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冬も終わりが近付いて、陰鬱さを感じる程の空を覆う分厚い雲も、あまり見なくなってきた。
「ねぇ、今日も寄っていくでしょう?」
さも当たり前のように言うその言葉。こちらの事情も加味することなく、一方的で、声の主を知らなければ攻撃的とも取れる、冷たくて、でも、直接脳に響くような麻薬のような声で言われてしまえば、
「うん。迷惑じゃなければ寄らせてもらうよ」
と、二つ返事をしてしまう。
前髪が目にかからない程度の長さ。肩にかかるくらいで切り揃えられた漆黒の髪。
1本1本が、高級な絹の様に艶やかで、艶かしい。
彼女は細く、長い、手タレのような美しい手で、タレ目だからか、少し不機嫌そうに見えるその無表情の顔を触れる。
「ねぇ、今日も知らない男の人に声をかけられたわ」
「……それって告白じゃないのか?」
「さぁ、分からないわ。顔が良いって。私はそんなに評価される顔なのかしらね」
「それはもう。反論のしょうがないね」
「貴方も顔だけと思う?」
「なんです?今更」
「答えて」
「半々」
「……そう。いつか……」
「え?」
「何でもないわ」