2話 この日本は魔導書がない!
人間社会で暮らす上で、エルシーの楽しみは食べ物、本、給料日だ。
そして今日は、そのエルシーが心待ちにしていた給料日だ。
「お疲れ様です。えっとこれ・・・ 」
レジの前に数冊の写真集を置き、社員にレジを打ってくれとエルシーは頼む。
「鈴木さんはお給料の使い方が気持ちいいよね」
レジを打つ女性社員が会計をし声を掛ける。
単価が高い写真集を給料日以外にもポツポツ買っているエルシーは、やはりスタッフの買い物の仕方と違うらしい。
「はあ。欲しい物、本以外ないですから」
と事実を言う。
「うんうん。こちらとしては売り上げが上がるから何より」
女性社員はそう言うと商品が入った袋を渡してくれた。
エルシーの給料日は、必ず新しく買った本とコンビニでスイーツで祝う事だ。
たまにアルヴィンにご飯に行って奢ってもらう贅沢さには負けるけど、自分で稼いで食べるご飯もなかなか美味い。
食後は好きなだけ読書時間に当てるのは、エルフの郷にいた時と変わらない。
「魔導書がないのがちょっとな・・・ 」
悲しながらそういった本はここにはない。
魔導書がないからか、故郷を思い出すからか。
エルシーの部屋の本棚には、緑豊かな自然の景色や木の家の本だらけになっていた。
エックスを立ち上げると、そこには気になる投稿が流れていた。
souさんの投稿だ。
そこには「焦がれている」と一言のツイートと共に一枚、夕焼けの赤色がアスファルトの水溜りに反射した写真が投稿されていた。
確かにこれは「焦がれる」だ。
エルシーはいいねを押す。
souさんの存在を知ったのは、日本に降りてしばらく、スマホの存在を知ってからだ。
先にスマホを持っていたアルヴィンに使い方を教わると、ついでに彼のアカウントをフォローするように指示された。
更新されるアルヴィンの投稿はたまに見てるが、それとなく流れて来たsouさんのツイートに偶然手が止まったのだ。
花の蜜を先程まで吸っていたように見えるアゲハ蝶が、青空に向かって飛び立つ写真に一言「転機」と付けられたタイトルに、つい郷から出て来た自分を重ねていいねを付けた。
それから定期的にsouさんが写真を投稿している事を知り、エルシーはそのアカウントをフォローした。
「souさんも本出せば買うのに」
たまにネットから発信した作品が本となる事を、エルシーは最近知った。でもどうやってなるかまでは分からない。
「そう簡単にはいかないか」
ため息を吐くとエルシーは、また読んでいた写真集に手を戻した。