌、宗教的典礼。」
「はい。」
「D組の自由曲は神曲。以上。」
「この後、譜面係が楽譜を渡すので、各組各パートの代表者は譜面を取りに来てください。」
コンクールメンバーの発表と自由曲の発表は終わった。
「ねえ、聞いて。よっしー。」
「何?」
「あの問題児、加藤瑞希と同じ組なんだけど、まだ敬語使えないし、返事の仕方先輩のこと絶対なめてるし、先が思いやられるんだけど。」
「本当にそれな。マナー集のこと全部破ってて最低最悪の後輩なんだけど。あと高木賢人とラブラブらしよ。対して可愛いくないのにね。」
「分かる。それに初心者のくせにC組乗ってるし、調子に乗ってるよね。しばいておかないといけないわね。」
明星高等学校吹奏楽部にはマナー集という冊子がある。細かいルールが記載されてる冊子だ。高木賢人のような金髪は部活のルール上禁止だが、賢人は堂々とルールを破っているし、具体的な根拠がないので彼はルールに納得いっていない。他にも、先生が来た時は女子のみ髪をわけておでこを見せないといけないルールがある。瑞希は先生がいようが髪を分けようとしないが、先輩達に強制的に髪を分けさせられる。他にもメールの細かいルールなどがある。ルールを破るものは部内で総攻撃される。
「このマナー集とかマジで気持ち悪いんだけど。」
「金髪と楽器って具体的に楽器にどう関係あるか聞きたいよな。」
「あんたの金髪なんてどうでも良いけど、私なんて先生来たら前髪を分けて止めないといけないし、マジで気持ち悪いルールなんだけど。」
「一種の宗教みたいだな。」
吹奏楽部は何でもかんでも統一が求められる。ジャズのようなアドリブをきかせる音楽ではない。
「これからミーティングをはじめます。」
「宜しくお願いします。」
「業務連絡です。」
いつものようにミーティングが行われる。
「コンクールの自由曲が発表されましたが、課題曲と自由曲については絶対部外に漏らさないようにお願いします。」
「はい。」
毎年コンクールの曲が決まるたびに秘密にしている。明星高等学校吹奏楽部にも守秘義務と言うのが多い。どんなに汚いことをやっていようが絶対部外に漏らすことは許されない行為だ。もしそれを破れば部内で吊るし上げられる。
「コンクールの練習面倒くさい!」
瑞希はこれからC組として活動することになる。