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ラpiリンス  作者: 和寂
2/7

1:4

さて、この大量に出してしまった物達どうしよう。


水やら棒やら金属やら。

デブリベルトってこんな感じなのだろうか。


「ねえ。これどうする? トイレみたいにその辺に捨てて行くわけにもいかない気がするけど」

「だよねぇ」


うーん。


「Nuclear?」

「マジモンの黒歴史じゃん。っていうかデブリごとあたし達が蒸発するでしょ」

「それもそうか」


暫しの静寂と、時折宙を漂う物同士の衝突音。


ふと何かを思いついたのか、妹君が1番大きな水塊に向かって手を伸ばす。

そのまま見ていると、輪郭がぼやけ、ふっとかき消えた。


「まさか消えろって念じたとか?」

「そうよ、そのまさかよ」


なんのこっちゃない、消せるのだった。

「じゃあ手分けして消していこうか」

「あい」


近くにあった金属塊に意識を向け、消えろと念じる。すると1秒もしないうちに輪郭がぼやけて消えていく。とことん御都合主義だな。


……?


「なあ妹よ」

「ん?」

「消えろって念じたんだよね。」

「うん」

「……初めに消したのって確か20tの水だよね」

「多分。……どした?」

「20tの水が一瞬で完全に消滅したら真空になるんじゃないの?」

「……確かに。……え。じゃあここ元々真空ってこと?」

「いや、消滅させたら自動で空気が補充されるとか?」

「えぇ……」


確かめてみるか。

蝋燭とライターを出す。


「ライターだけでいいでしょ」

あ、そうか。

少し動転していた。

シュッと火花は散ったが、火はつかなかった。


「……つかないね」

「ということは真空なのか」

「それはどうかな。酸素がないだけ、とかも考えられるけど」

「ふむ。どちらにせよ俺たちは窒息してないんだな」

「そうね。生きているというのは、それだけで喜ばしいことだね」

「結局真空かどうかはわかんねえな」


わかったのはいのちのかがやき。


「あ、じゃあ兄上。ちょっと耳栓してみて」

「ん」


ゴム製の耳栓を創って耳にはめる。

「いいぞ」

猿のように頭の上で手を叩く府蘭。

音は聞こえない。

「かわいいな」


『すぅ……府蘭! お兄ちゃんのこと! だぁーいすき☆!!』



……


「あの、唐突なキャラ崩壊やめてもろて」

「いいじゃん別に。聞こえても恥ずかしくないし」

「そうか。まあとりあえず音というか声は仮想空気(仮)みたいなものを伝播してるってわけでもなさそうだな」

「距離とか色々検証したいね」

「だな」

「まあでも、とりあえずこのデブリを片してしまおうか」

「りょーかい」


***


「さて、これからどうしたものか」

「今日はもう疲れた。なんか楽しいことしたい」

「例えば?」

「S○X!」

「やめないか!」

「んっふふふ。……まあ冗談はさておき」

「それが冗談であることにお兄ちゃんは安心したよ。」


そもそもこの空間は何なのだろうか。

目的地はどこだろうか。

何故俺達はこの空間にいるのか。

俺達は何をすればいいのか。


「そもそも無重力環境で上手くできるもんなの?」


「え。その話引っ張るのか」

「いや、元の世界でやったことある人居ないわけじゃん。ISSでおっぱじめるわけないだろうし。なら気になるでしょ」

「そういうもんか? まあそもそも妹相手に勃つモノがないという話だが」

「こんなにかわいい妹なのに?」

「うーん。かわいいから勃つってわけでもないよ」

「じゃあ何が足りないのさ」

「色気」


……


「……はい」

「いやなんかごめん」

「謝らないで。余計傷付く」

「そうか。この話を引っ張ったのはお前だがな」

「……」

「お兄ちゃんはいつでもかわいい妹の味方だぞ」

「……」


何故か残念な感じになった妹を横目に、改めて辺りを見渡す。


見渡す限り何もない空間が拡がっている。

光源がある訳ではないのに瞳にハイライトが無い妹の顔ははっきり見えるというか、陰影(いんえい)が存在しない。


やはりかなり異様な光景である。


四方八方から見えないだけで平行光線が当たっているのであれば影ができる筈なのだが、それもない。


左手に見える光点は相変わらず静かに光っているだけだ。



「あ、そうだ。重力が欲しい」

「え」

「え?」

「え?」

重力、、、だと?正気か貴様。


「重力ってあれだぞ。全ての肉体的苦痛の元凶、諸悪の根源、魂を地の底に縛り付け、戦いを生み出す権化だぞ?」

「いやそこまで言わなくても……いや間違いではないけど。でも実際のところ、日常生活の上ではすこし不便なのよ。トイレ然り風呂然り。洗濯はしなくてもいいけどさ」

まあ、それはそうだ。


2日目の夜、妹がトイレに行きたいと言い始め、携帯トイレを出してその中にすることになった。

因みに先程初めて出した物を消せることが判ったわけだが、今までの分はポイ捨てである。

許せこの名も無き世界よ。


御都合主義なんだからそういうところもちゃんとして欲しかったが、腹は減るし用も足さないといけないらしい。世知辛いな。


「あと、そろそろ湯船に浸かりたい。日本人としては」

「そんなに根っからの日本人だったのか」

「もちろん。正月に神も仏も気にせず初詣とやらにに行って小銭を撒き、若人が命を燃やして走る様を観ながら餅を食い、2月にはチョコを配って真偽不明の建国記念日を祝い、2月に配った3倍の旨いものを回収し、年度初めには嘘を吐きながら面識のない誰かの復活祭と昭和天皇の誕生日を祝い、あまりにも変わらない憲法制定を祝い、土用の丑の日には鰻を食べ、敗戦国の末路を先祖に()びながら盆は踊って墓に参り、10月末には訳も無くお菓子を強請(ねだ)り、クリスマスには知らない人の誕生日ケーキを食べる、生粋(きっすい)の日本人だが何か」


