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洗礼

毎年フレッシュコンサートでは1年生演奏として南風のマーチと歌謡曲が演奏される。

「まずは運指を覚えて。チューニングで使うドの音は左手の中指で押すのよ。」

テナーサックスを担当するようになってから本格的な練習が始まった。

「運指を明日までに覚えてくるように。今日はずっと運指の練習よ。」

「メトロノームに合わせて、ロングトーンの練習よ。チューナーメトロノーム貸すからちゃんと音を伸ばせるように。」

テナーサックスの2年生、天田良枝が言った。

「ちゃんと音伸ばせてないけど。」

初日と比べると天田良枝は厳しくなった。

「ドシラソファミレドの音を出すよ。」

良枝と瑞希は一緒に音を出す。

「次は下がっていくよ。」

「肩が痛い。」

最初のうちはサックスを吹くとストラップのせいで肩が痛くなることがある。

「次は楽器を置いて座学よ。資料を渡すから絶対に失くさないように。」

資料は音楽用語がたくさん書かれている資料だ。

「まず吹奏楽やクラッシックの場合はドイツ音名を採用してるの。ABCDEFGって表示されるの。まず全音と半音というのがあって、全音は半音を2つ合わせた音。半音はすぐ隣の音よ。」

「どう言うこと?つまりどいうことだ?」

瑞希は何が何だか分からなかった。

「大雅、ハーモニーディレクター借りるよ。」

「ハーモニーディレクター?」

ハーモニーディレクターとはキーボードと同じような機能がある楽器、音を出すだけではなく、メトロノーム機能を使ってテンボを刻むことも出来る。明星高等学校吹奏楽部ではパートごとに一台保有してる。

「まずこの鍵盤を見て。半音はすぐ隣の鍵盤のことを指すの。全音はその半音2つ足した音のこと。例えばドの音が半音下がればシの音になるし、ドの音が半音上がればド#になるの。ここまでは分かった。」 

「これだけじゃ分からないからもっと説明して。」

「はぁー。」

良枝はため息をついた。

「もっと詳しい説明をするわ。半音上げる記号が#、シャープって読むのよ。半音下げる記号が♭、フラットと読むの。そこでドイツ音名のABCDEFGの話に戻る。読み方はもちろんドイツ語読みよ。例えばG、ゲーの音がある。これを半音上げるとGisギスになる。」

ハーモニーディレクターで音を鳴らした。

「これを半下げるとのGesゲス音になる。つまり半音上げる場合はアルファベットにisをつける。半音下げたい場合にはアルファベットにesをつけるんだ。」

「それならEの音の半音下はEsデス、半音上はEis?エイス?」

「この場合はFの音になるの。元のアルファベットで表記するの。じゃあ問題を出すわ。Aの場合は?」

またハーモニーディレクターで音を出した。

「半音下げるとAsアス、半音上げるとAisだ。」

「一方は合ってるけど、もう一方は引っかけ問題よ。これ音だけ例外で必ずB♭べーよ。」

「ん?♭つくならベスじゃないの?」

「例外でこれはべーとよむのよ。チューニングの時に使う基準の音よ。」

「それなら鍵盤の一番お尻の音がべーじゃないの?」

「シの音のことね。それはHハーよ。これも例外なの。」

「はぁー?」

「ギャグ言ってるの?」

「言ってないわ!このクソガキ!」

「クソガキって、私の方があんたより先輩なのよ。部活での態度は後でみっちり教えるとして今日は音名を覚えてもらわないといけないわね。」

中身が46歳の瑞希からすると高校生は皆子供だ。

「じゃあこれは何て読む?」

「チス。」

「これは?」

「ギス。」

五線譜の読み方も良枝から教えてもらった。

「ん?待って。何でピアノとサックスでドの音が違うんだ?」

「これから教えるところよ。それは調が違うからよ。」

「ピアノとかフルートはC調楽器。私達は管楽器だからC管楽器と呼んでるわ。」

「サックスって言うけど、サックスにはアルトサックス、ソプラノサックス、テナーサックス、バリトンサックスがあるの。ソプラノサックスとテナーサックスはB♭管楽器よ。つまりドの音がB♭ではじまる楽器のことよ。同じサックス属のアルトサックスとバリトンサックスはEs管楽器。Esをドとしてはじめる楽器なの。」

