・・・・気が付いていたのかよ・・・。 否定しないのかよ・・・・。
(弓子さん・・・。)
俺は<喫茶 弓>で、数え切れない位、弓子さんに接客してもらったが、これまで全く関係には進展はない。
どうゆう関係かって?
それをオレに言わせるつもりなのか・・・・。
自分の口からは、いい感じになりたい、としか言えない。
そうは言っても、俺の願望の枠からは、はみ出てくる様子は無いのだが。
まあ、それでも俺は、この状況に不満を持っていなかった。
つまり自分にとっては、彼女は手に届かない存在なのだ。
このままずっと、弓子さんを眺めて居たい・・・。
でも永遠などというものは、この世には存在しないのか・・・・。
自分勝手な想像をして、珈琲を飲んだ俺は感情を済ませ<喫茶 弓>を後にしたのだった。
帰宅したオレは、机に向かって<喫茶 弓>の事を・・・、いや弓子さんの事を考えていた。
マスターの話によると、娘の弓子さんも一緒に引っ越しするらしい・・・。
しかも、その引っ越し先は北海道だというのだ・・・。
この東京から、ちょっとという訳にはいかない距離だ・・・。
このまま俺と弓子さんの関係は、自然消滅するのだろうか・・・。
オレは答えの出ない自問自答を続け・・・・、寝不足になった・・・。
====== バシン!! ======
「あたっ!!」
加減もなく平手で背中を叩かれ、俺は大きな声で反応した。
「ようっ!!」
特に悪びれもなく、この女は挨拶をしているつもりなのだ。
「はあっ。」
そんな彼女に対して、俺は怒る気力もなく気の抜けた相槌を打ったのだった。
「ふーん。ふんふーん。」
何故か鼻歌でスキップをしながら、女は廊下の向こうに行った。
まあ、どうせ教室では自分の前の席に座るのだが・・・。
特に友人のいない俺は、教室に入ると自分の席に着いた。
前の席のガサツ女は、まだ席には着いていない。
まあ、どうでもいいのだが俺は周りを見回した。
あの女は、友人達と話していた。
女性達の声は、とても甲高く内容も完全に把握できたのであった。
もっとも、その話題は芸能界のモノが殆どで、自分に取っては、特に重要な領域ではないのだが・・・。
しかし俺は見逃さなかった。
このガサツ女が瞬間的に見せた、寂しげな表情を・・・。
それは普段の女からは、想像できない、しおらしい顔であった。
いつも通りに、一日の授業は進んだ。
そして、いつも通りに、一日の授業は終わった。
「はあ・・・。」
いつも通りに俺は、一人で歩いて帰宅しようとした。
しかし校門に差し掛かったあたりで、その目論見は崩れ去った。
===== パン =====
「ん?」
軽く肩を叩かれたオレは、反射的に後ろを振り向いた。
「おうっ。」
「うわっ!!」
我ながら驚くのも無理はなかった。
自分の目の前に、あのガサツ女の顔があるからだ。
「な、なんだよ。」
当然オレは、この女にどうゆうつもりなのか問いただした。
しかし、そこで意外な反応があったのだ。
「ん・・・・。」
(な、なんだ・・・。)
女は制服の裾を自分の手でさすりながら、なんだかモジモジしている。
いつもなら、俺は彼女に対して悪態をつくのだが、今日は違った。
「どうしたんだよ。」
恐らく俺は精一杯優しく、この女に語り掛けた。
それには理由がるのだが・・・。
「う、ん・・・・。」
女は必死に言葉を絞り出そうとしている。
俺には、それが分かるのだ。
少なくとも今は・・・。
「一緒に・・・・。」
「ん?」
「一緒に・・・、帰ろ・・・。」
彼女の頬が、少々赤らめられている気がする。
本当に自分の気にせいかも知れないのだが・・・。
俺は黙って、頷いた。
そしてオレと、この女は並んで歩き始めた。
どことなく、彼女の動作がぎこちなく感じる。
いつも俺に対して、ちょっかいを出してくるのに、今は本当にしおらしい・・・。
そのギャップによりオレの心の中から、今までない感情が芽生え始めていたのだった。
「久しぶりだな。」
「え?」
まるで小さな女の子の様な瞳で、女は俺の顔を見た。
「こうやって一緒に帰るのだよ。」
考えてみたら、コイツと一緒並んで道を歩くのは、本当に久しぶりだ。
たぶん最後の一緒に歩いたのは、もう数年前だろう。
「お?」
俺は気が付いた。
近所の子供たちが遊んでいる公園だ。
かつては俺たちも、この公園で遊んでしたのだった。
「懐かしいな、お前とはここでよく遊んだよな。」
「うん。」
彼女の口数は少ない。
そんなわけで俺は、この会話が止まってしまうと思った。
だから・・・。
「よく砂場で俺たち向かい合わせでしゃがんだよな。」
「・・・・うん・・・。」
やはり彼女の口数は少ない。
だからさらに・・・。
「その度に、お前のパンツ見えてたよな。」
「・・・・・・・・・うん・・・・。」
(・・・・気が付いていたのかよ・・・。
否定しないのかよ・・・・。)
今度はむしろ俺の方が、恥ずかしい気分になったのだった。