第1話 プロローグ
魔王ノワルが【転移の宝玉】で魔王城から姿を消してしまった頃、魔王城を我が物顔で歩く女の姿があった。
その女は事を急ぐようで身体を揺らし早足で歩く。赤紫色した長い髪をなびかせ、高低差が大きい歩行に、わがままな胸は身体の揺れを後から追う。
「おーい!ノーワルー!」
女は城中に響くほどの大声を出して魔王ノワルを探している様だ。
声をあげるその口元の八重歯は妙に愛くるしい。
すると、廊下の角を曲がった先を見ると、魔王城の宝物庫が、何やら騒がしいのを確認したので、自身の手がかり欲しさに向かっていった。
「ラ……ライザ様‼︎」
入り口付近の配下が女を確認すると、慌てた様子で書物庫への道を開けた。
女の名は"ライザ・エルヴォア"
魔族領西の領主であり、魔族の中でも洗練された類い稀なる力を持つ幹部の1人である。
その抜群のプロポーションにエレガント且つ高貴なミディアム丈のワンピースに身を包み威光を放つ。
「お前達!ノワルはどこじゃ?いつもの書物庫にはおらんではないか。まさかまたいつもの隠れんぼか?」
前代未聞の事態を未だに理解出来ない配下達は、誰もライザの問いに答えられないでいた。
ライザは宝物庫の中のラートムの姿を確認する。
「ラートムよ!ワシのノワルはどこじゃ〜?」
ライザがラートムに話かけるが、ラートムの今まで見たことの無い状態に気付き、何か唯ならぬ事態になっているのを理解した。
「ラートムや! どうしたのじゃ?」
ラートムはライザの問いなど聞こえておらず、ぐしゃぐしゃな顔で咽び嘆き続けている。
「ラートムや! ラートムや!おいっ!」
まだ気づかない…
「ラートム‼︎ ラートム‼︎……ッッッ……」
ライザは何度問いかけても誰も反応が無いことにとうとう苛立ちに限界がきた。
「お前らぁ……‼︎」
そう言うとギッチギチに握った拳を振りかぶり、鬼の様な形相で、首を垂れ膝をついて嘆いているラートムの後頭部めがけ力一杯振り抜いたのである!
凄まじい轟音とともに殴った衝撃が魔王城の外にまで響いた‼︎
城内はまだビリビリと衝撃の余韻が残っている。
宝物庫は衝撃により巻き上げられた砂煙が立ち込め、金品や飾らせている剣などは、どれも地面に無残に転げ落ちている。
巻き上がった砂煙が晴れてきた……。
ライザは清々しい表情だ。
ラートムはというと、顔面は地面にめり込み、身体は臀部を頂点にくの字に曲がっている。
そして、ムクッと立ち上がった。思ったより無傷だ。
「これはライザ様。お久しゅう御座います」
(良かった…。いつものラートム様だ)
配下達は安堵の共通認識を得た。
「うむ!」
「この程は私のお見苦しい姿を晒してしまい、誠に申し訳ありません」
ラートムはライザに陳謝した。
「よい。それよりノワルの姿が見当たらんのじゃ。あやつはこの城より外へは出られんと言うのに…」
「……‼︎」
「おぉぉ…うぉぁぁ…ぅう……(嗚咽)」
ラートムは今しがた起こってしまった非常事態を思い出し、再びショックを隠し切れず我を忘れてしまったのである。
「ええい!女々しい‼︎」
ライザは再び正気を失ったラートムに容赦なく平手打ちをかます。
配下はその光景をただ見ているしかなかった。
「これはこれはライザ様。お久しゅう御座います」
「うむ。それはさっき聞いた」
「失礼。先程から記憶が曖昧で……」
ラートムは肉体的にも精神的にも受けたダメージが消化されていないようだ。
「今一度問う。ラートム!ノワルはどうした?」
「はっ!実は………」
正気を取り戻したラートムは、ライザに事の顛末を話した。
・・・・・・・
「なーーーーにーーーーっ‼︎‼︎」
ライザは予想だにしない事態に驚愕した。
「これからどうするのじゃ!」
「それは、私達も先程この事態に直面したものでどうしたらいいものやら…」
ラートムは激しい動揺で考えがまとまらない。
ライザは眉間に皺を寄せ、目をつむり考えた。
「よしっ!」
「何か考えでも?」
ラートムは期待を胸に問う。
「私がノワルを連れて帰ってしんぜよう!」
「ライザ様がですか⁉︎」
「しかし、ノワル様はどこへ転移したか皆目検討もつかないのに……」
ライザは自信有り気に答える。
「それくらい簡単じゃ!私とノワルは赤い糸で繋がれておる!」
「どこにいたって私はノワルをみつけだせるのじゃ!」
まさかの答えにラートム含め配下達も空いた口が塞がらない。
「ラートムはノワルが不在の間、魔王城を留守にする事はできぬだろう?」
「配下どもも不用意に持ち場を離れられん」
「それに私は暇を持て余しておる!」
(いやいや、貴女の領主としての責務は………)
ラートム含め配下達は内心、ライザにツッコミを入れる。
「そうと決まれば早速出発するのじゃ〜!」
「今からですか⁉︎」
「当たり前じゃ!善は急げというじゃろう?それに、愛は愛のためだけに報われるのじゃ!」
(す、凄い説得力だ………)
配下達はもうライザを止められる事はできないと悟った。
「よーし!待っておれ‼︎我が愛しの婚約者よ〜‼︎」
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では、次話でお会いしましょう。
※本作の本編である『冒険者パーティーのサポーターに魔王はいかが?』も是非よろしくお願い致します。