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フレッシュコンサート

「今日、先生来るんだって?」

「先生来るの。」

吹奏楽部内は騒がしかった。吹奏楽部での音楽監督は部の中での最高指導者でかなり多くの権限を持っている。

「これからミーティングをはじめます。」

一斉に部員一同立つ。

「高木、立ちなさい。」

賢人と瑞希は面倒くさそうに立つ。

「宜しくお願いします。」

そして一同は猛スピードで座る。

「出席を取ります。森本、遠藤、田中、」

部員達は名前を呼ばれると大声で返事をする。まさに明星高等学校吹奏楽部は軍隊なのだ。

「有川!」

「レッスンのため遅刻です。」

「北条」

「家庭の事情ため欠席です。」

それぞれの遅刻、中抜け、早退などはちゃんとミーティングの点呼で言わないといけない。

「加藤」

沈黙が続く。

「加藤いますか?」

「はーい。」

「いるならちゃんと返事して。返事は大きな声で短く言って。」

「返事とかしないの?」

瑞希に集中攻撃だ。

「それって音楽にどう関係あるの?面倒くさ。」

「加藤、態度が悪い。」

ミーティングの雰囲気はさらに悪くなかった。ミーティング終了後悪口大会が行われた。

「今年の一年調子に乗りすぎじゃない?フレコンの後しめないと駄目だよね。」

「それ分かる!すれ違っても全然挨拶とかしないしさ。本当に先輩に対しての敬意というものが感じられないよね。」

「今日のミーティングの加藤のあの態度。流石にあれはヤバいと思うわ。」

「本当にそれ!うちらが1年の時あんな態度とったことないよね。」

長尾麻也などは他のパートの2年と話していた。

「瑞希、お前のそう言うひるまない態度好きだぜ。」

「何よ、いきなり。私はあんたみたいなお子ちゃまは興味ないのよ。」

「若い男も良いんじゃないの?」

「モニカ、いつの間に学校にいたのよ!」

瑞希は驚いて叫んだ。

「おい、瑞希、何叫んでんだよ。」

「これは別に大したことないのよ。」

「モニカって誰だ?」

「そんなの私知らないわ。私この後練習だからあんたにかまってる暇なんてないわ。」

「絶対何かがあるな。」

賢人は何かを感じ取った。

「せっかくあの若い男子と仲良くなったのにもっと話さないの?素直じゃないわね。」

「あのね。私には旦那と息子二人いるの!あんなのに恋するわけないでしょ!」

「たまにはアバンチュールも良いじゃないの?」

モニカは笑いながら瑞希をからかった。

「アバンチュールはあんたがすれば良いんでしょ。私はあんたが私に課した罰に付き合ってるだけなのよ。それといきなり現れたりしないで。心臓に悪いから。」

「私だって人間の男と何かしたいわ。誰か紹介してよ。」

「やだね。ただでさえあんたのせいで面倒なこと巻き込まれてるのに。」

瑞希はテナーサックスを運んでパート部屋に入った。そして一人で組み立てる。

「ちょっとリードのセッティング確認させて。」

2年生の天田良枝はセッティングを確認する。

「瑞希ちゃん、少し違うよ。リードは髪の毛1本分隙間を空けるの。これはリード楽器の基本の基よ。」

「これで良いのか?」

「これで良いんだよ。そしたら15分昨日言ったことを練習よ。」

「原田華世は?」 

「原田先輩でしょ。華世先輩は進路関係で遅刻よ。」

「分かった。天田。」

「あのね。私にも先輩ってつけること出来ないの?」

「言えば良いんだろ。天田先輩。これで満足?」

