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カクヨムにて一話を逐次更新している作品をを分割投稿し読みやすくした(当社比)ものです。
よろしければカクヨムの方も御覧ください。
目が覚めると真っ黒な空が目に入る。
いや、実際のところ空かどうかはよく判らない。
とりあえずただの虚無だ。
今自分が横たわっていたのは昨日見つけた10m四方のコンクリートブロックらしき物体で、隣には妹がまだ寝ている。
体をくくりつけていたロープを床面から外し、勢いをつけすぎないように慎重に立ち上がった。
とは言っても重力があるわけではないので、立っていると言うよりは接していると言うべきかもしれない。
腕時計は2001年1月5日の9時14分を指している。
この日付と時刻はほぼ便宜的なものだ。
とりあえず寝ていた平面に座る。
妹はまだ起きない。
ぼんやりと遠くを眺める。
何もない空間に遠近という概念はないのかもしれないが。
この世界には太陽らしきものがない。
全ての物体は不自然に均一な明るさで視界に映っている。
ふと見回し、いつもの光点を探す。
見当たらないので左手で杭を掴みながら、右手で座っているブロックに力を加えた。
これでゆっくりと回り始めたはずだ。
隣の妹がもぞもぞと動き出す。
今の衝撃で起こしてしまったらしい。
「……おはよう」
「はい、おはよう」
ゆっくりと起き上がり伸びをする。
猫みたいだな。
「今日も夢から醒めることは無し、と」
「まあ夢かどうかは判らないけども」
「ほぼ夢みたいなものでしょ」
そう言いながら妹は手を出してじっと見つめる。
手のひらの辺りが少しぼやけたと思ったら、チョコたっぷりなザッハトルテがあった。
「これはやっぱり夢」
ついでにむしゃむしゃと頬張る妹。
夢ならカロリーも気にしなくていいってことか。
まあ、確かにそうかもしれない。いや、そうか?
ここでは、イメージしたものが実体化する。
「とりあえず俺も朝ごはんにするか」
ビックマックをイメージ。
焼き目のついたバンズ、肉汁の溢れるパティ、レキレキのシャタス、瑞々しいトマト、濃厚なコクのあるチーズ。。。
「お、良いね」
これは間違いなく本家より美味しいものができた。
ついでにファンタグレープも実体化。
「あ。私のもお願い」
「いや自分でやろうよ」
不満げな顔をする妹。
「飲み物出すの苦手って知ってるでしょう」
「はいはい」
そう、イメージで作るからうまく思い浮かべないと変なものができる。
試しにファンタグレープを単体でイメージする。
「あ、まーた意地悪するんだ」
まあ球状にファンタが発生する。ストローは付けてやるか。
「はいどうぞ」
「鬼畜兄貴め」
言いつつもストローを咥えて吸い込む妹。
割と面白い絵面だな。
ふと頭上を眺めると、探していた光点が見える。
「……あれ、行けるのかね」
「さあ。行ってどうかなるの」
暫くの咀嚼音。
「イメージでなんでも生み出せるのは良いけど、生み出してないものがこうやって偶にあるのは何なんだろうな」
「んー、さあねー」
ちゅーーっズッ。
手元にあった食べ物がなくなった。
「さて、こっからどうする?」
吸うものがなくなったストローを上下させる妹。
「ふぇつにふぁざわざひどうひなくてほ
「喋るならそれ取ってからで良くないか?」
ストローを上下させながら喋るのはすごくアホっぽい。
「まあ確かに延々と光点に向かって進むのも流石に飽きたな」
「生身で進まなくてもいいんじゃない?」
「たしかに」
最初は無我夢中で唯一明確に視認できる光点を目指していた。
2日目くらいに食料が生み出せることに気付き、ついでに物も生み出せることが判明。
その日は久しぶりの食事と2日分の疲労も相まって、初めての睡眠となった。
いつの間にか離れ離れになるかもしれないと思うと寝るに寝られなかったからだ。
命綱は精神衛生上、とても重要だった。
そもそもこんなのんびりとした思考をしたのも初めてだと思う。
この世界に来てから恐らく5日程経って、昨日は初めて平面で寝ることができたので、色々と落ち着いたのかもしれない。
人は土から離れて生きることはできないということか。
「ねえ。今ふと思ったけど、実在しないものは創れないの?」
「一昨日、ストライク出そうっていって結局何も出なかったじゃん」
残念ながら作れなかったのだ。
結構細部まで鮮明にイメージしたのにも関わらず、本物はおろかハリボテすら現れなかった。
起動画面を見て、GUNDAM……? とかしたかったのに。
「それなんだけどさ、デカ過ぎたんじゃない?」
「……なるほど?」
大きさか。
制限が大きさだけなら組み立てたらいいか。
いやそれはそれで面倒だな。
なら元々分離しているター◯Xとか?
