吹奏楽罰
加藤瑞希は順風満帆な生活を送っていた。仕事も家族のこともすべて成功していた。
「今日は息子の受験日ね。」
子供のことも成功していた彼女はある日死神に会う。
ある日ある道で加藤瑞希は一人の女性とぶつかる。女性は金髪で目が青く、サラサラのロングヘアーだった。
「ちょっとあんたぶつかったじゃないの。私に謝りなさい。」
「嫌だね。何であんたに謝らなきゃいけないのか。」
女性は瑞希を怒らせる。
「あんた常識と言う物を知らないの?人にぶつかったら謝ることって誰でも学ぶものでしょ。」
「逆の立場なら謝るとかないのにね。加藤瑞希さん。」
「え?何で私の名前を?」
瑞希は冷や汗をかく。
「その反応はあんたは加藤瑞希で間違いないようね。あんたはどれだけの人の人生を踏み台にして生きて来たんだろう?その一人一人に心から謝ったのかしら?それならあんたは謝る価値のない人間ね。橋本紀子。あんたが人生を台無しにした被害者の一人よ。」
「橋本紀子?誰よそれ。私の人生には関係ないわ。うるさいからとっとと消えなさい。」
瑞希は女性にぶつかってその場を去ろうとした。するとまた女性が目の前に現れた。
「私から逃げようとしても無駄よ。」
「どうしてまたあんたがいるのよ。」
「だから言ったじゃん。私からは逃げることは出来ないって。橋本紀子のことを忘れるなんて都合の良いやつね。」
「そんな人知らないわ。何のことかしら。」
「あんたがいじめた同級生よ。いじめっ子のたちの悪い特徴ね。あの後、橋本紀子がどうなったか知ってる?不登校になって人間不信になって中学あがってからもいじめのターゲットになってそれからずっと引きこもって、社会にも希望が出来なくて自殺したのよ。」
「何それ?覚えてないわね。仮に私がやったとしてもそれって私だけのせいじゃないわ。」
「加害者が複数いようがあんたが罪を犯したことには変わりないわ。それにあんたの罪は他にも数え切れないくらいあるけど。例えばミスコンの他のファイナリストの人生をめちゃくちゃにしたりとかもしたよね?」
「さっきから何なのよ!私だって貧乏でゴミのような両親のもとで自力で生きてきたのよ。たかがいじめられたくらいで自殺したり人生が終わるって、問題解決能力のないそいつらの責任よ。世の中弱い奴らは淘汰されるもんなのよ。分かった?分かったならとっとと私の前から消えて!」
「嫌よ。軽々しく命令しないで。」
「しびれる。」
彼女に電流が走った。
「ちょっと何するのよ!」
「意外と電気ショックに弱いみたいね。」
もう一度瑞希に電気ショックを与えた。
「私があんたに課す制裁はこれからがお楽しみね。」
「は?裁判官とかなんかになったつもりかしら?」
「私は裁判官みたいな可愛いもんじゃないわ。私は死神なのよ。こんなことも出来るのよ。」
二人以外の時が止まった。
「何したのよ。」
「私は普通の死神と違って時空をコントロール出来るのよ。」
「私は殺す気?」
「私は普通の死神と違うのよ。生き地獄をこれから体験させるのよ。」
「今日は息子の大事な受験の日なのよ。馬鹿なことはやめて。死神のコスプレかしら?」
「これでも信じないかしら?」
「きゃーー!」
瑞希は驚いて尻もちをつく。彼女は骸骨の姿になりすぐに戻った。
「紹介するわ。」
女性はジャンプした。
「私は死神のモニカよ。正義の死神よ。好きな男性のタイプは人間のイケメンね。俳優なら水口誠也がタイプだわ。」
「そんなことまで聞いてないわ。あんたのタイプとかどうでも良い。」
「これからあんたに与える罰は吹奏楽罰よ。」
「は?何なのよそれ。」
「これからがショータイムね。」
モニカは指パッチンをした。
「ここはどこ?」
「鏡を見なさい!」
「え?これって高校生の時の私?」
鏡には高校時代の彼女が立っていた。
「何あんた?私を高校生に若返らせるとか良いやつね。この姿で息子とあったら彼女かなんかと間違えられそうね。」
瑞希は若返った自分の姿を見て興奮した。
「は?別に私はあんたのためにそうしたわけじゃないのよ。気持ち悪い。」
モニカは冷たい言葉で突き放した。それでも彼女は興奮していた。
「呑気に出来る時間はもう終わりよ。」
「そうね。これから息子に会いに行かないとだわ。」
「あんたの息子はここにいないのよ。」
「何言ってるの?まさかあんた息子を殺したの!」
「安心して、殺意があるとしたらあんただけだから。でも生きて精神的苦痛を味わう姿の方があんたにはお似合いね。」
死神モニカは瑞希の後ろに立つ。
「ここは異世界なのよ。」
「つまりどういうことなのよ?」
「元の世界とは違う世界のことよ。そうだ。あんたのことを家まで案内するわ。」
彼女達は家に着いた。
「これがお母さんとお父さんよ。」
「瑞希、おかえり。」
彼女の両親は元いた世界と姿が違った。経済状況も違っていて彼女がこれから暮らす家庭は中流階級の家庭だ。
「そこそこお金はある家ね。親もうちのクソ両親よりかはマシね。」
「ここがあんたの部屋よ。」
「自分の部屋ね。そんな物、私の高校時代なんて無かったわ。狭い家で暮らしていたわ。」
