発見!虹色!
何にもなかった自分の生活。
何の彩もなかった自分の生活。
そんな自分に虹色を与えてくれた存在に、恋をした。
昼。雲一つない晴天。今日はのびのび思いっきりしたいよね!!なぁんて思うのも一瞬だ。
朝からコンビニでのバイト。もう疲れにつかれている。
「こりゃ家に着いたらねるなぁ…。課題もやんないとだし、せっかくの日曜日なのになぁ。」
周りが和気あいあいとしている中で一人とぼとぼ歩いているこの男、山崎光樹、大学二年生。
バイト疲れも相まってため込んだ課題をやっている中で居眠りをする予想を立てている。大正解。この男は家に帰ったらその通りのことをすることになる。
特にやることもないのに周りを見渡しては溜息を吐いている。
「ぐぅ~(腹)」
腹が鳴った。腹が減っている。バイト中何も食べていないため腹が減っている。
「せっかくの日曜だし?家に帰ったら起こることも分かっているんだし?お腹減っているし?いつもとは何か違う感じの飯でも食べに行くかぁ!!」
ラーメンばっかり食べている男が道のど真ん中で決心する。『いつもとは違うもの』とは言いながら口の中はラーメンだ。目がラーメンの文字を無意識に探している。
「大通りのラーメン屋は一通りいったし、少しここから離れた場所のひっそりしたところに行ってみようかな。隠れた名店探し…いい休日になりそうだな!そうと決まれば歩き回りますか!」
ラーメンのことはいったん頭から話そうと首を振ってから歩みを進める。バイトの疲れと課題のことは完全に食欲によってどこかに行ってしまった。まるで獲物を狩るハンターのような眼差しで脇道を歩いていく。完全に不審者のそれだが食欲には不審者も勝てなかったようだ。
―2時間後―
「あ~どこもおいしそうで迷った挙句、悩みすぎて家の近くまで帰ってきてしまった。結局ラーメンになっちゃうのかなぁ…。今何時だ…。」
スマホの液晶には15:34と表示されている。もうおやつ時だ。
「はぁ、コンビニで済ますか…。ってそういえば家の近くとはいえここら辺はあんまり来たことはなかったな。駅方面しか散策してなかったっけ?なんかあるかな…。」
駅に向かう法とは逆方向の落ち着いたところ。人通りもそこまで多くなくおしゃれな服屋とか書店が並んでいる。モダンな雰囲気とはこういうことなのかなと思案する。
ひょこひょこと周りを見つつ歩いているとふと目が留まった。
「喫茶かる…かるま…かるめか。おしゃれなのに落ち着いてんなぁ。」
そこまで大きくはないが民家を改装したような白を基調にした店構え。看板には『喫茶CALMER』と書いてある。窓越しに店内をのぞいてみる。老夫婦であろう二人が語り合っているのが見て取れる。その時目が留った。
「すっげぇイケメンがいる。あの人が店主かな?」
のぞいた感じホールにいる女性一人とイケメン一人でやっているようだ。
「いらっしゃいませー!何名様でしょうか?」
「え?あっ。一人です。」
「おひとりですね。お好きな席へどうぞ。」
気が付くと入店していた。いわれるがままに席に着く。オープンキッチンで何をしているかわかる位置、カウンターに座る。女性の店員からメニューを受け取る。サンドイッチやカレー、パスタなどおいしそうな写真と一緒に載っている。
「お決まりでしたらご注文お聞きしますよ。」
男性的だけど落ち着いたような声色が自分に向けられる。顔を上げるとさっきのイケメンが目の前に立っていた。黒髪短髪で制服を着ているためバーに居そうだとか思ってしまった。ここは喫茶店。
再びメニューに目を落とす。コーヒーや紅茶、ココアや各種ジュースなど飲み物も種類が多い。
「フレンチトースト?」
前に『果物いっぱいのフレンチトースト』と個別のメニューとしてあった。
「うちの看板メニューですよ。よかったらどうですか?ほかのよりちょっと値は張りますが、コーヒーとか紅茶とかにも合いますよ。」
イケメンがおすすめしてくる。パスタも捨てがたいと思っているときにさらに進めてくる。
「パスタの大盛だけじゃなくパンの量も増やせますよ?」
「ぐぅ~(腹)」
腹が返事をした。体は正直というやつか。
「じゃ、じゃあフレンチトーストを…。飲み物はブレンドコーヒーのホットで…。」
「あはは。かしこまりました。今御作りしますのでお待ちください。」
恥ずかしい。なんてときになるんだ俺の腹は、と自問自答しながら赤面する。てか声がよすぎて耳まで熱くなっている。込み合っていたら周りに丸聞こえだっただろう。