「他にB♭楽器はあるのか?」

「もちろん。トランペットやクラリネット、バスクラリネットやユーフォニアムが同じB♭管楽器よ。」

「なるほど。」

「この資料は家帰って必ず読み返すように。」

そしてキーのおさえる指を教えて貰ううちに部活は終わった。

「今日はここまでよ。楽器の片付け方を教えるわ。まず、マウスピースを抜いて、リードについてる水分をタオルとかで取るのよ。」

ハンカチで拭いた。

「そしたらマウスピース用のスワブを通してあげるの。ネックにも。水分がちゃんと取れるまでよ。」

スワブという布をマウスピースとネックに通した。

「そしたら本体にはもっと大きいスワブを使うの。」

本体にもスワブを通した。

「必ず片付ける時にこの作業をかかさないことよ。あと終ったら必ず専用のケースに入れる。片付ける場所を案内するわ。」

楽器収納室にテナーサックスを片付けに行った。

「急いで。ミーティングはじまるわ。」

終わりのミーティングは100人以上が一つの教室に集結した。

「何だこれ?家畜工場か何かか?それともカルト団体か何かの会合か。」

「加藤、黙ってて。大事なミーティングなのよ。」

2年生と3年生は真剣な表情をしていた。

「異様な雰囲気だな。気持ち悪いな。」

賢人も瑞希と同じようなことを言った。

「これから帰りのミーティングをはじめます。」

「加藤も立って!」

部員がもうスピードで一斉に立った。

「宜しくお願いします。」

礼をするとすぐに着席した。

「何だよ、これ。気持ち悪いな。」

「加藤、良いから静かにして。ミーティング中よ。」

ミーティング中は沈黙を保たなければならない。

「譜面係からで各パートの譜面係の人は吉原の所まで来てください。」

「この後名前を呼ぶ人は必ず残ってください。」

ミーティングの雰囲気はまさにお葬式のようなギスギスした雰囲気だった。

「これで帰りのミーティングを終わります。ありがとうございました。」

「ありがとうございました。」

そして全員下校の準備をする。

「見回り報告お願いします。」

「1年生、急いで。」

「加藤、高木、のたのたしないで。」

「ピリピリしてて最悪だな。」

「私だってやりたくてこんなことやってるわけじゃないから。」

学校から全員出た。

「高木、お疲れ。」

「瑞希、お疲れ。今日は何やったんだ?」

「今日はドイツ音名とドレミファソラシドの運指を教えてもらったわ。高木は?」

「俺も同じようなことだ。」

「明日までにドイツ音名覚えてこいだって。面倒臭いわ。マジあの先輩面倒臭いわ。」

「俺の所の先輩も中々面倒臭い女だよ。この髪を黒髪にしろってうるさいんだよ。」

「あんた、金髪にして格好つけてるわけ?」

「俺は女にモテたいからな。」

「吹奏楽部の女はやめときな。入部して面倒くさそうな女が大半を占めてるから。」

「少なくとも俺の先輩は面倒くさいヒステリー女だな。」

「何言ってるの?高木、加藤。」

篠原美代子が後ろから声をかけた。

「あんた達はまだ良いよ。全国レベルの私がストリングベースよ。最悪すぎるわ。」

「経歴だけのやつってことだな。」

「は?私はクラリネット上手いのよ。何でこの私がストリングベースなんか。」

美代子はプライドが高かった。

「美代子ちゃん、ストリングベース似合ってると思うけど。」

林崎真希が後ろからやって来た。

「何よ。希望の楽器になって良い気になって。」

「私はホルンしか出来ないけど、美代子ちゃんはストリングベースも出来る先輩達が思ったんだと思う。」

真希が美代子をフォローした。

「加藤さん、この後一緒にドーナツ食べに行かない?」

「やだ。私はそのまま帰るよ。あんたは誰?」

「私は同じパートの三好春奈よ。アルトサックス吹いてるの。これからも宜しくね。」

「意外と可愛い女子もいるもんだな。」

高木は春奈を目で追った。

「何やってるの。一緒に帰るよ。」

「分かったよ。」

4人で帰ることになった。

「マジで疲れた。」

「やっと終わったのね。今日は何してたの?」

「モニカ、見れば分かるでしょ。クソみたいな部活から帰ってきたのよ。早くあんな部活なんてやめてやりたいわね。」

「やめたらどうなるか分かってるの?」

「分かってるよ。あんたに従えば良いんだろ。」

「今日は何のお菓子持ってるんだ?」

「グミチョコよ。」

「何これ、美味しい!」

「あんた勝手に食べないでよ。」

次の日はモニカが学校に着いてきた。

「私、料理部と漫画研究会に入部したんだ。」

「あっそ、良かったね。」

「加藤さんは吹奏楽部でしょ。すごいな。あんな全国レベルの部活に入るなんて。」

「私は好きで入ってるわけじゃないのよ。」

部活動以外では刈谷芽衣子と話すことが多かった。

「瑞希ちゃんいた!一緒にご飯食べない?」

林崎真希と他の部員数人が彼女のもとに来た。

「どうせ吹奏楽部で会えるでしょ。私クラスの用事あるからまた部活で。」

「そうなのね。分かった。」

部活動以外でも部活動のメンバーでかたまることはよくあることだ。

「部活以外の時間で部活のこと考えたくないんだけど。」

彼女は吹奏楽部を楽しく思ってないから部活の仲間とつるむのは疲れが倍増することだろう。

「今日は私が教えるわ。」

3年テナーサックスの原田華世が今度は指導をした。

「よっしー、からはスケール本とかエチュードの本はもらった。」

「まだもらってない。」

「瑞希ちゃん、敬語を使おう。」

「うるさい、このクソガキ。」

彼女達に敬語を使うことに納得言ってなかった。

「ここで敬語使えなかったらどこ行ってもあんたは通用しないわよ。」

「それならもっと尊敬されるような振る舞いすれば良いでしょ。行動の一つ一つが私からしたらガキンチョに変わりないんだから。」

その次の日、サックスパートの2年生と3年生だけでミーティングになった。

「加藤瑞希、すごい調子に乗ってる。敬語は使わないし、クソガキって言われたんだよ。」

「そろそろしめないといけない時ね。」

一番目をつけていたのはアルトサックス2年生でパートリーダーをしてる長尾麻也だ。彼女に目をつけられたら大変なことになる。これから加藤瑞希に試練が待ち受ける。

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