第九話 初陣
やっぱり足りない語彙力と文章構成力。
シント達と、国語よわよわ理系大学生である作者の成長を見守って頂けるとありがたいです。
日はまだ落ちていないというのに、鬱蒼と茂る草木のせいで薄暗い森の中を、シントはさっき知り合ったばかりの女と共に何故か歩いている。
「本当に俺、実践経験はおろか訓練もした事ないんだけど……」
「へーきへーき、この森は帝都の管轄下にあるから魔物なんて滅多に湧かない。それに何かあったら、私が守ってあげるから」
ヴァレッタは、シントのそこはかとない弁明をを飄々といなす。
リーブルの手前、命を賭けるとか、覚悟があるみたいな、格好つけた言い草をしてしまった。だが、あれはあれだ。
確かに、あの時のシントの思いや、覚悟は本物で、そこに偽りはなかった。
しかし、何事もやる前と後では物事の考え方や感じ方は変わるものである。なんの準備もなしに森に放り込まれてしまった現状、あの時の心を取り戻す事など不可能である。
本来、実際に依頼に出るのなら自分のペースで、それが叶わなくともせめて、心の準備くらいはさせてほしかった。
シントはそんな幼稚な愚痴を溢しもせず、ただ胸の内でこねくり回す。実に情けない。
「今日の依頼はゴブリンの耳を五つ納品。ゴブリン自体の戦闘能力はそこまで高くはないから安心してほしい」
「そんなこと言われてもな……」
シントは弱々しく返す。
——さっきからシントの発言はどこを取っても弱々しくて女女しいものばかりだ。
一方、それに対してヴァレッタの発言は『私が守る』や『安心してほしい』と、雄々しく、頼もしいものばかり。これは、いくらシントが強引に連れてこられたとしても流石に言い訳できない。あれだけ、弱い自分を嫌悪し、強くなると願ったではないか。
よし、シエの為にも、自分の為にも、ここは元日本男児としての意地を見せる場面だ。
シントは下がっていた目線を水平に戻す。
「いたっ」
地面に垂直になったシントの鼻先がヴァレッタの束ねられた髪をクッションにして、彼女の後頭部に激突した。いい匂いがする……気持ち悪い。
そんなシントの心の葛藤などヴァレッタが知るはずもなく、彼女はひっそりと無邪気な声を上げる。
「いたぞ、それもまとめて八匹だ!」
彼女のキラキラと輝く瞳の先を見つめると、森中の少し開けた場所でゴブリンの群れが座り込んでいた。休憩しているのだろうか?
「いたはいいけど、どうするんだ? 流石にこの数、いっぺんに相手できないだろ」
「愚問だな、シント」
ヴァレッタはそう言うと、茂みを掻き分け、堂々とゴブリンの前に姿を見せる。ゴブリン達はその姿を捉えると、腰を落として耳障りな音を口元から発し始める。
「そう警戒するな。〝一瞬で終わらせてやるから〟」
さっきまでの飄々とした調子から一変、声に抑揚が無くなる。浮かんだ笑みには、さっきまでの無邪気さはどこかへ消えてしまっている。ただ、そこには残忍で冷徹な冷たい何かが潜んでいる、そんな気がした。
——《魔力付与 雷神》——
——ゴブリン達の呻き声と、高速ならぬ、光速で、物体が動き回る事で生じるであろう衝撃音が、静閑な森の中に響き始める。
瞬きをしてしまえば閉じている間に全てが終わってしまう。そう、本気で思える景色が網膜に刻まれている。
これは速いとか、そんな単純な言葉で言い表して良い次元ではない。視認ができない。彼女が今どこに存在しているのかが分からないのは当たり前に、シルエットすらハッキリと掴む事ができない。『疾風迅雷』、『電光石火』これらの四字熟語はきっと、彼女の為に存在しているのだろう。
シントがこう思っている間にもゴブリンは一匹、また一匹とどんどん数を減らしていく。
そうして、気付けばシントの視界に捉えられていたゴブリン達は皆、紫色の液体を撒き散らしその場で体に大きな風穴を開け倒れていた。
「言っただろ、私が守ると」
惚れそうだ。だが、それと同時に視界の端に映る人型の生き物がグロテスクに倒れていると言う事実を脳が理解し始め、少し気分が悪くなる。
「すごいな……、俺なんか邪魔でしかないような気がするけど」
「いいや、私は誰かと一緒じゃなければいけないんだ」
「どうして?」
「それは……」
——ヴァレッタの体が突然、思い出したかのようによろけ始め、前のめりに倒れそうになる。それに、シントは反射的に腕をヴァレッタの腰と肩に回し支える。
「大丈夫か?」
「すまない、私の魔力付与は魔力消費が激しいのに加えて、体への負担も大きくてな……」
「そりゃそうだ。あんな動き、人間がしていいもんじゃない」
「はは、それは褒め言葉として受け取っていいんだよな。それより、今日の報酬は君と私で折半で問題ないか?」
「何もしていないんだ、俺は半分も貰えない。というか、そんな事今はいいだろ。早く帰ろう」
——〝パキッ〟
シントがヴァレッタの腕を自分の首に回し、本格的に担ごうとした時。背後から、小枝が折れる音が聞こえた。
——その音でようやく、シント達は背後から何かが近づいているのに気付くのであった。
誤字、誤法などあれば教えていただけると幸いです。




