吹奏楽部への入部
たくさんの新入生が会議室に集まった。
「ミニコンサート、そろそろはじまる。」
「楽しみなんだけど。」
そんな中一人だけテンションがかなり低い人がいる。加藤瑞希だ。
「ミニコンサートなんか聞いて楽しいの?面倒臭いんだけど。」
「あんたにはこれからキツイ罰を受けないといけないのよ。」
モニカは瑞希の前に立って言った。
「吹奏楽部ミニコンサートはじまります!」
呼びかけとともにたくさんの新入生が吹奏楽部のミニコンサートに行く。
「何この集会?早く帰りたいんだけど。」
「帰ったら許さないわ。」
席に座ると、吹奏楽部員が一斉に楽器をかまえる。演奏とともにダンス隊が入場した。とてもキレキレなダンスだ。奏者も楽器を動かしながらパフォーマンスをした。
「また、あのイケメンな先輩のソロよ!」
「榎本成輝先輩よ!」
「どこがカッコいいんだか。と言うかこれずっと聞かないといけない?」
どうやら瑞希は吹奏楽の演奏があまり好きではなかった。近所で楽器の音が聞こえるとかなり苛立つくらいの人間だ。
「君なんでここにいるの?さっきから文句ばかりで。」
隣の女子が瑞希に言った。
「私は吹奏楽嫌いだけど、親から強制されてこの部活に入ることになったのよ。」
それらしい嘘をついた。
「良かったわ。私の名前を出さなくて。」
モニカは安心した。
「両親が高校時代吹奏楽部だったの。吹奏楽に対しての熱量は私と比べ物にならないくらいだわ。毎日家では吹奏楽の曲ばかり流れるし。」
「え?良いじゃん。羨ましいわ。私の親なんて吹奏楽に興味ないし、中学の時にコンクールとか来てくれなかったのよ。吹奏楽の曲流すといつもうるさいって言ってくるからイヤホンしてるわ。それに楽器買って欲しいのに買ってくれないし。」
「それってあんたの親があんたに興味ないとかなんじゃない?それなら親を交換出来たら良いのにな。」
「お前が言うかよ。」
モニカが笑いながら瑞希に言った。瑞希はモニカの方をにらむ。
「そんなこと出来たら今頃こんな気持ちじゃないわ。もっと親が私の好きなこと関心持ってくれたら良いのに。」
「何かの宗教に洗脳されてるみたいね。あんた名前は?」
「林崎真希よ。」
「私は加藤瑞希。」
「続いての曲はスペインです。」
大勢の奏者の前にトランペット、トロンボーン、サックスの集団がやって来た。
「今度のソロ違う人だ。」
トランペットのソロを吹く人がまた変わった。伴奏とともにトランペットの音が重なった。
「この先輩もソロカッコよすぎるんだけど。」
新入生はソロを聞いて聞き惚れた。するとテンポは速くなった。リズムとともに全員が足踏みをした。さらにアルトサックスのソロになった。
「横田先輩、ソロカッコいい。」
横田香里奈はサックスパートのセクショントップだ。
「カッコいい!」
そしてサックスソリになった。そしてしばらくすると曲は終わった。
「続いての曲は愛のコリーダです。」
司会が立ち去って戻るとともに低音が鳴り響く。
「早く終わらないかな。」
「何あくびしてるの?先輩達が演奏してるんだよ!」
「あんた何?私の何を知ってるわけ?」
「コンサートマナーが悪いって言ってるの!」
「だから何なのよ。訳あってこんな演奏しょうがなく聞いてるのよ。」
「あんた名前は?」
「加藤瑞希よ。」
「入部するまでにそのコンサートマナーをどうにかしな!」
「人に名前聞いたら名乗れよ。」
「私は篠原美代子よ。ここでクラリネットを吹くつもりよ。私は全国レベルの中学から来たから。絶対足を引っ張らないで。」
「モニカ、吹奏楽部ってこんな面倒臭い奴らばかりなのか?」
「こんなの序の口よ。」
ミニコンサートは終わった。
「この後、パートごとに先輩達がプラカードを上げているのでそちらの先輩達について行ってください。初心者の方は私、夏川の所に来てください。」
「じゃあね。偏屈さん。私はクラリネットのところに行くわ。」
「何だあいつ?クソみたいだな。」
篠原美代子は最初から良くない印象だ。
「加藤さん、私ホルンのところに行くね。」
林崎真希はホルンパートの先輩達の所に行った。
「初心者の皆さん、こちらに集まってください。」
加藤瑞希ともう一人男子が集まった。ツーブロックで髪を染めていておちゃらけていた男子だった。
「2年1組にご案内しますね。」
案内されて、二人は席に着いた。
「改めて、3年チューバパート部長夏川京子です。」
「私は3年フルートパート副部長森本萌です。」
「私は2年クラリネットパート部長榊原美里です。」
2人は数人の先輩に囲まれた。
「私達、明星高等学校吹奏楽部、すなわちMWOは感動を音楽で分かち合うをモットーで活動しています。」
「次にパート紹介をします。3ページをお開きください。」
瑞希ともう一人の男子はページをめくる。
「フルートパートは銀色でソロの多い高音のパートです。音はこちらのようになります。音はこんな感じです。」
森本萌の音が教室中に響き渡る。
「続いてクラリネットパートです。クラリネットはオーケストラで言うバイオリンの役割をになうパートです。メロディーも多くて楽しいパートです。音はこのような音です。」
