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第66話・紅竜の家出(たいせつな友だち)

 ネアスの家は帝都の中でも下町の方にある。

 下町と言うだけあって、山の手と違って賑やかさと活気に満ちていて、多くの職人さんが営む工房と、そこと取引する商人さんが夜になっても往き来している。まあ往き来と言っても仕事してるんじゃなくて仕事の後の一杯だか十杯だかを楽しんでるだけみたいだけど。

 そしていつものように空を飛びながらそんな地上の喧噪を見下ろしてたわたしは、目指すネアスの家の二階にやってきた。ネアスのお父さんは職人としての腕も確かでブリガーナ家お抱えということもあって生活するに苦労はなく、職人街の中でも割かし静かな落ち着いたところに家があるのだ。


 『ネアスー、いるー?』


 宙に浮かびながら背中に賑わいを感じつつ、今までにも何度かしたようにネアスの部屋の窓を爪の先っちょで叩く。まだ寝る時間には早いから、起きているとは思うけど部屋にいるかいないかは…カーテンの向こうに灯りが灯っているのが見えるから、いるとは思うんだけどな。そーいうところしっかりしてる子だし。


 「…っ?!……!……!」


 案の定、カーテンに映った影が揺らいで誰かがこっちにやってくる気配がした。

 少し窓から距離を取ると、硝子窓の枠が下から上に持ち上がる。

 そうしてその向こうから見えた慌てまくる顔に、わたしはのんびりこう告げた。


 『や。いい夜だね、ネアス』

 「コルセアっ?!」


 わたしを認めて目を白黒させてるネアスは、今から寝るところ……ではなさそうだったみたい。それどころか学校の制服のまんま…あれ?もしかして今帰って来たところ、みたいな?


 「どこに行ってたのっ?!みんなコルセアのこと探してたんだよ!!」


 そしてわたしの首を引っ掴んで部屋に引きずり込むと、割と必死めの顔になって怒鳴っていた。ちょ、ぐるじ……。


 「…あ、ご、ごめんね……でもいきなり書き置きしていなくなるコルセアが悪いんだよっ!一体どこに行ってたの?!みんな探してたんだから!」

 『え?……探してって……いたたたたっ!ネアス羽はやめて羽はもげるぅっ!』

 「…あ、ご、ごめんね……それでどこに行ってたの!こんなに心配させてもおっ!!」

 『いやもうそれはいーから。ネアス落ち着いて。わたしもいろいろ考えることがあってね。ちゃんと話すから一回落ち着こ。ね?』

 「うん……ごめんね」


 引っ掴まれるわその状態で上下前後に揺さぶられるわ息も出来ないくらいに抱きしめられるわ。

 なんかとんでもないことになってんなー、とどこか他人事みたいに考えながら、わたしはネアスの部屋に落ち着いた。勉強机の上に。


 「それで、今日は夕方からどうしてたの?学校に顔を出さなかったからお屋敷で大人しくしてると思ったのに」

 『うん。なんだかネアスの顔を見るのが辛くてサボっちゃった。で、お嬢さまが帰って来る前におべんと持って出かけてた。ちょっと一人で考え事をしたくなってね。紛らわしいこと書いちゃってごめんなさい。迷惑かけたよね?』

 「迷惑っていうか……うん、探さないでください、だなんて書き置きされたら誰だって心配になるよ……アイナ様に知らされてわたしも暗くなるまで探してたもの」


 あちゃー。となると今でもお屋敷の人たち駆け回らせてるかもしんない。早いとこネアスと話して帰らなくちゃ……って、なに?


 「うん。こっちこそごめんね。わたしがコルセアにどうしようもないこと相談しちゃったから、コルセアも悩んだんだよね。それで、どうしようもなくなって家出しちゃったんだ。わたしのせいだよね…」

 『ちょ、ちょーちょー。わたし別に家出したわけじゃないんだってば。ただ一人で考える必要があったから……もー、しょーがないなネアスは。時々すんごい泣き虫になるもんなー』

 「ごめん……ごめんねぇ……コルセアに辛い思いさせちゃったんだよね……」

 『ぐべぇっ?!ぐ、ぐるじいってば……』


 とうとう泣き出したネアスに全力のハグをされる。いやハグとはちょっと違うんだろうけど、ただそれでも、泣いてる女の子を振り解くなんて真似がわたしにできるはずもなく、息苦しくはあったけれどしばらくの間はそうさせておくしかなかったのだ。……ネアス、お嬢さまと違って前面のボリュームがアレだから、まあ苦しくないようなむしろ物足りないような…。

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