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第85話・紅竜の告解(真摯な願い)

 目が覚めたら知らない布団の中だった。またこれかい。

 前回と同じく、ネアスのベッドの中で目覚めたわたしは、これまた同じようにもぞもぞと這い上がり、布団の端っこから顔を出すと。


 「やっと起きましたわね。この惰眠を貪る駄目トカゲは」

 『……なんでお嬢さまが?』


 わたし、冷静に考える。

 この部屋はネアスの部屋。当然、これはネアスのベッド。

 そこでお嬢さまが寝ていた。

 つまり。


 『………事後?』

 「何の話よ。あなたが話の途中で寝てしまったから、仕方なく泊めてもらうことにしただけじゃない。まったく、主従揃って出入りの職人の家にお泊まりとか、外聞のよろしくないことにも程がありますわ」

 『……ネアスは?』

 「わたくしたちに部屋を貸して、下で寝ているわ。もう大分遅くなっているから、朝までお休みなさいな」

 『えーと、お家には……』

 「今日は泊まることを馬車に伝えてもらったから、心配しなくても大丈夫よ。……もういいわね。わたくしも休ませてもらうわ」

 『はあ』


 広いとは言えないベッドの中、お嬢さまは身を縮こませながらこちらに背中を向けた。ネアスのものを借りたのか、ネグリジェの背中は、なんとも疲れた様子を見せている。


 『……お嬢さま』

 「……なによ」


 だから申し訳ないと思ったけれど、何となく今でしか出来ない話なんじゃないかな、と思ってわたしは話を続ける。


 『ネアスと話をして……どうでしたか?』

 「……わたくしのことを…という話?気持ちは分かったけれど……わたくしがどうすればいいのか、すぐに答えを出せる問題ではないもの。互いに立場もあることだし、ね。だからしばらく保留させてもらったわ」

 『そですか』


 まあ、そんなとこだろうなあ。ネアスには……ネアスのことを好きだと言ってた幼馴染みの男の子がいて、そっちはもういろいろぶっちゃけてしまったからいいとしても、お嬢さまには帝国第三皇子っていうやんごとなき婚約者がいるしね。

 同性ってことを抜きにしたって、殿下の他に愛人がいますー、なんて話が許されるわけないんだし。


 『……お嬢さまぁ』

 「……なにかしら」


 さっきより少し優しかった。これからわたしがする話のこと思って少し腰が引けたのを、敏感に感じ取ったのかもしれない。


 『わたし、お嬢さまに謝らないといけないんです』

 「何のことよ」

 『ネアスには言ったんですけど……わたしには理由があって、ネアスには、いえネアスだけじゃなくってお嬢さまにも、ネアスやお嬢さま自身のものではない気持ちを与えてしまってあって。お嬢さまのことをネアスが好きになったのも、それがあったのかな、って』

 「………」

 『ネアスはそれでも、お嬢さまを好きな気持ちは自分で育てた気持ちだから、って言ってくれましたけれど、もしそれでお嬢さまに迷惑をかけたのなら、ネアスじゃなくてわたしを叱って欲しいな、って。ネアスは悪くないんです。悪いのはわたしで……』

 「コルセア」


 背中を向けていたお嬢さまは、もう一度窮屈そうに体を反転させて、こちらを向いた。

 わたしを見つめる顔は穏やかで優しげだったけれど、わたしは目を合わせられなくなって、目を閉ざす。


 「別にわたくしは怒ってなどいないわ。あの子がわたくしを想ってくれる、というのであれば、それは嬉しいことだもの」

 『え?』


 思わず目を見開いてしまう。窓の外から入り込んで来る薄明かりに映えたお嬢さまは、やっぱり穏やかに笑っていた。


 「……少し、納得がいったわ。その話を聞いて。不思議に思うことはいくつかあったから。この家に来たのは初めてだったのに、何度も訪れていたような懐かしさがあった。ネアスとは何度も衝突した…いえ、わたくしが一方的にその才を羨み妬ましく思っていたはずなのに、何故かあの子のことを心の底から憎むことは出来なかった。それも、あなたがわたくしに与えてくれたものがどこかにあったのであれば、得心する話だと思うわ」

 『………』

 「あなたがどう思おうと、今のわたくしの気持ちはわたくしのもの。その意味ではネアスと同じことよ。だから謝ることではないの、コルセア」

 『お嬢さま……』

 「さあ、もう寝ましょう。明日は一度家に帰って着替えないと」


 最後にわたしの頭を優しく撫でて、お嬢さまは再びこちらに背を向けた。

 疲れた様子はまだあったけれど、そこにわたしを拒むような気色は無くて、わたしは鼻先をそこにぴたりとくっつけ、深く懺悔する。


 お嬢さま。それだけじゃないんです。わたしは、自分のした失敗を許せなくて、それでお嬢さまやネアスに苦しみを与えてしまってるんです。わたしのわがままで、二人の大事な人たちにも迷惑をかけようとしているんです。

 そう思ったら、ため息が、もれた。


 「……コルセア。そう鼻息が荒いとくすぐったいですわよ」


 お嬢さま、ごめんなさい。やっぱりわたしは、罪深い子なんです。

 どうか、この夜が明けたときには……許してくれますか?お嬢さま。

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