「あ、そうだ。ソースはどうします?二種類選べますけど。」
メニューにはミックスソースのほかに苺、キウイ、パイン、みかん、バナナの六種類用意されている。
「そうだなぁ、おすすめとかありますか?」
これだけの種類があると悩んでしまう。
「僕のおすすめだったらパインと苺がおすすめですよ。パインはさっぱりした甘さで苺は純粋に来る甘さなのでパンと果物につけた時の印象がガラッと変わりますよ。」
「じゃあそれでお願いします。」
「わかりました。ではしばらくお待ちください。」
目の前で調理が始まる。16等分に切られた一枚のパンが液に浸される。すぐに染みこんで黄色になったパンがマーガリンを溶かしたフライパンで片面ずつ焼かれていく。蓋がされ蒸し焼きのような形に。片面を焼いている間に苺、パイン、グレープフルーツ、キウイ、パイン、ブルーベリーが準備される。果物いっぱいとだけあってそれなりの量乗せてくれるみたいだ。果物特有の甘い香りが目の前に広がる。
両面がきつね色になったパンがいい香りを漂わせてくる。焼けてほのかに香る果物のにおいに食欲がさらにそそられる。白い器に今焼いたパン、その真ん中にディッシャーで丸くとられたアイスが乗せられそれを囲むように果物がきれいに盛り付けられていく。黄色だけだったのがまるで虹色かのようにきれいに彩られていく。最後に粉糖が雪のように薄くかけられる。そしてソース。黄色と赤色のソースが器に盛られる。そして後ろで準備されていたコーヒーの香りが鼻腔をくすぐられる。
「お待たせしました。ブレンドコーヒーとフレンチトーストです。パンと果物はそれぞれソースをつけてお食べください。おいしいですよ。」
目の前に置かれた虹色のフレンチトースト。果物が溶けて粉糖と水分で光り輝いている。
ごくりとあふれかえる唾液を飲み込み、
「…いただきます。」
パンをパインソースにつけて口に運ぶ。
「う、うま…!?なんだこれ美味い!すごいさっぱりしてるのにがっつり甘いのが来る!」
苺ソースにもつけてみる。パインとは違いすっきりとした甘さが口の中を覆う。優しい甘さだ。
「お口に合って何よりです。」
イケメンが満面の笑みで笑いかけてくる。まぶしい。
「これすごくおいしいですよ!はまっちゃったかも…。」
「ありがとうございます。うちの看板メニューですから胸を張れます。」
どやっと胸を張るイケメン。その様子を見るに店主なのだろう。誇らしげだ。
そうこうしているうちにすべて食べてしまった。果物も単体で食べる、アイス、ソースにつけて食べるなど様々な食べ方があり飽きが来なかった。
コーヒーをゆっくり飲み干し。
「ごちそうさまでした。」
終始驚きながらも食事を終えた。隠れた名店を見つけてしまったようだ。
「お兄さんは見たところ大学生?この辺に住んでらっしゃるんですか?」
「はい!そうです!普段は駅方面しか行かないんですけど、せっかくの休日なので反対側にふらっと来てみたらここを見つけて。」
「そうなんですね。ありがとうございます。ここ二年前にできたばかりでここまで喜んでくれるお客さん初めてなのでものすごくうれしいです!」
イケメンスマイルがまぶしい。とここで何かに気づいたような顔を見せた。
「失礼、口元にソースがついているので。」
口元についていたソースをそっと拭き取られる。どきっとした。
「あ、ありがとうございます。」
恥ずかしい、食べるのに夢中すぎたようだ。
「いやここを見つけられてよかったです!いつもラーメンばっかりだったのでいい日曜日になりました!」
「それはよかった。もしよかったら次お腹が減った時は来てくださいね。他のメニューもありますので。」
こくりとうなずく。次も来よう。なんなら明日も来たい気分だ。時間を見るといい時間になっていた。
「それじゃあごちそうさまでした。また来ます!」
「はい、お待ちしてます。」
会計を済ませて店を出る。イケメン店主と女性店員に笑顔で見送られながら。イケメン店主にドキッとしたことは少し疑問に残っているが満足感で忘れていた。
店をスマホの地図にお気に入り登録する。
「またこよう!」
少し軽くスキップしながら帰宅する。自分の生活に彩が増えた気がする。次は何を食べようか、どのソースにしようか考えながら自宅へ向かうのだった。
が、帰宅して昼寝をした彼が課題に追われるのはまた別のお話。
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