後編ーーやがて開けていく。
二回戦までを終了した私たちは、休憩時間に最終戦となる三回戦の打ち合わせをしていた。ここまでは完璧な結果とはいかないまでも、そこそこの結果を出していたが、戦況は芳しくない。
「うーん……去年のリベンジを果たそうとは言ったが……」
「何も状況まで一緒にしなくても!」
第一回戦は私が十一キル、玲斗が六キルで計十七キルで五位。総合ポイントはキルが三十四ポイント、順位が二十五ポイントで合計五十九ポイント。
第二回戦は私が三キル、玲斗が十二キルで計十五キルの三位。総合ポイントはキルが三十ポイント、順位が三十五ポイントで合計六十五ポイント。
二回戦合わせて百二十四ポイント。全体で四位という位置につけていた。昨年同様の四位。三位とのポイント差はわずかに四。こんなところまで昨年と全く同じだった。
「四位って言うとあれだが、実際は一位とも十三ポイントしか差がない。最後の結果次第では十分優勝も狙えるぞ」
「うん、ここまで来たら狙っちゃおう、優勝」
目標を高く持つのは悪いことではないだろう。優勝を狙って自爆するのは論外だが、そうでないなら狙ってみるのも悪くないだろう。昨年のリベンジを優勝で果たせたのなら、シナリオとしては最高だ。
『まもなく第三回戦を始めます。出場者は所定の位置についてください。繰り返します。間もなく第三回戦を……』
会場内に鳴り響くアナウンス。これまで談笑していた出場者たちの顔が一瞬で真剣なものに変わる。会場内の雰囲気が一変したのが肌で感じられた。泣いても笑ってもラストチャンス。この一回に全てがかかっている。
「行こう」
「うん」
もはやこの局面に至って、多くの言葉はいらない。私たちは短いやり取りをしただけでヘッドセットを装着した。画面は見慣れた待機画面から、飛行船の場面へと切り替わっていく。多くのペアが中心街近くに降りていく中で、私たちはまだ降りない。終点近くに差し掛かったところで、玲斗が声を上げた。
「打ち合わせ通りに行くぞ」
「了解。同時降下してるのは二ペア四人。私たちは青い屋根の家から漁っていこう」
「じゃあ、俺は隣のビルから行く」
今回は中心街から離れたところを降下地点に選択すると決めていた。この局面で最もやってはいけないのは序盤で死んでしまい、キルポイントも順位ポイントも手に入らないこと。ゆえに多少のリスクを背負ってでも中心街の激戦区を避けた方がいいという判断である。
私たちは降り立って、武器を拾ってすぐに奇襲を狙っていたプレイヤーをキル。その後BOT二人と戦っているプレイヤーを発見し、ほぼ同時に二人で攻撃を開始した。ちょうどBOTに向けてスナイパーライフルを放ったばかりだったプレイヤーはなすすべなく倒れ、アサルトライフルを持っていたBOTも弾切れの末、玲斗のサブマシンガンの餌食となった。私はすぐさまショットガンを持っているBOTに対しても攻撃。こちらもあっさりと処理をして四キル。この町を制圧した。
「よし、この調子だ」
「慎重かつ大胆に行こう。悲願はもうすぐそこだよ」
その後、私たちは道中で敵をキルしながら武器を更新しつつ、三度のフィールド縮小を乗り越えた。この時点で残りのプレイヤーは一位のチーム、三位のチーム、私たちの三ペア六人と、六位のチーム一人の合計七人。去年の同じ場面よりも一人多く生き残っている、ありがたくない展開だ。
「次の安置はどこだと思う?」
「北方向じゃないか? これまでの動きを考えると北方向、距離八十から百二十の間だと思う」
現状、私たちは茂みの中に隠れて周囲の様子を伺っていた。南方向では激しい銃撃の音が断続的に響いてきていて、あと一分もすればある程度決着がつくのではないだろうか。
「……北方向に行ってみよう」
「えっ、出るの?」
「三位のペアがいる以上、キルできるチャンスがあるならしておきたい。近くに敵もいないみたいだしね」
私はしばらく思案する。確かに三位のチームが生き残っている以上、何かしら行動を起こさないとキルポイントを稼がれて終わる。幸いにも周囲に敵の姿は……んっ!?
「待って!」
「……あっ」
私の制止の声も虚しく、玲斗は茂みからその姿を曝け出してしまい、そこを狙われた。粒子となって消えていく玲斗の体。辺りに散らばる玲斗が持っていた武器たち。まさに去年と同じ光景がそこには広がっていた。
ーー残り人数、六人。
「ご、ごめん……ミスった。迂闊だった……」
「…………」
今にも泣きそうな声の玲斗とは対照的に、私の頭は異常なほど冷静だった。去年ともしも同じ状況になっても勝利できるように、たくさん練習してきた。大丈夫、私は出来る。
「とりあえず出る」
私はそう呟くと、事前に拾っていたアイテムを取り出す。去年も、そしてソロの練習で偶然玲斗と当たったときも、姿を見せたところを撃ち抜かれた。だから念のために用意しておいたんだけど、やっぱり必要になったか。私はそのアイテムを足元に投げた。数秒後、辺りには白い煙が充満し始めた。
「発煙筒!? そんなものをどこで!?」
「一番最初の街で戦ったスナイパーが持っていたんだよ。こういう場面で使えると思って取っておいた」
煙に紛れて北方向に進む。このアイテムの弱点は自分の場所が知られることだが、この局面では弱点にはならない。なぜなら既にバレているから。玲斗がいるならペアの私も同じ場所にいると考えるのが自然だろう。
「玲斗、驚いている場合じゃないよ。索敵をお願い。私だけじゃ限界があるからね」
「ーーっ! 了解。東方向、距離四十に一人敵がいる」
「分かった」
去年は私が暴走しちゃったから、こういう連携が上手くいかなかった。でも今年は違う。私たちはこういう場面を何度も練習し、何度も乗り越えてきた。
ーー去年の悔しさを晴らすときは、今だ。
木陰に隠れていた敵をショットガンで撃ち抜く。まずは一キル。スナイパーライフルを持っていたから、こいつが玲斗をキルした奴で間違いないだろう。そうこうしている間にも試合は進んで、残りの人数は三人となっている。さっき南側でやっていた戦いに決着がついたらしい。
「勝ったのは三位のペアだ。ここでお前が撃ち抜かれたらキル数の差で恐らく敗退だから、気をつけて」
「了解、もうすぐ到着する」
今回の試合で、私たちは合計八キルしかしていない。中心部で戦っていた二位のペアは最終決戦にいなかったとはいえ、五位みたいだし、かなりのキル数を稼いでいるだろう。一位のペアはきっちりと三位を取っているし、このまま三位のペアに殺されたら、全国大会出場は絶望的だ。
「到着した。どうする?」
「そうだな。相手の武器構成はキルログ的にショットガンとス……後ろ!」
「そこかっ!」
私が移動する間に敵も移動を済ませていたらしい。咄嗟に移動したものの、背後から放たれたショットガンがかすり、小さくないダメージを受けるが、それでも激しい撃ち合いの末に何とかキルする。残りは二人。私は残り人数を確認すると、その場でしゃがんだ。
「北西方向、距離四十!」
私が先ほどまでいたところに銃弾が突き刺さる。やっぱり狙っていたか。背後からの奇襲で中断されたが、さっきの武器構成のところで玲斗が『ス』と言ったのを聞き逃さなかった。玲斗が割り出した方向と距離に向かって走る。その姿が見えた途端、私は無我夢中でアサルトライフルを叩き込んだ。
「えっ……」
ーー次の瞬間、画面が暗転した。