これ以上、彼女は何も言うことが出来なかった。

「今日は一つ一つの運指を一緒に確認するわ。」

良枝と運指の確認をした。

「次は半音の音も含めて運指をチェックするわ。」

瑞希はモニカからの監視下に置かれてたので運指を自宅でずっと確認していた。

「反応が遅いわ。私が言ったら瞬時に音を出さないと。」

良枝は日に日に厳しくなっていく。

「ちょっと私、アルトサックスのパート部屋に用事あるから一人で練習してて。」

良枝は長尾麻也の所に行く。

「加藤瑞希って子、問題すぎる。敬語は使えないし、原田先輩のことを呼び捨てよ。」

「私も思った。あの時のミーティングの態度最悪だったよね。」

「よっしー、麻也ちゃん、練習に戻ろうか。」

「すみません。」

サックスパートのセクショントップ、横田香里奈が言った。彼女はサックスパートで一番の実力を誇る人物だ。後輩達からも慕われてる存在だ。ただ一人の2年生を除いては。

「お待たせ、今日はロングトーンとスケールの練習しようか。」

瑞希は言われる通り良枝とロングトーンとスケールの練習をした。

「スケールはまずかなりゆっくりのテンポでやるから。」 

楽譜を読みながらスケールを吹く。

「音が間違えてる。もう一回やるよ。」

何回もスケールやり直しになった。

「今度は家でちゃんとスケールの練習して来て。そうじゃなきゃ曲の練習も。」

「ヨッシー。」

原田華世が来た。

「少しは曲の練習したほうが良いわ。私が変わるわ。」

「でも今日の指導役は私じゃ。」

「大丈夫よ。それによっしーには仮Aの練習があるでしょ。」

「華世先輩、分かりました。」

指導役は華世に変わった。

「それじゃあ、今度は私とスケールやるよ。」

スケールの練習が終わると南風のマーチの練習になった。

「フレッシュコンサートもうすぐだけど、まずはゆっくりなテンポで一緒に練習するよ。」

フレッシュコンサートととは新入生を迎えるコンサートのことだ。明星高等学校吹奏楽部で毎年行われる恒例行事である。

「私達が今吹いてる旋律は対旋律で裏メロディーなの。他にユーフォニアムとかが同じ動きしてるのよ。」

瑞希は音楽経験が無いので譜読みをするのに時間がかかってしまった。

「ここもう一度吹こうか。」

何度も同じようなフレーズを繰り返して吹いた。そして彼女の体の中にそのフレーズが刻み込まれる。

「やれば出来るじゃん。」

「ありがとうございます。」

彼女は部内ではじめて敬語を使った。

「最初にしてはよく出来てると思うよ。そしたら次のフレーズを吹こうか。」

練習をしていくうちに部活が終わり、ミーティングも終わった。

「急いで行動してください。」

「加藤、歩いてないで走って。」

「あー、面倒くさいな。」

嫌々と瑞希は走って校門を出た。

「高木、今日はどうだった?」

「今日はスケールの練習と南風のマーチだった。中々難しいな。」

「加藤さん、今日は私達とドーナツ屋行かない?」

アルトサックス1年の三好春奈が瑞希に声をかけた。

「うちは高木達と帰るから行けない。」

そのまま瑞希は帰宅した。

「まさか今日はあんたまでついて来るなんて思ってなかったわ。ついて来る時はちゃんと私に言ってよ。」

「私は自由な死神なのよ。」

「突然現れるなってことよ。」

「部活は慣れたか?」

「まさか。あんなに染まるわけないでしょ!あんたが私の命を管理してるんだからしょうがなくあの部活に付き合ってるだけよ。もう早く私を開放して欲しいわ。息子にも会いたいし。」