クラリネットの音が響く。
「続いてはトランペットパートです。高音でソロが多く、クラッシックだけではなくジャズやポップスでも活躍するパートです。音はこのような感じです。」
後輩達の憧れの榎本成輝がトランペットを吹いた。彼の音が響き渡る。
「次はバスクラリネットパートです。木管楽器で木管楽器の中では低音の役割とバンドの芯の音になるパートです。」
バスクラリネットの音が響き渡る。バスクラリネットを吹いているのは箕輪沙耶香だ。
「瑞希、あんたは何か興味ある楽器あるの?」
モニカが聞く。
「今話しかけないで。」
小声でモニカに言った。
「加藤さん、何か言った?」
「何でもないけど。」
瑞希の一言で場が固まった。
「お前加藤だっけ?」
「そうだけど。あんた誰?」
「俺は高木賢人だ。お前は何の楽器やるんだ?」
「特に興味ある楽器ないわ。親が吹奏楽部入れって言うから入ってるだけ。」
「俺はパーカッションやりたいけどな。」
「パーカッションって太鼓とかのこと?」
「そうだな。ドラムとピアノやギターが俺得意だからな。」
「高木君、音楽経験者だったの?」
3年部長の夏川京子が聞く。
「吹奏楽はやったことないけど軽音楽は得意だ。」
高木は得意げに言った。
「吹奏楽は初心者と言うことだから他のパートも見学させてもらうからね。」
森本萌が苦笑いしながら言った。
「まずはこちらはフルートパートの部屋です。」
瑞希と賢人はフルートパートの部屋に入った。
「まずはこの頭部管で音を出して見ようか。」
森本萌が言った。
「こんなに小さいのに全然音ならない。」
「何これ、気持ち悪くなりそう。」
二人は酸欠になりそうだった。
「次はバスクラリネットパートの部屋です。」
箕輪沙耶香が案内した。
「まず吹く前に組み立てをしましょう。この黒い吹口をマウスピースって言います。」
「音が出ない。」
「これだけじゃ音は鳴らないよ。マウスピースに葦でできたリードをつけるの。クラリネットやバスクラリネット、サックスはリードを振動させて鳴らす楽器なんだ。」
「なるほど。」
「何かダサそうな楽器ね。」
「バスクラリネットはカッコいい楽器なのよ。」
沙耶香は少し怒ったがかなりこらえていた。
「マウスピースにリードをつける時は先にリガチャーというネジのついた備品を取り付けてからリードをつけるの。後からリガチャーをつけるとリードが壊れてしまうんだ。」
次に組み立て方を沙耶香は教えた。
「バスクラリネットにはマウスピース、バレル、上管、下管、ベル、エンドピンの部位があるの。まずはベルにエンドピンをつけていくよ。」
「エンドピンって何?」
「これがないとバスクラリネットを支えられないの。この銀の棒のこと。絶対無くしちゃ駄目。」
瑞希と賢人は木管楽器の見学が終わり帰宅した。
「あんた本当に吹奏楽部入るの?あんな部活やってられないでしょ。」
「お前こそ何であんな部活入るんだ?」
「私は親に言われて仕方なく入るのよ。本当に面倒臭いわ。」
「それなら反抗すれば良いだろ。俺は女子にモテたいから入るんだ。女の人数多いし、ドラムでカッコつけてモテモテになりそうだから。」
「あんたそんな理由で部活はいるのね。あんたが羨ましいわ。頭の中お花畑で。」
「あんたここにいたのね。」
後ろから篠原美代子が声をかけた。
「あー、偏屈女か。」
「あんたみたいな女だけには言われたくないわ。」
「馬鹿にして来たわけ?言っておくけどあんたに何言われても私は気にしないのよ。」
「そう言うのは楽器が上手くなってから言ったら?大して楽器も上手くないのに非常識な態度取るのやめたら?」
吹奏楽部には上手いなら何でも言っても良いと思ってる人が一定数いる。
「今日の部活体験に来てた人達はまあまあな実力ね。私の実力にビックリしてたやつもいたけど。」
美代子は中学時代に強豪校でクラリネットのソロで驚かせた人物だ。
「クラリネットパート結構人気で楽器体験してもらえなかったな。バスクラリネットは体験したけど。」
「バスクラリネット?私は伴奏とかやりたくないわ。私はメロディーで目立つ方が良いのよ。先輩達を抜かして1年でセクショントップを目指すの。」
「セクショントップって何だ?」
「そのパートを先導する人間のことよ。」
「態度のデカさはクソみたいなリーダーだな。」
賢人が美代子を馬鹿にした。
「あんた吹部に入部する割に何その髪の毛?金髪とかありえないんだけど。」
「吹部が金髪にしちゃいけない法律とかあるのか?無いだろ?」
「吹奏楽の常識よ。」
「何それ?高木、こんなやつ放っておこう。」
「それは俺のセリフだ。」
「ちょっと私の話を最後まで聞きなさい!」
美代子は去って行く二人を追いかけた。
「帰りのミーティングをはじめます!」
その頃2年生と3年生の間ではミーティングが行われていた。
「1年生が入部するにあたり各パート、TWOのマナー集を渡すようにお願いします。」
「はい!」
全員一斉に指示に返事をする。それも大きな声で。
「今年の1年調子に乗ってるね。」
一部の2年生や3年生の間では1年生をよく思わないものがいた。