「また黒歴史を繰り返すつもり?」
①
「お部屋は気に入って頂けましたかな?」
「戦闘中の灯火管制が気に入りません。私は明るいほうが好きです」
「すぐに終わらせます」
「……いや、なんでターンX無関係のシーンを……いや、そうじゃなくて。とりあえずガン◯ムからは離れて」
「はい」
ノリのいい妹である。
❷
「我が世の春が来たァ!」
「兄貴の時代は一生こないよ。いや、そうじゃなくて。いや、そうなのかもしれないけどとりあえずガン◯ムからは離れて」
「はい。」
さらっと酷いことを言われた。
③
「このターンXすごいよ! さすがターンAのお兄さん! スモーのエネルギーはすべてもらっている、ゲンガナムの電力をいただいたようにな! わかっているのかハリー・オード!!」
「ユニバァァース!!!?」
「月光蝶である!」
「いや、長いのよ。チームワークでぇ! もいいから、とりあえずガン◯ムからは離れて」
「はっ、仰せのままに」
分岐終了
「じゃあストライクはデカ過ぎたとしても、具体的な限界は調べた方がいいかもな」
よし、じゃあ同じ前期GATシリーズの
「先に言っておくけど、ブリッツは見えないから出せるとかはないと思うよ」
「……はい」
釘を刺されてしまった。
ま、物差しでも出してみるか。まずは一尺から。
竹尺をイメージする。
「これ何m?」
「一尺」
「……なんでメートル法じゃないの」
「なんとなくです、すみません」
「んでその一尺は正確なの?」
……それは考えてなかった。
イメージによって作られるのだから一尺の長さも変わるのか?
「我が妹君よ。一尺の竹尺を」
「よしなに。いや、1メートルで良くない?」
「とりあえず出しちゃったし一尺で」
「ん」
妹の手の上に竹尺が現れた。
先程出したものと合わせてみる。
「これは凄い。目盛りも目盛りの形も同じだ」
「だね。ということは思い浮かべるのは数字の部分ってことかも」
ふむ。
じゃあ1メートルとかもそうなのか?
まあいいや、とりあえず続けよう。
いっけn
「今度はメートル法でね」
「……はい」
気を取り直して続けよう。
5m——出た。10m——出た。20m——出た?
「ちょっと待ってこれどういうこと。ストライクの全高は17.72mだぞ?」
「じゃあ体積か質量でしょ。ちょっと落ちいて」
「……はい」
じゃあ10Lの水から。
***
結論から言うと制限はないように思える、ということだった。
「結論出てねぇじゃん」
「……条件がよくわかんない。GAT-X105 Strike 全高17.72m 本体重量64.80t。でも水は100tは出た。となると重量制限じゃない。んー……」
そのまま妹は黙ってしまった
いまいち条件が見えて来ない。
例えばライトセーバーは出なかった。
正確にいうとそれっぽい物は出たが強力な赤外線光が出ただけだった。
とはいえ普通に|コンクリートが溶ける熱量《ということは1,200°C越え》だったけど実体はなかったので鍔迫り合いはできない。(そんな設定のビームサーベルがどこかにあったなあ。いや、リマスター前ならできるな)
閑話休題
他には立体機動装置を出してみたが、ガスやワイヤーなどもイメージした原作通りに再現されていた。
試しに吹かしてみて離れ離れになるところだったのはさておき。
移動手段としては必要ないけど男のロマンだな。
「喉渇いた。なんか出して」
「目の前に頭悪くなりそうなくらいの量の水があるよ」
「いや、うーん。なんかコレは飲みたくない」
「なんで?」
「……なんとなく」
わからなくもないが。
水分補給ならポカリスエットが1番だ。
500mlのポカリのペットボトルを出す。
ポカリスエット®︎
……あれ?
「ねえ出したならちょうだい。焦らしプレイは嫌いじゃないけど今じゃないと思う」
改めて手元に出したペットボトルをまじまじと眺める。
「なあ、これわかったかも」
「え?」
試しに「ティッシュ」ではなく”Kleenex®︎”を思い浮かべる。
「出た」
「ティッシュじゃん。このかわいい妹をオカズにするってこと?」
「やかましいわ。かわいい妹はオカズになんかならねぇよ。そうじゃなくてだな。おそらく登録商標か一般名詞はイメージがなくても補完されるんだよ」
「なるほど?」
「今ポカリスエットを出したけど、俺は詳しい成分比まではイメージしてないんだよ。知らないし」
「……ってことは?」
「おそらく固有名詞がグレーゾーンなんだと思う。ライトセーバーとか立体機動装置は完全にイメージ通りの形状だった」
「……なるほどね。とりあえずそのポカリちょうだい」
「あ、はい」
ひったくるようにポカリを受け取った府蘭は、キャップの封を開けてから無重力であることを思い出し、でも面倒だと思ったのかストローを出さずに飲もうと試みるが、やはり飲みにくそうにしている。
見ている方がもどかしいのでストローを出した。
「……どうも」
……