プロローグ
ーー残りは六人。ここを生き残れば私たちの勝ちだ。
建物の中に隠れた私たちは、同時に大きく息を吐いた。外では既に撃ち合いが始まっているのだろう。絶え間なく銃声が聞こえてくる。この音はアサルトライフルと、チャージショットガン。サブマシンガンの音も少し混ざっている。ここまで残っている猛者たちは大抵が持っている武器だ。
「玲斗、方向は分かる?」
「ああ、南東方向で距離八十。近すぎず遠すぎずといった距離だが、次の縮小が心配だな」
玲斗の声は厳しい。そうこうしている間にフィールドの縮小が終わった。次の安置が画面右上のミニマップに表示される。南東方向、距離百三十。私たちの位置から向かおうとすると、どうしても撃ち合いの現場を抜けなければならない。ゲームの女神はまだ私たちに微笑んではいないようだった。
「やばっ!」
「こいつは厳しいな。麻衣花、辺りに敵の姿はあるか?」
玲斗の疑問に答えるべく、スナイパーライフルのスコープを除く。残り人数六人。つまり先ほどから断続的に続いている撃ち合いは、未だ決着がついていないことを示していた。ゆえにこちらを気にする余裕はないだろうと推測した。いや、してしまったと表現した方が正しいかもしれない。
「うーん……姿は見えない」
「分かった。それなら移動しよう。いつまでもここにいるのは得策じゃない」
その推測はわずかな油断を生んだ。そして、その油断は致命的なミスを生み出してしまった。私の索敵を信じた玲斗が建物から出た途端、その体は粒子となって消滅した。辺りに散らばるカラフルな武器。残り人数――五人。私のペアは何者かに撃ち抜かれ、その命を散らした。
「えっ……?」
「体力は満タン、シールドも満タンだったはずだ……。こいつはスナイパーライフルで、ヘッドショットもらっちまったか?」
敗因を冷静に分析する玲斗とは対照的に、私の頭の中は真っ白だった。私たちのペアはどうしても二位以上にならないといけないのに!
「ど、どうすればいい!?」
「ひとまず落ち着け。そろそろフィールドの縮小が始まるから、裏口から東方向に向かおう。ある程度で南に……」
「分かった!」
そこまで聞けば情報的には十分だ。要するに撃ち合いが続く戦場を避け、遠回りして安全圏に向かう作戦である。私は再びスコープで周囲を確認し、敵の姿がないことを確認してから裏口の扉を開けた。
「ーーっ!?」
視界の隅に映る人影。私は咄嗟に持っていたアサルトライフルを構える。しかし私が撃ち出すよりも早く、相手のショットガンが轟音とともに放たれ、視界が暗転する。画面には「3rd」の文字が浮かび上がった。こうして私たちの夏は終わった。誰よりも早く、誰よりも残酷に終わった。