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第91話・紅竜とお嬢さまの仲直り?

 「アイナ様、コルセアを送ってきましたけれど……」

 「な、何があったの?ネアスに背負われながら帰って来るとか……」

 『……お嬢さまぁ…わたしぃ、お腹ぺこぺこぉ……』


 日が傾く頃、ネアスに背負われたままお屋敷に戻ってきた。眠い……。


 「あはは……アイナ様。コルセア、すごく頑張ってましたから後で褒めてあげてください。じゃあ、わたしはこれで」

 「え、ええ……ありがとう」


 ネアスからわたしを受け取ったお嬢さまは、そのまま帰っていくネアスを玄関先でぼけーっと見送ると、わたしのお腹が鳴る音でようやく我に返ったみたいで、抱きかかえていたわたしを床に下ろすと、どうにかお座りの体勢になって眠い目をこするわたしと視線の高さを合わせるようにしゃがみ込んだ。


 「……コルセア、お疲れ様。大分活躍したようね」

 『大変でしたよぉ……でもこれでネアスの家のご近所はぜぇんぶ雪消えましたから。明日は学校の辺りでもがんばりましょか?』

 「ふふ、そこまでしなくてもいいわ。それよりお腹が空いたのでしょう?わたくしから厨房にお願いするから、今日は好きなだけお食べなさいな」

 『マジでっ?!』


 現金にも具体的なご褒美に反応して目が覚めたわたしを、お嬢さまはいつものように窘めることもなく、もう一度抱えて食堂の方に連れて行ってくれる。

 ああ、働いた後のごはんさいこぉ。


 『お嬢さまお嬢さま。シクロ肉がさいこーなのは変わりませんけれど、時には鳥肉というのも捨てがたいと思いません?』

 「わたくしは鳥肉の方がいいと思うのだけれど。あなたの好きな味はどれも大雑把で繊細さというものが無いのよ」

 『お嬢さまと違ってわたしは若いからいいんですぅ。それに、わたしは脂身も燃やし尽くせる炎を吹けるんですから!』

 「あなた、若さを売りにするにしてもわたくしを年寄りのように言うのはおやめなさいな!」


 まあそんな風に、ゆっくりめに歩きながら漫才みたいなやりとりをするわたしとお嬢さまなのだった。不思議に、いつも通り。わたしが浮かんでいなくて、二本足で歩いてるところ以外は、ね。

 そして。


 「……コルセア。ごめんなさい」

 『ほぇ?』


 食堂前の廊下に差し掛かる角に立ち止まったお嬢さまが、ポツリとそう言った。

 寸前まで興じていた楽しくおバカな会話から一転しての、少々重苦しい雰囲気。なんかマジレスされるよーな会話あったっけ…おうふ。


 「あなたに悪気が無いことは分かっていたのに、わたくしは変に意地をはって許すことも出来なかった。考えてみればいつも通りのあなたのいたずらなのにね」


 お嬢さまー。いたずらじゃなくてわたしは真面目にコタツの検証してたんですけど。

 言い返そうと思ったけれど、抱き上げられてお嬢さまのほーまんな胸に顔を埋められてたので、それは出来なかったりする。まあこれはこれで気持ちいいからいいかー。


 「お祖父様が仰っていたわ。長く連れ添って、これからの付き合いも長くなるだろう相手に、一時のことでつまらん感情を引きずるものでない、と。言われてみればその通りよね。わたくしは姉妹のように育ったあなたに、いえ、もしかしたらそれ以上のものをわたくしに与えてくれたあなたに、怒ることなど何も無いのよ。だから、ごめんなさい。わたくしを許してくれるかしら、コルセア」


 わたしを胸に抱いたままの格好で、お嬢さまは謝ってくれた。別に謝ってもらうようなこと、無いんだけどな。


 『おほほはま』

 「くすぐったいですわよ、コルセア」


 普段着のゆるいドレスの胸に顔を埋めながら言うと、自分でも何を喋ってるのか分からない。というかそろそろ解放してください、お嬢さま。いいにおいだけど、息苦しいです。

 そう訴えようと、わたしを抱いてるというか締め付けてるお嬢さまの両腕をぱんぱん叩く。爪で傷つけないように、だけれど。

 でも、それも無駄だった。お嬢さまはそこから先に進もうともせず、同じ場所に立ち尽くしたままでいる。なんなの。わたしお腹空いたんですけど……って、わたしは一つの可能性に、思い至った。おもしろい。


 『おほほはま。いまふふはなひふぇふれふぁいと、はふかひいふぉもいをひまふよ?』

 「………何を言ってるのかしら?言いたいことがあるのならはっきり仰いな」


 いやそれが出来ないから放して下さい、とゆってんですけど。まあいいや。放す気が無いならこのまんまで。お嬢さまのお顔を見られないのは残念だけど。


 【ていうかお嬢さま。照れて赤くなってますよね?わたしに赤くなったところを見られたくないなんて、お嬢さまもかーいーとこありますよねー】

 「んなっ?!」


 くふふふ。もともとわたしの会話というのは声を出してするのでなくて、暗素界にわたしの意志を投影して戻って来たものを……まあ難しい理屈はともかく、別に口を塞がれたって発言は出来るのである。普段は声で会話してるよーに振る舞っているのは、なんていうか、雰囲気づくり?


 「あ、あなっ、あなたねぇ…っ!わたくしの、どこが、赤くなっているというんですの!」


 そしてお嬢さまはわたしを取り落としてぶるぶる震えていた。やーん、お嬢さまとても愛らしいですわー。ツンデレも時には悪くないわ。


 『ぷは。あー、やっと呼吸が出来ます。お嬢さま最近またお胸がおっきくなってません?ネアスが時々うらやましそうにしてるの気がついてると思うんです……け……ど……おじょうさま?』

 「…………そうやって毎度毎度、わたくしを辱めて……」

 『いやあの、別に辱めてるというよりは単にからかって…あわわ』

 「どっちでもいいですわよ!もう、あなたは今日のごはん抜き!ご褒美は取り消します!!」

 『ええ────っ?!お、お嬢さまぁ……ペットの虐待は……』

 「ペット?何をほざいてるの?あなたはわたくしの友人であり妹であり、かつ忠実なる下僕。よろしい?ちゃんと自分の立場を弁えなさいな!」

 『それとごはん抜きは関係無いじゃないですかっ!ひどーい!お嬢さまのひとでなしー!ネアスに言いつけてやるーっ!!』

 「やかましいですわっ!主をからかって遊ぶような下僕にはごはん抜きでも過ぎた処遇ですわよ!!」


 床に座ってきゃんきゃん喚くわたしと、わたしに煽られて余計に真っ赤になってるお嬢さま。

 傍から見りゃあ主従仲良くけんかしな、ってなもんだろうけど、ごはん抜き、などというわたしにとっては死活問題を俎上に上げられて仲良くもへったくれもない。

 必死に食い下がったんだけれど、結局お嬢さまのごきげんは直らず、憐れわたしは約束されたごほーびを棒に振る羽目になってしまったのだった。




 その後、わたしはじーさまに救いを求めてその部屋に匿われた。


 「しっかしアイナも怒りっぽいが、おめえも懲りないヤツだのう。ほれ、満足出来る量じゃあねえかもしれねえが、これでも食っとけ」

 『……わ、わーい……じーさまだいすきー……』


 ……二回続けて同じオチなのはともかく、犬用のエサのお皿に山盛りのポテトサラダって……もしかして、じーさま怒ってます?

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