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その美しく長い黒髪、端正な顔立ち、凛として真っすぐな背筋・・・・。

 (ん・・・・。)

 何なんだろうか、これは。

 寝とぼけていた俺は、目の前のモノが何なのか理解ができなかった。

 それには模様があった。

 ・・・・いわゆるチェック柄だろうか。

 (んん・・・。)

 寝起きの俺は、現在の状況を十分に把握できていなかった。

 だからまずは、周囲の現状把握が必要と思われた。

 でも自分の視界は、それによって塞がれていた。

 それはなんなのだろうか。

 勿論オレは、それが何か確認するつもりだ。

 しかし次の瞬間に、その必要は無くなるのであった。

 「うっぷ!!」

 その瞬間、俺は思わず声を挙げたのだった。

 「ん!?」

 そうやらソイツも、声を挙げた様子である。

 「うぷぷ・・・。」

 そして俺は、呼吸困難に陥りそうである。

 自分の顔の押しつけられた、ソイツの感触は具体的に何なのであるか、薄々理解し始めていた。

 「ぷはっ。」

 ほどなく俺は、呼吸ができるようになった。

 しかし正直に言って、その呼吸のできない状況は、それほど不快だとは思わなかった。

 何故なら・・・。

 「こらっ。」

 次の瞬間に、オレはデコピンを食らったのである。

 「うぬ・・・。」

 まだ寝とぼけている俺は、自分の額を軽く擦りながら、欠伸をしたのであった。

 「失礼だなあ!」

 そんなオレを見て、ソイツは不満そうな様子なのである。

 「人の尻に顔をうずめておいて!」

 ソイツは自分の尻を摩りながら、誠に理不尽な理論を述べているのであった。

 (お前が勝手に、尻を押しつけてきたんじゃないか・・・。

 もともと俺の机の上に、座っていたようだし・・・。)

 この女は俺が机にうつ伏せになって寝ている間に、その机に腰掛けて友人と喋っていた様なのである。

 状況的に、そう推測される・・・。

 「何を一人でブツブツ言ってんのさ!」

 「いひっ!」

 この女は事もあろうに、俺の頬を引っ張ってきたのである。

 でも、すぐに女は、その手を離した。

 「スケベ!!」

 そう言って女は背中を向け、俺の前の席に座ったのである。

 (・・・・。)

 その一連の女の行動に対して、特にオレはリアクションを起こさなかった。

 それにしても、全くガサツな女である。

 しかし自分としては、彼女に対して違和感を持っていたのである。

 うまく言えないのだが、何というか彼女は無理やり元気を装っているかの様に見えるのである。

 それはカラ元気とは、また違ったモノではないかと見受けられる・・・。


 そうこうしているうちに、週末になったのであった。

 勿論、俺は喫茶<弓>に行ったのである。

 ===== カラン カラン =====

 「こんにちは。」

 「いらっしゃい。」

 マスターは、いつも通りの調子だった。

 「あの・・・・・。」

 オレはマスターに、喫茶<弓>が閉店する事について、問いただしたのであった。

 どうしても、どうしてそうなったのか確認したいのだ。

 その事に対して、マスターは明確な返答をした。

 「ごめんね。もう店をたたんで、親戚の世話で会社に勤めることになったんだ。」

 「そうなんだ・・・。」

 「来週末で最後だから、来てくれると嬉しいね。」

 マスターは優しく言った。

 そう、もう月末は、来週いっぱいまでに迫っていたのだった。

 「いくよ。」

 オレは即、マスターに前向きな返事をした。

 そして勿論オレは、この喫茶<弓>に行くつもりだ。

 正直に言うと、この喫茶<弓>を閉店させるという、マスターの判断は理解ができるものがあった。

 ハッキリ言うと、この喫茶<弓>のお客の出入りは余り活発とは言えないと思う。

 このマスターが、店を畳みサラリーマンになるという選択は、合理的なものであろう・・・。

 理屈では分かっている・・・・。

 でも・・・。

 ===== 俺が行かずに誰が 喫茶<弓> に行く!! =====

 恐らく世間一般に理解できない台詞を、オレは心中で叫んだのだ。

 「いらっしゃい。」

 (!!!!)

 その声に気が付くと、自分の傍には端正な顔立ちの美少女が、立っていた。

 勿論、弓子さんがメニューを取りに来たのである。

 「・・・・。」

 改めて彼女の立ち姿を見ると、黒いチョッキとスカートの服装が、いつもより増してエレガントな雰囲気を醸し出していたのであった。

 「アメリカンを。」

 そんな弓子さんに対して緊張はしているものの、俺は簡潔に注文を伝えた。

 弓子さんは、コクッと頷き言葉を発しなかった。

 本当に飾り気のない、女性である。

 でもこれはいつもの彼女の、接客なのだ。

 そいて俺は、その接客に対して特に不満はなかった。

 世間一般的に言うと、弓子さんのウェイトレスとしての接客は、よろしくないのかも知れない。

 ハッキリ言って、彼女の態度は不愛想だと言えるであろう。

 でも、そこがまた良いのだ。

 その接客マナーの不十分な所を差し引いても、有り余るほどのお釣りがくる美貌を彼女は持っている。

 その美しく長い黒髪、端正な顔立ち、凛として真っすぐな背筋・・・・。

 そして白いシャツに黒いチョッキとスカートが、シンプルな故に弓子さんの魅力を引き立たせるのだ。

 まさに飾り気のない、ツンとすました彼女の態度にピッタリである。

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