ところどころアレな部分もあるが、(おおむ)ね間違っていないな。


風呂。それは命の洗濯。

宇宙空間だと水は貴重だから元の世界の宇宙飛行士も湯船なんて贅沢品はなかっただろうし、そもそも無重力環境下で湯船に浸かるなんて事はできないと思うのだが。


しかし、久しぶりに湯船に浸かってゆっくりしたいのも事実だ。


蒸しタオルで体を拭くだけではやはり気分が悪い。せめてシャワーくらい浴びたい。


「身体を拭いてきれいにするのは清拭(せいしき)って言うんだって」

「そうか。なんで伝聞形式?」

「これ書いてる人がさっき漫画で読んだから」

「思いのほかメタ過ぎる理由だった」

「虚構新聞の市田さんが描いてる まんが欄の記念すべき第300話『4コマ』に出てくる話だよ」

「情報提示ありがとう。市田さんのまんがが好きなのはわかったからとりあえず離れよう」

「正式には清拭、アハハ」

「アハハじゃねー。って元ネタのやり取り真似すんな」


とはいえ蒸しタオル改め清拭でずっと過ごすのは流石に嫌だ。何かいい案はないだろうか。


「のどかわいたー。ポケリスエットだしてー」

「え? さっき出したじゃん」

「もう全部飲んだよー」

「ていうか自分で出せるのでは?」

「……それが不思議なことにできないんだって」

「えぇ……」


また謎が増えた。

かわいい妹がいくら手のひらを睨みつけても出るのは水だけだ。

「悪化してない?」

「……うん」


以前オレンジジュースを出そうとした時は、薄いみかん風味の液体が出ていたのだ。


「あ、いや悪化はしてないのか」

「?」

「単に元のポカリスエット自体濃い味のものじゃないからね」

「あー。そーゆーことね。完全に理解した」

「それはわかってない奴のセリフなんだがそれはともかくとして」


風呂ねぇ……風呂……ユニットバス……シャワー……シャワーヘッド……湯船……水道代……光熱費……家賃……滞納……夜逃げ……ホームレス……不衛生……生活保護……QOL……衣食住……風呂なし東向き1LKの六畳一間……なにかんがえてたんだっけ……


「お風呂でしょ」

「そうそれ。で、なんで君は僕の思考の中に返事ができたのかい?」

「えーそりゃあだってー……妹だもの♪」

みつを。って付くやつか?

頼むから身体をくねくねモジモジさせながら言うな。

「ごめんって」

まあいいけども。


シャワーは水道というか水圧を掛けないと難しいだろうしマジで色々難しそうだな。


とは言っても湯船というか大量の水を溜めておくにも無重力じゃあ無理だし……



いや、待てよ。さっき水を大量に出した時、球状に(まとま)ってたよな。

お湯を大量に出せば、浸かれるのでは?



「府蘭、風呂入れるぞこれ」

「え。ほんと?」

「まあ見てなって」


10tのお湯45°Cを生成。

服を脱ぎ始めると察した妹も負けじと服を脱ぎ、我先にと湯に飛び込む。


「あつっ」

「んっ……ふぁー……」

「おー……これはいいな……」


水の中で器用にくるりと回って腕の中に入ってくる府蘭。


湯船どころか周りには何もないのに温かいお湯に入っているという不思議な感覚だが、とても気持ちのいい湯加減だ。


思わず寝てしまいそうになる。


湯船(ゆぶね)()かったままの寝落ちは失神(しっしん)とほぼ同様の状態。そのまま脱水症状(だっすいしょうじょう)になったり(おぼ)れたり最悪死に至るのでマジでやめましょう


唐突の注釈終わり


「なんか、露天風呂より開放感あるね……」

「まあそりゃあ、上下前後左右、全方向何も無いからねぇ……」

「…コンクリートの足場も消したんだっけ……」

「そういえば消してしまったな……」

「………」

「………」



〈〈〜〜♩〜〜♩〜〜♩〉〉


 

 突然爆音で響き渡る、間伸びした鐘の音。

 

 「もうお昼か……」

 「みたいだね」

 

 これで鐘の音がするのも5回目になる。

 

 「初日の府蘭のビビりかた面白かったなぁ」

 「そりゃいきなりあんな音がすれば……」

 尻すぼみに黙り、うなじが少し赤くなる府蘭。

 

 「まあ漏らすほどとは思わなかったなぁ。」

 「——っ!」

 「もう中学生にもなる妹が涙目でお漏らししてるのはちょっとかわいぐほぅ」

 「しね!」

 「——っ!」

 きっ、キン◯マがっ……

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