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脆くて弱くて臆病な僕らの異世界生活  作者: ドリルスマッシャー
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第十二話 幕切れの後

 ゴブリンキングはシントの目の前で突如、灰となり散っていった。その様子をヴァレッタは地べたを這いつくばりながらも、確かに目撃した。


「シント! やったのか!」


 ヴァレッタは興奮と驚きが、ない混ぜになった感情ままにシントの名を呼ぶ。けれどシントはその呼びかけには応じない。怪訝に思ったヴァレッタは、未だ立てない体を匍匐前進(ほふくぜんしん)してシントに近づく。口内に土が侵入してくる。ジャリジャリとした不快感が口いっぱいに広がった。


「おい! シント!!!」


 ヴァレッタは、今にも泣きそうな顔を浮かべながら問いかける。依然、返事はない。


「本当にすまない、私がゴブリンだからと油断して、こんな事態に巻き込んでしまった。もう二度と私の独断で君を巻き込まない。次からはちゃんと君、、、シントの事も考えるから、だから! 死なないでくれ……」


 今日、何回目の涙だろう。ヴァレッタはまた、目から大粒の涙をボトボトと落とす。そして、それはシントの顔をぐちゃぐちゃに濡らす。


 ——ズッ、ズズッ! 


 鼻をすする音がシントから聞こえたような気がした。ヴァレッタは涙を土まみれの腕で拭い、シントの顔を凝視する。すると、自分の流した涙がシントの鼻を塞いでいるではないか。どうやら、上手く息ができないらしくシントは鼻をピクピクとさせる。


「クックッ……、アハハハハ!!!」


 ヴィレッタは途端に、心が軽くなって不本意ながら大笑いしてしまった。


「君はもう二度と私と組んでくれないかもしれない。だけど、もし君が許してくれるなら、私は、」



〝また君と冒険がしたい〟 



 日は半分以上水平線に飲み込まれながらも、最後の輝きを放っている。



 その情景にヴァレッタはふと、センチメンタルな感情から切り離され、二つの意味で息を呑んだ。


 一つ目はその美しさに見惚れて息を呑むの意。


 二つ目は数刻も待たずして日が沈んでしまうという焦りに息を呑むの意である。


 いくらこの森には魔物が少ないとは言え、ゴブリンキングのような魔物が確認された今、その情報の信憑性は地に落ちている。加えて、日が落ちてしまうと迂闊に動けなくなる。対して魔物は夜は活発になるので危険性がグンと増す。折角、死戦を潜り抜けたと言うのに、このままでは、、、


 やるせない現状に対する焦燥感がヴァレッタの中に渦巻く。



 〝おーい、お前ら! 生きてるか!〟



 どこか聞き馴染みのある声が遠くから聞こえる。ヴァレッタは寝返りすら打てない中、首を動かしその声の元を探す。すると、右手の方からギルドのならず者達が駆け足でこちらに向かってきていた。


「おい、生きてんのか!」


「あぁ、何とか。……助けに来てくれたのか」


「勘違いするなよ、俺達は、お前に巻き込まれたあの新人が心配で来ただけだ」


「理由なんてどうでもいい、ありがとう」


「ガラでもない事言ってんじゃねえ、それより新人は大丈夫なのか、見るに耐えない有様だが」


「あぁ、多分な。今は疲れ果てて寝ているみたいだ」


「そうか、そうと分かれば、お前ら帰るぞ!」


「「「 おう!! 」」」


「……あぁそうだ、名前、何と言うんだ。君は命の恩人だ。せめて名前を知りたい」


「お前なぁ、色々と聞くタイミング間違えてるぞ。……まぁ、いい。……ボルド。ただの、ボルドだ」


 ボルド。その名前にヴァレッタは何処か、耳馴染みがあるような気がしたが、体を持ち上げられる感覚の中にそれは消えていった。



 ——————————————



 外は既に日が落ち切ってしまった暗闇の中を、ボルド達の馬車が松明の火を灯しながら進んでいる。ボルドは松明の明かりで僅かに照らされた外を頬杖を突き、ぼんやりと眺めながら改まった口調でヴァレッタを問いただす。


「で、何でお前らはあの森でこんな惨憺たる有様になったんだ」

 

「ゴブリンキングが出たんだよ」


「ゴブリンキング? そんな上級モンスターがあの森で? ありえない、あの森は帝都から近く管理も行き渡っている。そんな上級モンスター、湧く前に淘汰されるはずだ」


「でも居たんだ、本当だ、嘘じゃない。私達の今の有様がその何よりの証拠だ」


 ボルドは未だ、疑いの眼をヴァレッタに向ける。

 無理はない、ここ数十年、あの森で上級モンスターの目撃はない。加えて、毎年行われる森中の生態調査では、モンスターの数が二次関数的に減っていると報告されているらしい。つまり、あの森はもはやモンスターが生息できる場所ではないのだ。


「では、ゴブリンキングはどうなった」


「倒した」


「どうやって、死体なんてなかったぞ」


「私がゴブリンキングに風穴を開けて、その穴の内側をシントが殴りつけて……」


「おいおい、自分達を正当化する嘘はやめろよ。それだと、死体が無い説明にならないだろ」


 ボルドは呆れたと言わんばかりに首を振り、あからさまに嘲弄する。


「待ってくれ、まだ続きがあるんだ」


「続きだぁ?」


「シントはその後、ゴブリンキングに右腕を潰されたんだ。そしたら、シントの右腕を回復魔法? の光が包んだと思ったら右腕がみるみる元通りになっていって……」


「回復魔法……」


 ボルドは顔をしかめる。


「……信じられないんだけど、その光がゴブリンキングの体内に入り込んだら突然、塵になって消えていったんだ」


「……まさか、そんな筈は」


 ボルドはハッとして、馬車の後方で寝ているシントを見る。さっきまで全身にあった痛々しい傷の数があからさまに少なくなっている。


「嘘じゃ無いんだ、信じてくれ」


「違う、そうじゃない。まさか、そんな事……、、、ククッ、ダハハハ!!!」


 いきなり笑い始めるボルド。その姿にヴァレッタは思わず体を寄せる。


「そうか! やはり、女神様は俺を許してくれないか!!」


 暗闇包む草原を駆け抜ける馬車。その車内で反響した笑い声は、窓の隙間から飛び出して、闇夜の中でいつまでも、いつまでも、響き続けた。


最後まで読んで頂きありがとうございます。少し設定で迷っているので、もしかしたら過去の話を一部いじるかも知れません。ご了承ください。

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