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脆くて弱くて臆病な僕らの異世界生活  作者: ドリルスマッシャー
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第七話 隠し事

修正はしてるんですけど、技術も経験も何もかも足りなくて稚拙なままです。田舎にある、個人経営遊園地に入るくらいの気持ちで見てくれると嬉しいです。

 シエが照りのある、大きな骨つき肉に食らいついている。その姿を、シントは広場のベンチに腰掛けて眺める。

 シエの表情は笑顔とまではいかない。しかしそれは、シントが肉を買った直後、『エルフは肉を食べないのでは?』と失念していた後悔を反故にするくらいには、穏やかで幸せそうなものである。


 だが今は、その事すら、シントの海馬から欠落してしまいそうである。


 シントはじっと、シエの手元を凝視する。


 所作が綺麗すぎる。こんなジャンクフードみたいな食べずらい肉なのに。口元はおろか、手元すらも全く汚れていない。

 身元不明の奴隷の所作としてはそぐわない。


 一体どこで、身につけたのだろう? 


 脳の神経が集中してしまっているのだろうか、頭が少しピリピリする。


「主人様、こんな奴隷の為に本当にありがとうございます」


 弾みある軽やかな感謝の言葉がシエの口から放たれた。だが、シエの感謝はシントの耳を右から左に通り抜ける。頭に残るのは、それを飾り付ける丁寧な言葉遣い。


 ……今まで、奴隷は丁寧な喋りなのは当たり前だと信じて疑わなかった。

 しかしながら、コペルニクス的転回とまではいかなくとも、それを見つめ直してみれば、上品な言葉遣いが出来るという事実は、上等な教育を受けていたという証明と取れるだろう。


 奴隷になる前、シエは何だったのだろう?


 シントは、またマイペースに考え込む。そして、そのマイペースな瞳に、不安を宿したシエの瞳が映り込む。


「あ、ああ、、、俺が好きでやってる事だから、気にしないでくれ」


 シントは慌てて言葉を引っ張り出す。が、瞳に映るそれは変わらない。その事実にシントはズキリとして、誤魔化すように、とりとめのない、おざなりな調子で口を動かし始める。