「息子に会わせられるのはもっと先の話よ。」

次の日も朝がやって来る。モニカに叩き起こされて目が覚める。

「瑞希、ご飯食べて行きなさい。」

瑞希はこの世界の家族との生活も慣れて行った。

「行ってきます。」

彼女は家を出た。

「瑞希ちゃん、今日は一緒に帰らない?」

ユーフォニアムパートであり同じクラスの望月彩乃が声をかけた。

「それなら高木と林崎と一緒に帰ろう。」

授業が終わり、吹奏楽部の練習がはじまった。

それから一週間後、サックスパートでパート練習になった。

「1年生、集まって。パート練習するよ。」

パート練習をするのに机を移動させたりなどをした。

「まずは南風のマーチを練習します。まずは一人ずつチューニング。アルトサックスから。」

横田香里奈主導で各セクショントップがパート練習に参加した。テナーサックスからは良枝が参加した。

「次はテナーサックス。」

「加藤、少し高いから少し抜いて。」

クラリネットやサックスはコルクの抜き差しで音程を調整する。

「中々合わないわ。」

チューニングに時間がかかった。

「次はバリトンサックスチューニング行います。」

そして全体のチューニングが終わった。

「次は南風のマーチとポップスの合わせます。まずはイントロから通しでお願いします。」

最初のうちはあまり厳しい感じの雰囲気は無かったし、一人一人丁寧に教えるような雰囲気だった。

「そこはアルトサックスだけメロディーだからもっと歌って吹いて大丈夫よ。」

サックスパートのパート練習はほぼ合奏練習に近い状態になる。

「高木、パート練習するよ。」

一方、ファゴットパートはストリングベースパートと同じ部屋でパート練習をしていた。

「私達のパートはメロディーや副旋律を支える表打ちのパートよ。私達がいなきゃこの曲は成り立たないと言っても良いわね。」

ファゴットパートも同じようにフレッシュコンサートに向けての練習が行われた。篠原美代子は伴奏になれずに内心つまらなそうに演奏していた。

「これからミーティングをはじめます。宜しくお願いします。」

「宜しくお願いします。」

フレッシュコンサートの日に近くなって来た。

「今日は皆川先生がいらして、仮Aはトゥーランドットとウィンドオーケストラのためのマインドスケープの合奏があります。仮Aの合奏終わり次第、1年生演奏の合奏があるのでセクショントップの上級生は一緒について合奏に行くようにお願いします。」

ミーティングが終わって騒ぎになっていた。

「高木、何やってるの!先生来るのに何で黒染めしてないのよ!黒染めにして来てって言ったでしょ。」

「それなら吹奏楽部は何で金髪が駄目なのか説明出来るか?」

賢人は先輩数人に注意されていた。

「高木が金髪とかどうでも良いけど。」

「でも部活のルール破るのは良くないよ。」

瑞希はどうでも良い態度を取った。

「1年生合奏です!」

「加藤、走って!」

「走って音楽室に向かってください。」 

先生が来たら走って音楽室に向かうルールがある。1秒たりとも合奏の時間を無駄にしないためだと言われている。

「これから合奏をはじめます。皆川先生、宜しくお願いします。」

「宜しくお願いします。」

「まずは通しでお願いしようか。南風のマーチから。」

1年生は上級生のフォローのもと演奏した。

「トランペットもっと音出して。」

「サックスもっと歌って。」

合奏は終わり、日が過ぎてフレッシュコンサート当日になった。

「保護者の皆さん、こんにちは!今日はMWOのコンサートにお越しくださいましてまことにありがとうございます。ただいま司会を務めますのはトランペットパート五十嵐和也と」

「クラリネットパート大浦麻由里です。オープニングにはショスタコーヴィチ作曲の祝典序曲をお送りします。」

トランペットのファファーレから曲がはじまる。そして低音群が圧力のある音を鳴らす。そして色んな楽器が入る。それからクラリネットのソリになりたくさんの楽器が重なった。

「続いての曲はジェームズ・バーン作曲、交響曲第3番です。」

チューバのソロから曲がはじまる曲だ。

「続いては1年生演奏です。1つ目の曲は南風のマーチ、2曲目はブルースカイをお送りします。可愛い一年生たちの入場です。」

1年生は司会とともに自分の座席についた。

「サックスパート2年パートリーダー長尾麻也が1年生を紹介します。」

「花岡明依。」

「はい。」

呼ばれるとサックスパートの1年生は立った。

「倉町丈太。」 

「はい。」

「三好春奈。」

「はい。」

「加藤瑞希。」

「はい。」

「斎藤静香。」

「はい。」

「以上5名です。」

「ファゴットパート2年パートリーダー、相馬奈々が1年生を紹介します。」

「古町貴子。」

「はい。」

「高木賢人。」

「はい。」

「以上2名です。」

「ユーフォニアムパート2年パートリーダー、安藤千代子が1年生を紹介します。」

「望月彩乃。」 

「はい。」

「以上1名です。」

「ストリングベースパート2年パートリーダー、金本敦也が1年生を紹介します。」

「篠原美代子。」

「はい。」

「石橋哲也。」

「はい。」

「以上2名です。」

1年生紹介が終わった。

指揮とともに南風のマーチを吹いた。瑞希と篠原美代子。は面倒くさそうに楽器を吹いていた。賢人は何だかんだ楽器を楽しんでいる様子だった。

「続きましてポップスステージです。」

ポップスステージは1年生は先輩の演奏に合わせて盛り上げた。そして最後にアンコール曲に参加してコンサートは終了した。

「瑞希良かったよ。」

「お母さん…」

母親からの愛を知らなかった瑞希は不思議な気持ちになった。

フレッシュコンサートが終わると部内はコンクールモードに切り替わる。

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