第十一話 信条
タイトル思いつきませんでした!
骨が折れ、骨が飛び出し、骨が粉砕する。
木々の梢から差し込む斜陽が、宙に浮かぶ異形のシルエットをくっきりとさせる。
僕は何度生まれ変わっても強くはなれない。誰かを守る事はおろか、自分すら守れない。
無力感が身体の痛みをより鮮明にしていく。
シントの脳裏に、あの屋上の出来事が蘇る。あの時もこんな感じに時間がゆっくりと流れた。それは、浮遊感がそう感じさせたのだろうか。それとも、死を悟っているからなのだろうか。それとも何か他の要因があるのだろうか。その答えはいくら考えても分かりはしない。……ああ、何で僕はこんなくだらない事をいつも考えてしまうのだろう。
ようやく、体が宙で一回転しそうになる。
目に映る景色には、口角を悪戯ににっと上げたゴブリンキングがいる。
それはあの屋上にいた金髪と重なる。そういえば、いつも金髪って言ってたけど名前、なんて言うんだっけ、アイツ。
……そうだ、古金 神人だ。
同じ『シント』だと言うのに、信じる都? と、まるで意味の分からないシントに対し、あの男は神の人でシント。何もかもが、皮肉すぎて笑ってしまいたいが、その余力は生憎、残されていない。
何故、今になってあの男の名前を思い浮かべたのだろう。ただ、どうでも良い事を考えるのは今に始まった癖ではない。あぁ、今日の空は赤いな。
シントの体は地面に無情にも叩きつけられた。それも複数回に渡り。
その間、何度も身体中の骨が折れる音を聞く。
世界は形状は曖昧で、呼吸もできない。その代わりに、シントは口から大量の血を吐いた。
——何だ、まだ生きているのか俺は。
視界に黒い靄が掛かっていてあまり周りが見えない。ただ、荒い鼻呼吸をしながら二足歩行で何かが近づいてくる音がする。耳を澄ますと、時折、重量のある物体が土の上で引きづられる音と、鋭い金属音が聞こえてくる。
どうやらあのゴブリンキングは、死んだも同然である異形の息の根を自分の手で止めたいようだ。
……憎悪の対象に直接殺されるなんて、あの時よりも最悪だ。
だが、ゴブリンキングも、群れのゴブリン達を僕達に蹂躙されてひどく怒り、悲しんでいるのかもしれない(そんな感情を持てるのかは分からないが)。もし、そうなら僕はゴブリンキングからしたら悪で、憎悪すべき対象になるのだろう。
そう思うと、自分の中の憎悪と罪悪感が中和していき空っぽになった心の中に、漠然と広がる楽になりたいという感情が鎮座する。死んでしまえば今みたいに、善悪や強さに悩んだりしない。だとしたら、たとえ尊厳を踏みにじられるような死に方でも悪くないのかもしれない。
足音がピタッと消える。斧を振り上げたであろう緩やかな風圧が顔を撫でる。
これで終わりか。
もう僕は強くなりたいとは思わないし、来世に何も望まない。ただ、
〝僕は何の為に生まれたのだろう〟
——雷撃が大地を駆け抜ける。
「グッ……グギャアアアアアア!!!」
醜い断末魔。左胸に大穴を開け、のたうち回るオークキング。空いた大穴から飛び散る液体は、シントの顔をべっとりと汚す。
「すまない、遅くなった」
何かが聞こえる。だけど、シントには届かない。
「おい、シント!! 死ぬな!!!」
光宿した眼でヴァレッタは、濁った眼を覗き込む。
五月蝿い。これ以上、生きても苦しいだけだ。だからもう、終わりで良いじゃないか。
——目から溢れる、光の粒がシントに流れ落ちていく。
「もう……失いたくないんだ」
失う。失えない存在。……シエだ。そうだ、シエを、、、僕は、シエを解放する為に生きているんだった。
悟って、達観した気になって敵に同情して、女でもないのに悲劇のヒロインぶって、挙句、楽になる? 何、ぬるい事を抜かしているんだ、僕は。
僕は幸せにならない。だけど、、
「死なないよ、僕は」
「バカ、何カッコつけてんだよ」
ヴァレッタは地面に倒れ込み、シントの手を握った。
この状況がいかに危険で愚かな行為なのかは分かっている。
だけど、今だけはもう少し、もう少しだけで良いから、このままで居たかった。
シントの視界の下で、何かがモゾモゾと動いている。シントは黒い瞳を下に動かす。すると、瞳に死んだと思われたゴブリンキングが斧を握り立ち直ろうとしていた。化け物か。いや、化け物なのだけれど。不味い。
ゆっくりと、体を起こし上げる、ゴブリンキング。ヴァレッタも気づいようで、握っている手が震えている。