「これからちょっと用事があるから、申し訳ないけど、シエは宿で待ってもらっていいか?」

「どちらへ行かれるのですか?」

「仕事だよ」


 突然の話の切りように、シエは少し困惑した表情を浮かべる。小さな口から、小さな「分かりました」が聞こえてきた。



 ————————————————————————




「随分と元気そうだな、奴隷なんか飼って」

「……」


 シントがシエを部屋に帰し、宿から出ると見知った顔の男の姿があった。男は、顎髭をジョリジョリ撫でながら、呆れとも怒りとも取れない口調で話す。


「何でまた会いに来たんですか」

「街をパトロールがてら、ぶらぶらしていて、たまたま見かけただけだ」

「そうですか、てっきり心配しに来てくれたのかと」

「おいおい、俺がそんな聖人に見えるか?」


 確かに、無精髭を生やしてガッチリとした骨格をしているこの男は一見すると聖人と言うより、野蛮人に見える。

 だが外見的印象がそれでも、シントの命の恩人である、彼の内面的印象はそうはいかない。シントにとって彼は十分、聖人にみえるのだ。

 ただ、それを改めて本人の前で言葉にして伝えるのは気恥ずかしい。シントは「いいえ」と冷たく返す。


「その答えを期待しといてアレだが、実際に言われると案外傷つくな……」

「じゃあ、『優しいけど外見が野蛮で、そうは見えない』とでも言い換えますか?」

「それはもっと傷つくな……」

 リーブルは大袈裟に顔を覆う。

「冗談ですよ。……それで、もう一度聞きますけど何で会いに来たんですか?」

「だから、偶々だって言ってるだろ。……まぁいい、実際、大人である俺がお前に助言してやろうと思ってたのは事実だ」

「助言?」


 話の流れで合いの手を打ったが、シントはこれから何を言われるのかは何となく察している。


「なぁシント、お前奴隷なんか飼ってどうするつもりだ?」


 やっぱりだ。

 シントは少し目を落とす。


「言っとくが、奴隷を働きに出すなんてのは無理だからな。奴隷の主人以外の契約は全て無効、禁止されている」

「もちろん、そんな気ないですよ」

「……なら、答えは一つか」


 シントの体が無意識に強張る。


「別に俺は奴隷を飼うことに関しては何も思わない。弱肉強食、太古からある自然の摂理だ」


 全身の筋肉がほどけていくのを感じる。

 意外だ。

 シントにとってリーブルは、国に仕え、見知らぬ異世界人にも優しくしてくれる正義感溢れる人情に深い人であった。


 しかし彼は今、奴隷の存在を自然の摂理を持ち出して一蹴してしまうような冷徹な態度を出して見せた。

 シントは不意に、中学時代に両親の部屋にあった水だと思って飲んだ液体が日本酒だった時の事を思い出す。


「お前、奴隷を養う金なんて無いだろ。これからどうするつもりだ?」

「確かに、今はありません」

「含蓄のある言葉だな。続きを聞こうじゃないか」

「働きます」

「二人を養える仕事なんてそうないぞ」


 間髪入れずに合いの手を入れてくるが、シントはそれに少しも動じない。


「——冒険者として」


 リーブルの眼がカッと血走る。口から轟音が響き出す。


「バカを言うな、冒険者をやって何人死んだと思ってるんだ!」


 何でここまで感情的になるのだろう。その事がシントは胸の奥でモヤモヤとして気持ちが悪かった。


「じゃあ、俺はどうすれば二人分の生活費を稼げるんですか? 俺達が生きる道があるなら教えてくださいよ」


「——奴隷を売れ」


「……できません」


「くだらないプライドは捨てろ」


 『プライド』その言葉に、胸が騒がしくなる。

 落ち着け、冷静になれ。

 そう心の中で思い続けても、シントの口はそれに反して早口で、捻った蛇口のように自分の感情を吐露し始める。


「……プライド。そうです、俺はあの奴隷を、、、彼女を己の欲求の為に利用しようとした、プライドに依存した、臆病で、救いようのない屑です。こんなヤツ、のうのうと、太々しく、生き永らえて良いはずがない」


 冷たくて鋭い眼差しがシントを刺す。


「だけど……、俺はそうでも、彼女は違う。彼女は、俺が逃避した世界に一人で耐えて、生きている。——そんな彼女をもう一度、檻の中に閉じ込めるなんて事、、、できない。……だから、、、俺は、『彼女をどこか遠い人間が居ない場所に解放してあげたい』そんなエゴの塊でしかない、贖罪を心臓に刺して生きるしかないんです。だから! それだけは……できません」


 肩が大きく揺れている。耳を澄ませなくても不規則で不恰好な呼吸音としゃくりが聞こえてくる。なんだ、目も真っ赤ではないか。


 目の前に広がる滑稽な風景を、リーブルは嘲弄しない。さっきまでの刺すような視線も消えている。

 ただ、彼はそこには無い、遠い何かを見ているような。そんな哀愁に満ちた表情を浮かべるだけだ。


「……奴隷契約解除の鍵キー・オブ・アフランチャイズ

「……はい?」

「『奴隷契約解除の鍵キー・オブ・アフランチャイズ』、奴隷契約を破棄することができる、幻のアイテムだ。ダンジョンの宝箱に、稀に入っているらしい」


 さっきまでの轟音はどこへ行ったのだろう。リーブルは穏やかな波のような口調で、シントに……いや、見えない何かに話し掛ける。

 その状況が何だかむず痒くて、居心地が悪くて、シントはボソッと早口で謝辞を述べ、身を翻す。


「俺は何をしてるんだろうな。……レイナ、お前はこんな俺を許してくれるか?」


 背後から聞こえる声。それにシントは耳を貸さない。

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