「あんたの思い出話なんて聞いてないわ。これからあんたが受ける罰はこの世界で過酷で極まりない吹奏楽部に入部することよ。」
「は?吹奏楽部とか絶対嫌なんだけど。オタクの部活でしょ。」
「拒否なんかしたらこうするわ。」
また瑞希には電流が走った。
「何するのよ!」
「拒否する度に電気ショックを与えるわ。拒否し続けるようなら電気ショックは止まらない。最悪電気ショックで死んじゃうかも。」
モニカはニヤニヤと笑った。
「瑞希ちゃん。ご飯が出来たよ。」
彼女は母親が作った夕飯を食べる。
「瑞希のくせに美味しそうな夕飯食べるわね。」
「死神って人間と同じ食事するの?」
「私達はコウモリとかネズミとかコウロギとかを食べてるわ。」
「何それ?気持ち悪い。吐きそうだわ。」
「瑞希ちゃん、さっきから誰と話してるの?」
彼女の母親が聞いた。どうやら瑞希以外には死神の姿は見えないようだった。
「何でもないわ。ちょっと友達と話てただけ。」
小声でモニカに話しかける。
「どう言うこと?私にしか見えてないわけ?」
「そうよ。」
「最初から言ってよ!」
彼女は食事を終えた。
「うちの本当の両親よりかマシね。こんな暖かいご飯が出てくるなんて。」
「あんた自分の都合良いことしか覚えてないんだな。あんたみたいな被害者ぶる女1番嫌いね。」
「嫌っても結構よ。あんたに好かれたいなんて思ってもないし。」
彼女は高校に入学すると部活の勧誘がものすごい盛んだった。
「テニス部入らない?」
「テニス部、楽しそうだわ。」
「野球部のマネージャーとかどうですか?」
「野球部のマネージャーやるくらいならサッカー部のマネージャーの方が楽しそう。」
彼女は高校時代ゆるいバドミントン部に入っていたので別に興味のある部活はさほどなかった。
「皆さん、こちらが部活の入部届です。」
校則で部活には絶対所属しないと行けないルールがあった。
「部活入るとか面倒くさいな。」
彼女は入部届を見ながら面倒くさい表情を浮かべた。
「とりあえずこの学校もバドミントン部がゆるそうだからバドミントン部にするか。」
すると彼女には電流が走る。
「何するんだよ!」
「吹奏楽部じゃないと駄目よ。」
「は?何よそれ!吹奏楽部みたいなオタクで陰キャラが入る部活とか入りたくないんだけど。」
「加藤さん、おしゃべりはやめて!」
クラスメイトにもモニカが見えていなかったので、クラスメイトは全員瑞希の方を見た。
「もう、モニカ!私が変な人だと思われたじゃないの!」
「知らないわ。急に切れ出すあんたが悪いんだから。」
「吹奏楽部なんて入りたくないわ。どうせならもっと青春できる部活のほうが良いけど。」
「加藤さん、何部にするんですか?」
「私はまだ決めてないわ。と言うか君、名前なんって言うんだっけ?」
「私は刈谷芽衣子です。私は料理部と漫画研究会兼部しようかなと思います。」
「へー…そうなんだ。」
「もし良かったら一緒に行かない?」
「私はあんまりそう言うの興味ないから。」
「そうなのね。でも席近いから宜しくね。」
瑞希はそっけない態度を取った。
「どうしても吹奏楽部に入らないと駄目?あんな陰キャラ集まりそうな部活入りたくないんだけど。」
また瑞希に強い電流が流れた。
「死にたいなら拒否しても良いわ。もしくはイケメンの写真集100万円分買ったら考えてあげても良いわ。」
「は?よく分からないけど、吹奏楽部に入部届出せば良いんでしょ。あー、面倒くさい。せっかく息子の大学受験見守ろうと思ったのに。せっかくこんな若返ったのにこんな不自由な生活なんて最悪ね。」
文句を言いつつ入部届を記入した。
「続きまして吹奏楽部の部活紹介です。」
吹奏楽部の部員がたくさん体育館の舞台に上がる。
「私達、明星高等学校吹奏楽部は感動を音楽で分かち合うをモットーに活動しています。もちろん吹奏楽の経験のない初心者歓迎です。」
「今回お送りします曲はオーメンズ・オブ・ラブとヒヨコメドレーです。」
奏者が全員楽器をかまえる。そして音が体育館中に響く。
「すごい上手くない?」
「うん!私先輩のように上手くなりたい。絶対吹奏楽部入部したい。」
数人の生徒は吹奏楽部の演奏を聞いて興奮していた。吹奏楽部を目当てに明星高等学校に入学した新入生も数人いる。
「何あれ?何が楽しいの?早く終わらないかしら。」
瑞希は興味がなかった。
「きゃーー、トランペットのソロカッコよすぎる!しかもイケメン。」
「あのソロ吹いてた人、ソロコンテスト一位らしいよ。」
「何それ、すごいんだけど。」
「確か、榎本成輝先輩だったような。」
「あの先輩カッコよすぎるんだけど。」
「ばっかみたい。」
部活紹介が終わり放課後になった。
「瑞希どこに行くの?」
モニカが呼び止める。
「帰るのよ。」
「は?今日は部活体験があるのよ。」
「入部届は出すけど、部活にちゃんと参加するとは言ってないから。」
「変な屁理屈はやめて。もし部活に参加しなければあんたの命はないわよ。」
「は?部活に参加しなきゃいけないわけ?苦痛極まりないわ。」
命は欲しかったので、瑞希は渋々吹奏楽部のミニコンサートに行った。