第十三話 馬車の中
話があまり進まずじれったいと思われますが、最後は三話冒頭を意識して書いたので、良ければそこだけでも読んでいって下さい。
判然としない意識の中、シントの体が大きく揺さぶられる。一体何が起きているのだろう。状況は掴めない。しかし、視界にぼんやりと肌色の何かが浮かんでいる。
一体……
「シント! 起きろ!」
強めに放たれたその言葉で、肌色の何かがはっきりとした顔の輪郭になる。シントは自分にかけられた毛布を乱暴に剥ぎ、飛び起きる。全身を激しい痛みが駆け巡った。
「いっ……」
「無理するな、あれだけ激しい戦闘の後、まもないのだから」
戦闘……、そうだ、僕は確かオークキングと戦ってそれで……。閉ざされていた記憶が徐々に呼び起こされていく。その戦慄たる記憶にシントは思わずその場でえずく。
「大丈夫、ここはもう安全だ。オークキングもいない」
ヴァレッタはシントを優しく抱きしめる。
「ここは……」
未だ混乱状態のシントは尋ねる。
「ここはボルド……って言っても分からないか。今、私達はギルドのならず者達の馬車に乗って街まで帰っている途中だ。とは言っても、もう門の手前まで来ているがな」
「そうか。……良かった、、、生きて帰れて」
シントの目から大粒の涙がボロボロ零れ落ちる。男だと言うのに今日は、異性の前で恥ずかしい姿を見せてばかりだ。そんなシントの姿を見て、ヴァレッタはシントから体を離して、さっきまでの明るい表情から一転、改まった神妙な面持ちになる。
「シント、今回は私の我儘で愚かな行動に君を巻き込んでしまって本当にすまなかった。今回の報酬は全て君持ちとさせてくれ。それと、私にできる事があったら何でもやる」
額を木でできた床に血が出てしまいそうなほど、ヴァレッタは強く擦り付ける。
シントは慌ててそれを止めるよう、体を起こさせる。
「や、やめてよ、こうして二人生きて残ったんだから」
「だが!」
「いいよ、俺はヴァレッタに誘われなくても結局、一人ででも依頼に出てただろうし。それに、嬉しかったよ」
ヴァレッタは眉を寄せる。
「こんな俺の事を誘ってくれて。俺って今まで生きてきて、誰かに必要とされた経験、殆ど無かったから」
「……また、私と一緒に依頼に行ってくれるか?」
「もちろん」
ヴァレッタは膝に置いた手の甲に涙を落とす。
その姿にシントは無粋にも、泣いているのは自分だけじゃなかったと少し安堵する。
「……お二人さん、いい感じのところ申し訳ないんだがもう着くから降りる準備をしてくれ」
ならず者のリーダー的ポジションの男が気まずそうに声を上げる。
「そうだ、シント。この男の名前知らなかったよな」
「そういえば」
「この男の名はボルド。今回私たちを助けてくれた命の恩人だ」
「なーに、得意げに話してんだ。お前もついさっき知ったばっかじゃねえか」
ボルドは頭をガシガシ掻きながらぶっきらぼうに突っ込む。
「本当にありがとうございました。おかげで命拾いしました」
「命拾いねぇ……」
想像していなかったボルドの返答に、シントは思わず首を傾げる。
「こんな質問するのもどうかと思うが、シント。お前、自分の力分かってるか?」
力? そんなものリーブルに皇帝の面前で堂々と無いと言われている。そんなものあるはずが無い。
「……やっぱり分かってないか。お前、今、この状況に違和感はないか?」
違和感? ……そう言えば、折れているはずの骨や体にあったはずの痛々しい傷が明らかに少ない。それと、記憶が断片的である。特に、最後の方は殆ど記憶が無い。一体、記憶を失っている間になにが起きたのだろう。
困惑したシントの顔を見て、ボルドは長いため息を吐く。
「お前は回復魔法しか使えないんだよ。それも、他者に使うと体を内側から破壊してしまうほど強力な」
「何を言ってるんです? 俺は転生早々、無能認定され——」
「——あんな戦いの後なのに、傷がすでに治りかけているのは何故だ?」
「それは……」
「無意識下で回復魔法が勝手に治癒しちまってんだよ」
「……」
「それと、ゴブリンキングの件。お前は覚えてないかも知れないがヴァレッタ曰く、お前の体からでた緑色の光でゴブリンキングが塵になっちまったそうだ」
あり得ない。言下に言おうと思ったが、自分の頭の中に残っている、絶望的状況な記憶を思うと、その話も否定できない。そうでも無ければ、今、僕達が生き残っている事に説明がつかないからである。
シントは、言葉を飲み込み、顔を沈める。
「……ボルド、何で君はそこまで回復魔法に執着する。さっきも回復魔法と分かった途端、急に笑い出すし」
シントの事を気遣ってか、それとも単に不思議がっての発言なのかは分からないが、ヴァレッタの何気ないようで、芯を食った発言にボルドは顔を曇らせる。
言葉を探しているのだろうか、口がモゴモゴしている。
「……それはだな、俺が————」
——ガコン
「ボルドさん、着きましたよ!!!」
ボルドの苦悩の先に紡がれた言葉は、馬車が止まった衝撃音と御者の能天気な到着を知らせる声にかき消されてしまった。中途半端に和んでしまった空気感。再び戻す気にもならず、シントはもう一度ボルドにお礼を述べ、馬車を降りる。
「——シント、お前は強くならなくていいんだ。お前の弱さは、俺達が肯定する」
どこか身に覚えある状況で放たれたその言葉は、シントの胸の内にある不快感を大きく煽った。
ここまで読んでくださりありがとうございます。少しづつですが、執筆にも慣れてきて自分的には力が付いてきたのではと思っております。
図々しいですが、ブックマークやら、評価やら、感想やら、どんなものでも良いので、『読んでるよー』と残して貰えると大変励みになります。