もう、二人ともまともに歩く事すらできない。やっと、見えた希望の陰り。流石に心が折れそうだ。
もう歩けない。
……そんな事、何故分かる、誰が決めた。まだ終わっていない。
シントは地面の石を握り締め、足の関節を曲げる。少し動かしただけでも全身に鮮烈な痛みが走る。それでもシントは、おぼつかないながらも何とか立ち上がる。
背後からの啜り泣きと、繰り返される謝罪の言葉。
「……俺の存在を肯定してくれてありがとう。だから俺も、ヴァレッタの全てを肯定する」
——シントは最後の力を振り絞って地面を踏みつける。
ひび割れた足の骨。やはり、力がうまく伝わらず、体が前に投げ出されそうになるが歯を食いしばり、必死に踏ん張る。
……今、この体で殴ったり、蹴ったりしても絶対にオークキングにダメージは与えられない。だが、さっきヴァレッタが空けた風穴の内側からならば可能性はゼロではない。
しかし、ゴブリンキングもいくら弱っているとはいえ、全く動けないと言うわけではない。体からドロドロとした紫色の液体を撒き散らしながらコチラも最後の力を振り絞り斧を握っている。
お互い今際の際。もしかするとこの勝負関係なく、次の瞬間にはお互い死んでいるのかもしれない。だが、シントからすれば、ここで勝たなければヴァレッタも共に死んでしまうだろうし、オークキングからすれば、仲間を殺された人間に殺されるのと、自分の手で葬ってから死ぬのとでは同じ死と言う結果でも彼、いや、彼らの矜持に関わるのだろう。
お互い、種族や想いは違えど互いに譲れない最後の勝負。
先に動いたのはオークキングだった。
オークキングは手に持った斧を振り下ろす。
斧の軌道は、たとえ力が加えられていなくても一度落ちてしまえば自由落下運動を始め、少しもブレない。
しかし攻撃がブレずとも、攻撃範囲が縦に限定されていてはあまり意味がない。シントはそれをよろけて何とか躱す。
オークキングに隙が生まれる。
この好機を逃すまい。シントは倒れ込むようにして、オークキングの腰にしがみつく。
手に紫色の液体が伝って気持ち悪いが、今はそれどころでは無い。シントはその液体の源である大穴に手を突っ込み、さっき握った石で一心不乱に内臓を殴りつけると、溢れ出す液体の流量がより増して行く。ゴブリンキングはもはや叫ぶことすらできない。
このまま殴り続ければ。
——そのシントの思いは、内臓を殴り付ける右手と共にオークキングの手のひらで包まれる。そして、
「ぐっあああああああああ!!!!」
右腕がミシミシと音を立てながら握り潰されていく。もはや、アドレナリンなどで誤魔化せる痛みではない。このままでは痛みで気を失うどころか、ヘタすればショック死してしまう。徐々に薄れ始める右手の感覚と意識。やっぱりダメなのか。
「シントーーーッ!!!」
自分の名を呼ぶ声がする。
そうだ、今の自分はあの屋上の時とは違う。今の自分には自分を思い、悲しんでくれる人がいる。
だから、
動け! 少しだけで良い、あと少しなんだ! あと少しでコイツを!!!
——シントの体内で、何かが駆け回る。
不思議と不快はない。むしろ、体の内側がポカポカして気持ちがいい。これは、一体? シントは突然起きた体の変化に戸惑う。
だか、戸惑った所で体内で駆け巡る何かの流れは止まらない。それどころか、より流量を増して駆け回る。そしてそれは暫くすると、まるで出口を見つけたように、ある一点に向かいだす。
壊死してしまった右手だ。
するとどうだろう、右手を新緑を連想させる優しい萌黄色の光が包んでいく。すると、シントの右腕が徐々に元の血色の良い肌色の腕に戻って行くではないか。
(これは……)
シントが何が何だか分からず茫然とその様を眺めている。すると次第に、その光は右腕から離れていき今度はオークキングの傷を包み始める。
ダメだ! それだとオークキングまで回復させてしまうかもしれない。
シントは必死にそれを抑え込もうとする。が、体から溢れだす光は止まることを知らない。
「とまれーーーーーーッ!!!!」
シントが叫んだ次の瞬間、オークキングは体の内側から朽ち果て力尽きた。
いつもより長く、洗練されていない荒削りで読みづらいと文と思われますが、ここまで読んで頂きありがとうございます。これから頑張って知識や技術を身に付けていくつもりなので、応援して頂けると嬉しいです。




